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 パコーン。アイリスは教科書を丸めて珂夜の頭を叩いた。いい音が教室に響く。

「珂夜、一体何やってるのよ」

「いきなり、何するの?」 

 それほど痛くはなかったが突然叩かれては文句も言いたくなる。

「この一週間、避けてるでしょ?」

「うっ。避けてないよ」

 実は、ちょっとの間智仁と二人きりになった日から、一週間程会議室に行ってなかった。廊下でも陽太や智仁とすれ違う度、視線を反らしたり、見なかった振りしたりしている。 避けているのがバレバレなレベルで。アイリスはそこのところを言っているのだが、本人は誤魔化そうとしている。……目が泳いでる。

「言っておくけど。一週間、あいつら放っておくなんてどうしたの?珂夜にメールしても返事がこないからって、アイツ等、私に連絡寄越すんだけど!ウザいのよ!珂夜のせいよ!」

 アイリスさん。本音隠さないのね。

「気になるアイツをまともに見れないって小学生か」

 アイリスさん。正しく指摘しないで下さい。

「話聞いてあげるから、言いなさい」

 アイリスさん。笑顔がちょー怖いです。そしてほっぺたを掴まないで下さい。痛いです。

「……いひゃい」

「どうせ、余計な事でうだうだ悩んでるんでしょ?釣り合わないとか迷惑かけるとか。そんなつまらない事言ってないで、早く答え出してやりなさいよ」

 アイリスさん。話聞いてあげるって言ってるそばから結論だしてますよ。しかも、説教っぽいです。

「……で、黒が好きなんでしょ?」

「……ハイ」 

 珂夜はアイリスの言うとおり、本当にこの一週間うだうだと考えていた。自分はたいした容姿でもないくせして一度陽太と智仁の告白を断ったのだ。他の女子生徒からは何様だと思われることだろう。しかし、二人は諦めてくれず友達からで良いと言ってきた。陽太と智仁とアイリスと珂夜と四人でいる空間は居心地がとても良かった。告白を断った罪悪感も薄れる程に。

 だが、女子大生に絡まれた事によって、余計自覚させられたのだ。自分は皆と釣り合っていないと。そして、慰めてくれた智仁が好きだという事を。

 気持ちを伝えればきっと居心地の良い空間が壊れてしまう。珂夜はその空間を壊したくなかったから、二人にどう接していいか分からなくなって、避けるようになったのだった。でも智仁は気になるので微妙な避け方になってしまっていたが。

「だから、気にしなくていいから。さっさと行け」

 アイリスさん。笑顔がさらに大変になってます。そんなに二人の連絡が多かったのだろうか。何だろう。命令に逆らったら恐ろしい事がありそう。

「頑張ります」



「あー、智はいいよね」

「どうした?」

 会議室で男二人もここ一週間のことを思い返していた。

「珂夜ちゃん、僕達のこと避けてても智のことは見てたじゃん」 

「俺を?避けられていた事しか分からなかったが」

 陽太の頬はぷっと膨らんだ。そんな顔をしても可愛いのだからイケメンは特である。

「自覚ないんだ」

 陽太はため息をついた。こちらはこんなに気にしているというのにライバルはさっぱり気づいていなかったとは。

 珂夜の見る目は分かりやすかったと思う。結構智仁も押し押ししていたから当然かな。これは振られるのが確実かも。アイリスには負け惜しみで身を引かない宣言したけど、時間の問題だった。

「ま、いっか。あの子がどっちを選んでも友達やめないからね」

「ああ」

 男同士の友情を確かめ合っていたら。

 会議室のドアが開いた。

「すみません。ちょっとお話が……」

 噂をしていた珂夜だった。




「まずはごめんなさい」

 二人が会いたかった珂夜は会議室に入るなり謝ってきた。

「ここ一週間二人のこと避けていたので」

「ああ」

「いきなりだったから僕達も心配だったよ」

 アイリスが嫌がるほど連絡したのだ。理由を教えてくれるなら良かった。

「あのね……、避けてた理由は……」

 珂夜はいきなり真っ赤になった。

「おい大丈夫か?」

「珂夜ちゃん?」

「あの、私、釣り合わないのは分かってるんだけど、智仁君が好きになりました!だから、陽太君の気持ちに答えられなくてどうしていいか分からなくてっ……」

 珂夜は涙目になりながらも二人に自分の気持ちを訴えた。

 陽太と智仁はその告白に固まってしまう。

「……でも、いつまでも避けてちゃダメだってアイリスに言われて、気持ちを伝えにきたの……」

「そっか……残念だな…」

 再起動したのは陽太が先だった。ちらりと隣の智仁を見てみると、まだ固まっている。徐々に顔が真っ赤になっているが。

「珂夜ちゃん、安心して。僕はこれで友達は辞めたりしないし、智仁とお似合いだと思うよ。……じゃあ、邪魔者は消えるねー」

「えっ、あのっ」

 真っ赤な二人を後に残し、陽太は会議室を出ていった。珂夜の焦った声が聞こえたが知るか。こちらは失恋したのである。

「あーあ。振られちゃったなあ」

「そのうちいい子現れるわよ」

「アリー」

 廊下にアイリスが立っていた。珂夜を追いかけて来たのだろうか。

「慰めてあげようか?」

 いつもより優しい気がする。

「うん。慰めて」

 陽太はへらりと泣き笑いのような表情を浮かべた。



 一方、残された二人だが。

 ようやく動き出した智仁は珂夜を抱きしめた。逃がさないと言わんばかりに強めに抱く。

「……さっきのは本当か?」

 再確認をしたのは仕方ないだろう。初めての告白は即行で断られたのだ。泣く泣く友達関係をお願いしたのだから、それが恋人関係になれるとは直ぐに信じられなかった。

「本当」

 腕の中で珂夜が頷く。

「すごく嬉しい」

「…私も。これから宜しくお願いします」

 珂夜が笑顔を見せてくれたので、智仁は我慢できなくなり、頭に口づけを落とした。

「智仁君っ」

 慌てた声も可愛かったので、今度はその唇に口づけた。

「~!?」

 珂夜はさらに真っ赤になったので、ついつい笑ってしまった。

「宜しく」





 ーーーーーそれから。

 珂夜と智仁は付き合うようになったのだが、会う場所は以前と変わらず会議室だった。また、陽太とアイリスも一緒なのでやはり変わりはなかった。

 目下、智仁の悩みは中々二人きりにならないという事と。

「陽太!いつまで俺の珂夜の手を触っている。いい加減離せ!」

「えー減るもんじゃないし、いいでしょ」

「良くない!」

 陽太が珂夜の手を未だに触り続けているという事だ。本人は直ぐに止められるものではないと言い張っている。

「……俺のって…」

 真っ赤になった珂夜をアイリスがにまにまと見ている。



 陽太とアイリスがいるかぎり、珂夜と智仁の仲は進展しないのかもしれない(笑)




     ーー完ーー







これにて完結です。お読みいただいた皆様ありがとうございました。別作品も宜しくお願いします!


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