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23 ネイション家の男

 男子寮の自室から、女子寮の大浴場への突然転移。

 少年はラスト・マギアにもだいぶ慣れてきたつもりだったが、これには度肝を抜かれていた。


 それに、原理がわかったところで、落ち着けるはずもない。


 なぜならまわりは全方位、肌色づくし……!

 しかも知らない人じゃなくて、見慣れた女生徒たちの……!


 顔見知りの異性が、無防備すぎる姿を……。

 間近で見られているとも知らず、無防備に晒すっ……!


 ボウイはそう考えるだけで、湯あたりしたようクラクラしてしまい、膝を付いてしまう。


 大胆なデバガメ少年が、ど真ん中にいるというのに、女湯は至って平和であった。

 湯船では肌つやのいい少女たちが花のように集まって、華のガールズトークを繰り広げている。



「それにしてもコエさんって、肌すっごく綺麗!」



「そうそう! すべすべだし、なんだかとっても柔らかいし……ずっと触ってたいよね!」



 話題の中心はコエだった。

 ボウイと一緒のときはいつも三歩下がってついてきていた彼女は、遠慮がちに、はにかみながら頭を下げた。



「ありがとうございます。これも、旦那様がわたくしをお選びくださったおかげでございます」



「もう、コエさんったら、さっきからそればっかりー!」



「ほんと、ラスト間際に感謝してばっかりで……あんなヤツのどこがいいの!?」



「旦那様はわたくしにはもったいないくらいの、素晴らしい御方でございます。みなさまも旦那様と仲良くしていただけると、わたくしとしても、とても嬉しいのですが……」



「でも今日のラスト間際って、なんだかちょっとだけイケてなかった?」



「実をいうと、あたしもちょっとだけそう思ってたんだ」



「古代魔法って、今までのいろんなのが発見されてきたけど、どれも大したことなかったし……正直、古代魔法の適正なんてあっても、ハズレクジだと思ってたけど……」



「ラスト・マギアはすごい威力だったよね。もし本物だったらの話だけど……」



「だとしたらボウイ君、あんがい当たりの男の子なんじゃない!?」



「ちょっとあんた、急にどうしたのよ!? 今までアイツのこと、ラスト間際って呼んでバカにしてたくせに!」



「えーっ、そーだっけ? わたしはずっと前からボウイ君に目を付けてたんだモン!」



「ちょっと、抜けがけなんてずるいわよっ!?」



 キャアキャアと騒いでいた女子軍団。

 しかしその楽しそうな空気を、斬り裂くような怒声が一喝した。



「おめえら、うっせえし! あんなセクハラ野郎のことなんて、話題に出すなしっ!」



 それはすぐ隣の湯船に浸かっていたキャルルだった。

 ざばーっとあがったとたん、モデルのように発育のいい身体が露わになる。


 まだ中学生なのに、コエに追いつきそうなほどの豊かな胸。

 白桃のように白くてみずみずしく、先端には薄いピンクの突起が……。


 それらが洗い場に足を踏み出したとたん、ふるん……! と大きく上下に揺れる。

 すぐそばにいたボウイは目を反らそうとしたが、瞬転、彼女のほうが先に視界から消えた。


 そしてようやく、少年は気付く。


 今まではパニックのあまり、意識が向いていなかったのだが……。

 視界の左上が、明星のように輝いているのを……!



 ……すっ、てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーんっ!!



 と音がするほどに、キャルルはすっ転んだ。



「いってぇーーーーーーーーっ!?!?」



 育ち盛りのギャルは、そのたわわに実った身体を惜しげもなく晒すV字開脚で、ツツーっと……。

 自分のすべてを曝け出すようなポーズのまま、ツツーっと……。


 少年の足元まで、回転寿司で個別注文した赤貝のように、滑り来たっ……!?

