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41 ポルターガイスト1

 神経衰弱に続いて、ババ抜き勝負でもチャリンを完封してしまったボウイ。


 いままで周囲の女子たちの視線は、ウブなボウイを手玉に取るかのようだったのだが……。

 実はその少年が、希代のプレイボーイであったかのような畏怖に変わっていた。



「す……すごい……」



「チャリンはトランプでクラスのリーダーになったくらい、トランプが得意なのに……」



「そのチャリンに、あっさり勝っちゃうだなんて……」



「それも、2回連続で……!」



 女子たちの見る目と声音が、さらに熱っぽくなったのを感じるボウイ。

 これ以上ここにいたら、風呂場覗きの時のようにブッ倒れてしまうような気がしたので、



「こ……これで気が済んだ? じゃあ、僕はもう行くから……」



 とそそくさと立ち上がろうとしたのだが、



 ……ガッ!



 と肩を掴まれてしまった。

 そこには、メガネごしの瞳をこれでもかと据わらせた、チャリンが……!



「まだ終わってへん! 途中で逃げようったって、そうはいかんでぇ……!」



「も……もういいでしょ、チャリン。これ以上やっても……」



「いーや! まだ勘定が残っとる! わてらがスッポンポンになって、土下座するところを見ていきや!」



「そ、それは別にいいよ。そんなことしてもらっても……」



「そんなこと!? わてらの土下座が、そんなことやて!?」



「あ、いや、そういうわけじゃ……」



 ボウイは酔っ払いを相手しているような気分になる。

 言葉を選んでなんとかなだめようとしたが、何を言っても火に油だった。


 結局、



「商人としてのプライドを、ここまでズタボロにされたんは初めてや! こうなったら意地でもわてらの全裸土下座を見せたるさかい! そしてそれが終わったら、もうひと勝負や! 今度は、わての全てを賭けたるでぇ!!」



「え……ええ~っ……」



 完全に、タチの悪い酔っ払いに絡まれた気分だった。


 ボウイはしょうがなく背中を向け、商人科の女子たちが下着を脱ぐのを待つ。


 ぷちん、とホックの外れる音のあとに、はらり……と胸から離れる音。

 小さな三角布が、しゅる……と肌に張り付くようにして、下腹部から太ももを滑る音。


 それはあまりにも刺激が強すぎる音だったので、ボウイはクラクラしてしまう。

 すると冷や水のような声が、彼の熱い脳内に差し込んできた。



 ――あの、旦那様。すみません、少しよろしいでしょうか?



 ――な、なに、コエ?



 ――お知らせしたいことがあるのです。

 この部屋で発見した宝箱に、不穏な気配がございます。



 ――不穏な気配……?



 ――ご覧になっていただいたほうが早いと思いますので、旦那様の視界を、わたくしのものと切り替えさせていただきますね。



 ――うん、わかった。



 と心の中で頷いてから、少年はコエの向いている方角に気付く。



 ――あっ!? ちょ、待っ……!?



 それまでに彼の視界にあったものは、地下迷宮(ダンジョン)の無機質な壁と、床に折り目正しく正座するメイドの姿。


 それが、



 ……パッ!



 と一気に、フルーツ園に……!?


 青い果実のような少女たちは、同性の視線しかないと思っているのか、隠そうともしていない。


 ミルクの上に浮いた生クリームのような、なだらかな半球。

 そしてその頂点には、熟れる前のような、薄いピンクの姫いちごが……!


 どれもそれほどまだ量感はなく、重力に逆らって、ツンと上を向いている。

 まだまだこれから伸びるのだといわんばかりの、若芽のように、健気に、ひたむきに……!


 そこからさらに視線を落としていくと、まだくびれともいえない……。


 と、そこで、赤い枠が現れる。彼女たちのウエストラインをグリッサンドのように滑っていったそれは、部屋の奥にある宝箱にロックオンした。


 すでに忘れ去られたように、ぽつんとあるそれには……。

 いかにも危険そうな、黄色と黒のバックに彩られた文字が浮かび上がっている。



『警告:悪性の精霊が、室内に出現しました』



『警告:悪性の精霊が、宝箱に憑依しました』



『警告:宝箱の微動を確認』



 少年の視界にアップで捉えられた宝箱は、蓋がカタカタと震えていた。

 さながら、忍び笑いをするかのように……!



 ――ま、まさか、ポルターガイストっ!?



 『ポルターガイスト』というのは、アンデッドモンスターの一種。

 この隠し部屋の下層にいた『スケルトン』と同種のモンスターであるが、実態を持たない、いわば幽霊というやつである。


 『ポルターガイスト』はそのままでは無害なのだが、物体に憑依すると、人間を攻撃してくる性質を持つ。

 たとえば家の中であれば机や椅子、地下迷宮(ダンジョン)であるならば宝箱といった具合に。


 もし机や宝箱に憑依した場合は、中に入っているものを高速で撃ち出して攻撃してくるのだ。

 あの宝箱の中にはいま、300万(エンダー)ぶんの、コインが入っている……!


 そしてそれはすぐに、現実となった。



『警告:宝箱の中で、コインが装填されました』



『警告:コイン発射まで、あと30秒』



『警告:弾道計算終了。弾道予測を表示します』



 ……ピッ!



 なおも震えている宝箱の口から伸びた、弾道予測の赤い線は……。

 「どや!」と言わんばかりに上背をそらし、小皿を伏せたような胸をまわりに見せつける、クラスのリーダーが……!



「あ……あぶないっ!!」



 ボウイは弾かれたように立ち上がると、振り向きざまに床を蹴った。

 緊張で震えていた少年の背中が、いきなり隆起するように大きくなって、突っ込んできたので女子たちは息が止まるほどに驚く。



「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?」



 しかし野獣と化した少年は、迫り来る悲鳴を押し返すように、そのままダイブ……!

 メガネごしの目をまん丸に見開いたままの、無防備な少女を……!



 ……どしゃあっ……!



 小皿ごとひっつかんで、乱暴に押し倒した……!



 ……バシュゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!



 すれすれの所を、黄金の弾丸が掠めていき、壁を穿ちながら突き刺さる。

 「ええっ!?」と女子たちが一斉に発射源のほうを向くと、そこには……。


 しゃれこうべのように口をカタカタと震わせながら、空に浮かび上がる、宝箱の姿が……!

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