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最強の召喚士…………かもしれない?

 俺達が執務室に入ると、中には眼鏡をかけた七三分けの中年の男が椅子に座っていた。

 ユノが扉を閉めると、その男が椅子から立ち上がり、愛想良く話し掛けてくる。


「やあ。態々呼び出して悪かったね。まあ座って」

「はあ…………」


 見た感じはインテリ系で、全くギルマスなんて感じには見えないが、俺には何となく雰囲気が他の冒険者達とはやはり違って見えた。

 流石はギルマスと言った所か。


 俺は進められるまま、客用のソファーに腰を下ろす。

 焰華達は俺のソファーの後ろに並んだ。


「ん?皆もこっちに座れば?」


 何故皆が態々立っているのか分からずに俺がそう言うと、焰華が軽く頭を振る。


「いいえ。我々はただの従魔です。従魔が主人と同等の扱いとなっては、周りに示しが付きません」

「そう言うもんか?」

「はい」


 俺としては気にする必要もないと思うが、焰華の言葉に、皆も同様に頷いていた。


「…………へえ?本当に従魔ですか。魔人とかではないんだね?」

「そうですが……それが何か?」


 ギルマスが、四人をまるで品定めするように、上から下まで舐め回すように見る。

 俺はそれに不快感を感じ眉間に皺を寄せると、ギルマスが苦笑して謝ってきた。


「いや、すまない。昨日は野暮用で席を外していてね、昨日のことは後から聞かされたんだよ。その報告では従魔は一体と聞いていたが、四体の魔人でない従魔か……」

「まあ……」

「はは。そんなに嫌な顔しないでくれないかな?改めて、私はこのアージン支部のギルドマスターを務めさせてもらってるウィストと言う者だ。宜しく頼む」

「…………どうも、アスカです」


 ウィストさんが手を差し出して握手を求めて来たが、俺は愛想無くただ会釈で返した。


「う~む……これは本格的に嫌われてしまったかな?」


 ウィストさんは差し出した手を引っ込めて、頭を掻きながら困った顔をするが、別に嫌いとかそう言うんじゃない。

 確かに、先程の四人を見る目は不快に感じたが、そもそも好きか嫌いかを判断する程、まだこの男のことを俺は良く知らないのだ。

 まだ異世界に来て二日目…………この世界のことをまだまだ分かってない俺は、何に対しても警戒するに越したことはなかった。


「……で?要件はいったい何なんですか?」


 俺は早速本題に入ってもらうことにした。


「うむ、それなんだがね?彼女達のことを出来れば詳しく聞かせて貰えないかと思って」

「…………と、言いますと?」

「ハッキリ言って、君の存在は異質なんだよ。喋る人型の従魔など前代未聞…………少なくとも、私は一度も見たことはない。ギルドマスターとして君達のことを知っておく必要もあるし、何よりまた今後騒ぎになったら困るしね」

「…………それは本音、ですか?」

「もちろんだよ。ただし、半分は私自身の好奇心でもあるけどね?」


 ウィストさんは、少し茶目っ気にそう言った。

 どうやら嘘は言ってなさそうだ。

 俺は少しだけ思案すると、ウィストさんに俺達のことを話た。

 と言っても、ゲームやカスタマイズの話をするわけもいかず、簡潔にレベルが百を超えたら進化のスキルが手に入ったので、それで焰華達を試しに人型に進化させてみたら会話も出来るようになったと、そんな感じで説明をしたのだった。


