Scene2 村長との会話
家へ戻ろうとしていた悠たちの前に、一人の男が歩いてきた。
「悠」
「……はい」
村長のエドガーだった。
悠が足を止める。
エドガーは、いつもの穏やかな顔で悠を見る。
「今日は来てくれてありがとな」
「……僕は見てただけだけど」
悠は少しだけ首を傾げる。
踊ってはいない。
祭りの手伝いをしたわけでもない。
子供たちと遊んだわけでもない。
ただ、端っこに座って見ていただけだ。
けれど。
エドガーは笑った。
「それでいい」
「……」
「一緒にいる。それだけで十分だ」
悠は黙った。
返す言葉が見つからない。
エドガーは、それ以上何も言わなかった。
少しして。
「じゃあな」
そう言って、村のほうへ戻っていく。
悠は、その背中を見送った。
「……」
リアも何も言わない。
二人で歩き出そうとした、そのとき。
エドガーが振り返った。
「悠!」
「……?」
「来年も来いよ」
悠の足が止まった。
「……来年?」
エドガーは笑っている。
「おう。来年も祭りはやるからな」
そう言って、今度こそ村の中へ戻っていった。
悠は、その場に立ったままになる。
来年。
その言葉が、頭の中に残った。
来年。
――来年も、祭りがある。
そういえば。
この村も、きっとある。
リアもいる。
ハンスも。
リリも。
エドガーも。
ノアも。
そして――。
悠は、そこで考えが止まった。
自分も。
来年。
自分は、ここにいるのだろうか。
これまで、そんなことを考えたことはなかった。
今日を過ごして。
明日を過ごす。
それで十分だった。
明日の畑。
明日の食事。
ノアの世話。
リアが来るかもしれない。
そんなくらいのことしか考えていなかった。
「……来年」
悠は、もう一度呟く。
少し先の未来。
今まで、考える必要もなかった時間。
けれど。
来年も、この村で祭りがある。
その景色を。
自分が見ることも、できるのかもしれない。
悠は夜の村を見る。
遠くに、まだ祭りの明かりが残っている。
その向こうに、いつもの村がある。
そして。
その中に、自分の家がある。
「……」
悠は、しばらく黙っていた。
初めてだった。
まだ来てもいない未来の自分を、少しだけ想像したのは。
リアが隣で待っている。
悠はゆっくりと歩き出した。
「……帰ろう」
「うん」
二人は並んで、夜の道を歩いていく。
悠の頭の片隅には。
まだ、「来年」という言葉が残っていた。




