オウカ国へ
さて、今回俺、ニシャ、アンシュは俺の転移魔法でオウカ国へやってきた。ここ、オウカ国はいわゆる異世界ファンタジーにおける中華風な国である。水餃子、シュウマイ、エビチリ、麻婆豆腐、青椒肉絲、月餅、桃まんその他もろもろたくさんのおいしい中華が食べられる国。因みに天津飯は存在せず、また焼き餃子をオウカ国の友人・月に披露したところ、宮廷料理人たちに必死な形相で止められたのだが案外ユエも気に入ってくれたようで、宮廷料理人たちがHPを大量消費しへたりこんでいた。んー、よくわからん。
そしてオウカ国に着けば、友人のユエ自ら出迎えてくれる。その隣には彼の娘のミンミンがかわいらしく控えている。
「本日はようこそ我が国へ。ルドラ」
「あぁ、久しぶりにユエに会えるのを楽しみにしていたんだ」
俺はユエと互いに握手を交わす。
ユエは青銀の髪を後ろ側に撫でつけ、前髪を真ん中分けにしている。更に鋭い紫の瞳に雪のように白い肌をしており、抜群のイケメンである。ウチの国の騎士団長・ドゥルーヴとも張り合える美人だが、こちらの方がやや近寄りがたい雰囲気を纏っている。尤も、友人として会う際の彼は穏やかなものだが。
そして俺は彼の側に控える小さな姫に挨拶をする。
雪のように白い長い前髪を真ん中で分け、左右にかわいらしいお団子を結び残りの髪を肩に流している。年齢は12歳。父親譲りの紫色の瞳はかわいらしくまんまるとしており、顔立ちもかわいらしい。色は父親譲りだが、顔立ちは彼女の亡き母によく似たのだと言う。
しかしまぁ、12歳ながらに美少女。オウカ国でも1、2を争う美少女なのだ。しかしながら彼女は特殊な事情も併せ持つ。
「ミンミン、久しぶりだな。元気にしていたか?」
「・・・!」
コクリ、とミンミンが嬉しそうに頷く。
相変わらずかわいらしい子だ。頭をぽむぽむとしてやればはにゃりと微笑む。そして・・・
じー・・・
頭上からめっちゃ視線を感じる。
ふいに顔をあげれば・・・顔を逸らされた。相変わらず素直じゃないところは変わらない・・・そう思いつつも、ユエに俺の連れを紹介する。
「俺の婚約者のニシャと、その兄で従者として連れてきたアンシュだ。よろしく頼む。ふたりとも、こちらが俺の友人のユエ、そしてその娘のミンミン」
「よ、よろしくお願いします」
「お願いします」
ふたりも俺に続いて軽く会釈する。
「あぁ、よろしく」
「・・・!」
ユエが答えると、その隣のミンミンもコクリと頷く。
ユエに案内されて屋内に招かれれば、中華風なオウカ国の服の侍女たちに出迎えられてニシャもアンシュも驚きつつも少し緊張しているようだった。そんな中、やはり女性のニシャが気になるのかミンミンがしきりにニシャのことを見上げている。それに気が付いたニシャが手を差し伸べるとミンミンが嬉しそうに手をとる。
「・・・!」
そしてミンミンがニシャを見上げれば、ニシャもにっこりと微笑みを返す。
いつの間にか仲良く手をつないでいる愛娘をちらちらと横目で見てくるユエ。全く・・・わかりやすいな本当に。
そして、円卓にみんなで並んで腰掛ける。
「アンシュも座ってくれ。今回は従者として連れてきたが、客のひとりとして加えてもらっているから」
そう答えれば、アンシュも腰を下ろした。
あぁ・・・けどな・・・。思いのほかミンミンがニシャを気に入ってしまい、俺はユエに袖をビッと捕まれ強制的にその隣に座らされたので・・・
ユエ・俺・アンシュ・ニシャ・ミンミンの順番で席に着くことになった・・・。
ニシャの隣をキープできなかった・・・だと!?・・・いや、まぁ、かわいいニシャの顔は見えやすい位置ではあるが・・・。
早速、侍女たちがお茶の用意をしてくれて、円卓の上にはたくさんの点心が並べられた。
「ミンミンちゃんはどれが好きなのですか?」
「・・・!」
ミンミンが月餅を指さすと、ニシャが優しく月餅をとり寄せてあげている。
そんなふたりを微笑ましく見守りながらも・・・
「ニシャ、ミンミンのことだが・・・」
「はい、ルドラさま」
「ミンミンはわけあって声が出せないんだ」
それを伝えると、ミンミンは申し訳なさそうな顔で俯く。
「そう・・・なのですね・・・でも大丈夫ですよ。こうしてミンミンちゃんと仲良くなれましたから、関係ないです」
「・・・!」
その言葉にミンミンがぱあぁっと顔を輝かせてニシャを見上げ、ぎゅむっと抱き着く。あぁ・・・やはりニシャは素晴らしい子だな。あんな素晴らしくかわいい子が原作のゲームで悪役令嬢だなんて・・・理不尽だ!やはりニシャは愛でてなんぼである。
すっかりニシャに懐いて点心をあ~んしあっこしているミンミンを、やはりユエはじーっと見つめている。こんなにわかりやすすぎるのに、全くこの父娘は。
しかしながら、ここで俺は重要な事実に気が付くのである。
「ミンミンちゃん、お父さんはどの点心が好きなの?」
アンシュが問いかけると、ミンミンがこれ!と指さす。
「それじゃ、お父さんにもあ~んしてあげたら喜ぶよ」
そう言ってアンシュが小皿をミンミンに差し出せば、ミンミンがそれを取ってユエの口元に運ぶ。ユエは驚いた顔をしつつも、ちょっとだけ頬を赤らめながらそれを口にする。
「・・・?」
まるで「おいしい?」と聞いているかのように首を傾げるミンミンに・・・
「・・・うまかった」
と、短くユエが頷いた。
んな・・・っ!?俺がここの家臣たちから懇願されたユエの“デレ”を早速引き出すとは・・・。
アンシュ・・・恐るべし・・・だな。
そう言えば・・・ゲームでも類まれなる気遣いの良さを出していたかもしれない。こ・・・これがほんまもんのお兄ちゃん属性なのか・・・!?
「どうかされましたか?ルドラさま」
きょとんとアンシュが聞いてくるので・・・
「うん・・・よくやった」
「・・・?」
アンシュは自分が行ったことの功績を何も理解していないようできょとんとしていたが、きっと今晩アンシュはここの家臣どもにめちゃくちゃ号泣されて感謝されるに違いない。そう確信した俺であった。