「ふむ……なるほど。本当に元はただの魔獣だったんだね?」

「はい」


 俺が頷くと、ウィストさんは何やら考えているのか、顎に手を当てて暫く瞑目する。


「…………今この場で魔獣に戻ることは出来るかい?」

「……………………え?」


 目を開いたかと思うと、ウィストさんが突然そんなことを聞いてきた。


「ん?もしかして魔獣には戻れないのかい?」

「え、えっと……それは……」


 俺は言い淀む。

 魔獣になれるかなれないかと聞かれれば…………俺はそんなことは知らなかったからだ。

 だから知らないことは答えられない。

 俺は別に人型のままで良いと考えていたし、特に気にもしていなかったので、焰華達に確認もしていなかった。

 ゲーム内でもずっと人型のままだったしな。


 だが、それに答えたのは焰華だった。


「出来ますよ?」

「「え?」」


 俺は驚きのあまり、焰華を振り返る。


「……何故君も驚くんだい?」

「え?あ……正直、人型から魔獣に戻したことなかったんで……」

「なるほど」


 俺はしどろもどろになりながらも、素直に白状した。

 ウィストさんは深く追究はせず、それだけで納得してくれたようで助かる。


「ただ、私達よりも、戻るのならテンが一番最適だと思われます」

「確かに…………テン、頼めるか?」


 焰華のフェニックス姿は、この部屋に一応収まる大きさではあるが、やはり少々大きいような気がする。

 陸のベヒモス姿は、やはり少々大きく、何より重量があるので、最悪床が抜ける危険性もあるかもしれない。

 キラリのバロン姿は、大きさはそれ程変わらないのだが…………この見た目に反して、若干インパクトが強すぎるので、初対面の人に見せるべきではないだろう。

 その点、テンなら色々な問題もクリアして安心だった。

 テンは何たってカーバンクルだからな。

 大きさは子犬程で、何と言ってもその姿は可愛らしく愛くるしい。


 俺の言葉を聞いて、テンは喜々として元気よく返事をしてくれた。


「はい!ボクやるよ!」


 テンがそう言うやいなや、テンの体を霧のようなものが包んだかと思うと、見る見る内に姿を変えていった。

 そして霧が晴れたそこには、額に宝石を嵌め込んだ、チワワのような小動物がちょこんと座っていたのだ。

 俺は抱き締めて頬擦りしたい衝動に駆られたが、ウィストさんとユノがいた手前、そこはグッと抑えてテンを抱き抱えるとウィストさんに見せた。


「どうですか?」

「これは……驚いた。カーバンクルか…………本の挿し絵でしか見たことない、滅多にお目にかかれない魔獣だ」


 ウィストさんは驚愕に目を見開いて、テンをマジマジと観察する。

 どうやらテンは、魔獣の中でも相当希少価値の高い魔獣のようだった。

 この分だと、もしかしたら他の三人も、実はこの世界では珍しい魔獣なのでは?と思った。


 すると、今迄扉の近くで黙って待機していたユノが、突然黄色い声を張り上げて叫ぶ。


「きゃーーーーーー!!カワイイーーーーー!!」

「っ?!」


 俺はそのあまりの声の甲高さに、ビクっと体を強ばらせて後ずさってしまった。


「あ、あの!アスカさん!!テンちゃんを少し触らせてもらっていいでしょうか?!」

「え……えと……」


 俺はどう答えるべきか分からずに戸惑ってしまう。


「…………はあ~、ユノさん?」


 すると、ウィストさんが手で額を押さえながら、呆れ口調でユノを諌めてくれた。


「あ!す、すみません……つい……」


 ユノはそれに気付くと我に返り、真っ赤な顔を俯かせながらスススと後退して背中を壁に張り付けた。


「いや、すまなかったね。でもこれで、君の言ったことが嘘でないことは確認が取れた。別に信じてなかったわけではないが、やはりこの目で見てみないことにはなんとも、ね」


 ウィストさんは苦笑しながらそう言った。

 そして、真剣な顔で俺にある忠告をしてくれる。


「けれど、返って君が異質な存在であることが立証されてしまった」

「…………どう言う意味でしょうか?」


 俺は眉を寄せる。


「君も知っての通り、召喚士と言うのはあまり人気がない。例え召喚士を職業に選んでも、大体の人がすぐにジョブチェンジしてしまうからね」

「は?ジョブチェンジ?」


 完全にゲームのような単語が出てきてしまい、俺はつい聞き返してしまった。


「ん?君も教会で職業選択したんじゃないのかい?」

「……え?ああ!も、もちろんですよ!」


 俺は慌てて話を合わせることにした。

 これはこの世界の常識で、俺が知らないのは間違いなく怪し過ぎる。

 この件も、図書館で調べることにしようと決めたのだった。


「?まあ、いい。話を戻すが、召喚士は人気が無い上に、おそらくは、君のようにレベルが百を超えた者は居ないだろう。少なくとも私は知らない。だから、君の進化と言うスキルも、正直半信半疑だったわけだ」

「…………」

「君の存在がもし公になれば、もしかしたら、君を手に入れようと各国が手を出してくるかもしれない」

「え?そうなんですか?」

「まだ仮定の話だがね。なんたって君は、もしかしたら世界初の【最強の召喚士】かもしれないのだから」


 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。

 俺はあまり目立つのは好きではない。

 昨日のことはさて置き、今後は目立たずにこの世界を思う存分漫遊しようと、昨夜心に誓ったばかりなのだ。

 だから、あまり大事にはしたくはなかった。

 例えどれだけ周りに祭り上げられようとも、俺は元々虐められっ子のニートだ。

 今後もきっと、俺は自分自身を過信することはないだろう。

 それに、俺が強いのではなく、従魔達が強いだけなんだしな。


「まあ、そんなに固くならないで。けれど、心の隅には置いといて欲しいと思う。我々も、出来る限り君に助力するつもりはあるが、何せ、私は一介の辺境区支部のギルマスに過ぎないからね」


 ウィストさんが、苦笑しながらも言ってくれた言葉は、俺にとってはとても有り難く、俺はおずおずと頷くのだった。


「では、話はここまでにしよう。長々と済まなかったね」

「あ、いえ……」


 ウィストさんがポンと手を打って、話の打ち切りを宣言するとソファーから立ち上がる。

 そこで、俺はあることを思い出し、慌ててウィストさんに呼び掛けた。


「あ、あの!一つ質問があるのですが」

「ん?何かな?」


 そうして、今度は俺が本題をウィストさんに尋ねるのだった。


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