 そして、


 すぽっ……。


 と、ちょうどホールインワンするように、少年とぴったり合わさるようにして止まる。


 しかしその、列車が連結するような瞬間を見たものは、誰もいない。

 なぜならば、周囲の女生徒たちの目にはボウイの姿は映っていないからだ。


 となるとそれを認識できたのは少年だけだったのだが……。

 彼はブレーカーが切れてしまったかのように、



「う、うう~ん」



 とギャルに覆い被さるようにして、昏倒してしまっていた。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



「……父さん! これ見て! ほら、この古代文字!」



「おお、ボウイ、それはラスト・マギアのロゴだな!」



「やっぱりこの遺跡にラスト・マギアはあるんだよ! もう休憩なんていいから、早く奥に行こうよ!」



「まあ落ち着くんだ。ちゃんと休まないと、途中でバテてしまうぞ」



「ちぇーっ、僕は大丈夫なのに!」



「それにな、無理することないんだぞ」



「えっ? 僕は無理なんてしてないよ!? このとおり、ピンピンしてるよ!?」



「いや、身体はもちろんそうなんだが……心も無理をすることはないんだぞ」



「心?」



「ああ、ボウイ。お前がもし、ラスト・マギア以上に楽しいことを見つけたんだったら、無理をして父さんの遺跡探索に付き合う必要はないんだ」



「……どうして、そんなことを言うの?」



「父さんも子供の頃、ボウイみたいにおじいちゃんと一緒に遺跡探索をしてたんだ。そして、こうして休んでいるときに、おじいちゃんが言ったんだ」



「おじいちゃんは、なんて言ったの?」



「もし、ラスト・マギアより面白いものがあったら、ためらわずそっちの道にすすみなさい、って……。ネイション家は先祖代々、ラスト・マギアを追い求めてきた。でも、何百年かけた今でも、手がかりすら一向に掴めていない……。もしかしたらラスト・マギアなんてないんじゃないか、っておじいちゃんは思うことがあったそうだ」



「そんな!? ラスト・マギアは絶対にあるよ!」



「そうだな。でも、おじちゃんは……もしかしたら、ひいおじいちゃんも、そのまたひいひいおじちゃんも、思ってたのかもしれない。ラスト・マギアを探し求めて変人扱いされる人生を、自分だけならまだしも、子供にさせてもいいものなのか、って」



「父さんも、そう、思ってるの……?」



「まぁ、な……。この前の授業参観で、特にそう思ったんだ。ボウイ、お前は小学校でも友達がいないんだろう? 絵本の中にしか出てこない古代魔法なんて、誰もが幼稚園と一緒に卒業する。でもお前は父さんに付き合って、放課後どころか休みの日までラスト・マギアの研究をしている。自分が楽しくてやっているのならいいが、もし他に興味のあることがあったら……」



「そんなのないよっ! 僕は父さんとこうやって、ラスト・マギアのことを考えているときが、いちばん楽しい! 父さん言ってたじゃないか! 信じれば、なんでも叶うって! それに、死んだ母さんも教えてくれたんだ!」



「……母さんが?」



「父さん、母さんにプロポーズするとき、『ネイション家の男は、取り柄はないけど、誰にもまけないことが、ひとつだけある』って……! 『それは愛するものを、心の底から信じることだ』って、言ったそうじゃないか! 僕もネイション家の男だよ! だから好きなものを信じる! 信じたいんだ! ラスト・マギアを……!」



「……ボウイ、お前はもしかしたら、ネイション家でいちばんの、大馬鹿者かもしれないな」



「えっ?」



「そして……ネイション家でいちばんの『信じる』ことの大天才かもしれないな……!」



「うん! 僕は『信じる』ことだったら、誰にも負けない自信がある! だから、ラスト・マギアも絶対にあるって信じてるんだ!」



「ああ、ボウイ。ラスト・マギアは絶対にある! そしてそれは、そんじょそこらの古代魔法と違いって、世界をひっくり返すほどの絶大な力があるんだ! なぜだかわかるか?」



「なぜ……? なぜ、そう言い切れるの……?」



「それはな、ボウイや父さん、じいちゃんやひいじいちゃん、ひいひいじいちゃん……そのまたずっと前の前まで、そう思い続けてきたからだ! ネイション家の男たちが、ずっと片思いを続けてきたものだぞ! これはもう、そんじょそこらの美人とは、わけが違うだろう!? 願いというのは、思いの強さに比例して、叶ったときの喜びも大きくなるんだからな!」



「父さんは……ラスト・マギアを見つけたら、どうするつもりなの?」



「そうだなぁ……まずは自分だけがいっぱいいい思いをして、そのあとに、みんなにその力を貸してやるかな!」



「えっ、自分だけ!?」



「そりゃそうだろう! 今までずっと想いつづけてきたんだ! じいちゃんたちの分まで、いい思いをさせてもらわないとな! それにまわりのヤツらは父さんのことを、今でもバカにしてる! そいつらを見返してやって、それからだな! ラスト・マギアの素晴らしさを、世に知らしめるのは!」



「うん……! 父さん! もし僕が父さんの後を継ぐことがあったら、僕の代で絶対、ラスト・マギアを見せつけてみせる! そして父さんのぶん、じいちゃんのぶん、ひいじちゃんのぶん……ひいひいじいちゃんのぶんまで、いい思いをするんだ!」



「そうだ、いいぞ……! それでこそお前は、ネイション家の男だ!」

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