↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で最強になったので、世界の片隅でひっそり暮らします  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/123

第一話 異世界に来た Scene1 転生

目を開けた。


 最初に見えたのは、青だった。


 雲一つない空。


 それから、頬を撫でる風。


 どこか遠くで、小鳥の鳴き声が聞こえている。


「…………」


 真白悠は、しばらくその場に寝転がったまま空を眺めていた。


 何が起きたのか分からない。


 確か、自分は神様と話していたはずだ。


 いや。


 そもそも自分は死んだのだった。


「……本当に死んだんだよな」


 そう呟いて、悠はゆっくりと上半身を起こした。


 辺りを見回す。


 そこには、一面の森が広がっていた。


 背の高い木々。


 足元を覆う草。


 木漏れ日。


 少し湿った土の匂い。


 遠くから聞こえる川のせせらぎ。


 日本で暮らしていた頃には、ほとんど縁のなかった景色だった。


「……森」


 立ち上がる。


 身体を確認する。


 手。


 足。


 頭。


 どこにも痛みはない。


 身体も動く。


 どうやら、無事に異世界へ転生できたらしい。


「……異世界」


 口にしてみる。


 実感はあまり湧かなかった。


 そもそも、異世界なんてものを信じたこともない。


 けれど。


 目の前に広がる景色は、どう考えても自分が知っている世界のものではなかった。


「……本当にあるんだ」


 悠は小さく呟いた。


 そして、ふと思う。


「……人は?」


 周囲を見る。


 誰もいない。


 右。


 左。


 後ろ。


 誰もいない。


 少し先まで歩いてみる。


 誰もいない。


 耳を澄ませる。


 聞こえてくるのは鳥の声と、風に揺れる木々の音だけ。


「…………」


 悠は立ち止まった。


 そして。


「……人がいない」


 ぽつりと呟く。


 不思議だった。


 異世界に来た。


 森の中にいる。


 右も左も分からない。


 本来なら、不安になるところなのだろう。


 けれど。


「…………」


 悠の胸にあったのは、安心だった。


 人がいない。


 誰にも見られていない。


 話しかけられない。


 何かを聞かれることもない。


 何かを説明する必要もない。


 失敗して、気まずい空気になることもない。


「……最高かもしれない」


 思わず口元が緩んだ。


 前の世界では、外に出るだけでも疲れた。


 人の視線が怖かった。


 店員と話すだけで緊張した。


 誰かと会話をすれば、


 ――変なことを言わなかっただろうか。


 ――嫌われていないだろうか。


 ――もっとちゃんと話せばよかった。


 そんなことばかり考えていた。


 だから、できるだけ人と関わらないようにしていた。


 そんな自分が、今。


 誰もいない森の中にいる。


「……ここなら」


 悠は森を見渡した。


「静かに暮らせそうだ」


 その言葉が、妙にしっくりきた。


 世界を救う必要なんてない。


 英雄になる必要もない。


 誰かに認めてもらう必要もない。


 ただ静かに。


 自分の好きなように暮らせれば、それでいい。


「……家、欲しいな」


 そう呟いた瞬間だった。


 頭の中に、聞き覚えのある声が響いた。


『その願いは、すでに叶えられると思いますよ』


「……え?」


 悠は固まった。


 周囲を見る。


 誰もいない。


『創造魔法がありますから』


「…………」


 そういえば。


 転生する前に、神様が何か大量に能力を渡していた。


 あまりにも多すぎて、途中から聞くのを諦めていた。


「……創造魔法」


 試しに手を前へ出す。


 何となく思い浮かべる。


 森の中に建つ、小さな家。


 木でできた壁。


 雨を防ぐ屋根。


 窓が一つ。


 扉が一つ。


 ベッドと机があって。


 台所があって。


 できれば風呂も欲しい。


「……こんな感じ」


 すると。


 目の前の空間が淡く光った。


「……え?」


 光が集まる。


 木材が組み上がり。


 壁が生まれ。


 屋根ができ。


 窓が取り付けられる。


 まるで最初からそこにあったかのように、一軒の小さな家が完成した。


「…………」


 悠は、口を開けたまま家を見つめた。


「……できた」


 近づいてみる。


 扉に触れる。


 木の感触。


 ちゃんと本物だ。


 扉を開ける。


 中には、想像した通りの家具が並んでいた。


 机。


 椅子。


 ベッド。


 棚。


 簡素な台所。


 そして、小さな風呂。


「…………」


 悠は無言でベッドに腰を下ろした。


 ふかふかだった。


 そのまま仰向けになる。


「…………」


 天井を見る。


 静かだった。


 外から聞こえるのは、鳥の声と風の音だけ。


 誰もいない。


 誰にも急かされない。


 誰にも話しかけられない。


 明日の予定もない。


「……」


 悠は目を閉じた。


 そして、小さく笑った。


「……悪くないな」


 異世界での生活。


 それがどんなものになるのかは、まだ分からない。


 魔物がいるかもしれない。


 危険な場所なのかもしれない。


 そもそも、ここがどこなのかすら分からない。


 それでも。


 今だけは。


 この静かな森の中で。


 悠は、自分だけの時間を手に入れた気がした。


「……明日から、どうしようかな」


 そう呟いて。


 悠はそのまま、眠りについた。


 異世界での最初の日は。


 思っていたよりずっと静かに始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。