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16 ラッキースケベ

「『LKSK(ラキスケ)』ポイント……?」



 オウム返しする少年に対し、メイドは「はい」と丁寧に頷いた。



「『LKSK(ラキスケ)』とは、LucKy(ラッキー) SKebe(スケベ)の略でございます」



 いままでコエの説明には意味不明な単語が多かったが、その単語は、今まででいちばん謎めいていた。



「な……なに、ソレ……?」



「はい。『ラッキースケベ』とは、予期せぬ偶然によって、はしたない事態に巻き込まれてしまうことでございます」



 その説明で、ボウイは少しピンときた。



「あっ……!? もしかして、さっきコエとナデナちゃんのスカートが短くなのったのが、『ラッキースケベ』……!? つまり、『LKSK(ラキスケ)』!?」



「はい、左様でございます」



 コエはその時の『はしたない自分』を思い出しているのか、少しはにかみながら続ける。



「その『LKSK(ラキスケ)』の発生を数値化したものが、『LKSK(ラキスケ)』ポイント……。つまり、『lsp』でございます。(ヘッド・)(アップ・)(ディスプレイ)に表示されております数値が、100になった時点で、ラッキースケベが確定いたします」



 ボウイはちろりと左上を見やる。

 そして思わず目を剥いてしまった。



「きゅっ……!? 『90lsp』……!? もうそんなに増えてるの!? さっきのラキスケから、そんなに時間が経ってないのに!?」



「ラキスケポイントは、旦那様の行動、そして旦那様をとりまくさまざまな事象に応じて加算されていきます。旦那様が、それだけのことをなさっているということでございますね」



「ちなみに、具体的にはどうやったら増えるの?」



「はい。意図的に加算する方法としては、異性とより接することです。そしていちどにたくさんのポイントが必要とされる場合でしたら……」



 メイドは言いながら、少年の背後に回り込む。

 そして、



「すみません、旦那様、例を実演するために、少しだけお身体に触れさせていただいてもよろしいでしょうか?」



 承諾を得てから、少年の肩に手を置いて、耳元にそっと顔を近づけるコエ。

 リンスのようないい香りが間近にあって、ドキッとするボウイ。



「な……なにを……?」



 しかしてその答えは、坊ちゃんを誘惑する小悪魔メイドのような、甘いささやきであった。



「なぁ、スケベしようや……」



 しかしてその内容は、変質者のオッサンさながら……!


 ゾクッ! と少年は総毛立つ。


 内容は気持ち悪いのに、コエの鈴音で言われてしまうと、思わず身体がとろけそうになってしまったからだ……!



「わっ!? わああああっ!? こ、コエ、なにを言ってるのっ!?」



 飛び退くボウイに、コエはびっくりして平謝り。



「あっ、も、申し訳ございません、旦那様。ラキスケポイントを溜めるための方法を、実演させていただいただけなのですが……。先ほどわたくしがさせていただいた行為は、ラキスケポイントをためるのにとても有効でして、1度の行為だけで120ポイントが得られます。それだけの高ポイントともなりますと、口に出すのもはばかられるようなラキスケが、その囁かれた方と間に起こるのです。でも、驚かせてしまったようですね。大変、大変申し訳ございませんでした」



 「な、なんだ、そういうことか……」と、少年は納得しかけたが、



「今のを、女の子の耳元でささやけっていうの!? 完全に変質者じゃないか! あ、いや! 別にラキスケポイントを貯めたいわけじゃないから、別にいいけどっ……!」



 ボウイはわたわた手を振って、コエはぺこぺこ頭を下げて、ふたりの世界は実にカオス。


 そこを、クラスの女子たちが通りがかる。

 彼女たちはクラスのカースト上位にいる、仲良し魔女グループ。


 まだ中等部なのに、ばっちりの魔女メイクにミニスカローブでキメている。

 いわゆるギャルというやつで、クラスのなかでもいちばん大人びている存在であった。


 彼女たちは道草を食っていたので、2年D組からだいぶ遅れて後を追っていた。

 いつもなら、通りすがりにボウイを見つけると、「嫌なモノを見てしまった」とばかりに舌打ちをして去っていくのだが……。


 今日は珍しく足を止めていた。



「ったく……ラスト間際のヤツ、またすみっこでなんかしてるし」



「もしかしてアイツ、コエさんに変なことしようとしてるんじゃね?」



「ありうるー! アイツ、女に相手にされないからって、魔導人形(ゴーレム)に手を出そうとしてるんだよ!」



「おい、ラスト間際っ! なにやってるし!?」



 なかでも強気そうな少女が声を荒げ、ボウイに近づいてこようとする。


 ソバージュのロングヘアに、紫色のアイシャドウとピンクのルージュが映える、ひときわコケティッシュな美少女……。

 ギャル軍団のリーダーである、キャルルであった。


 彼女は厚底のブーツを、一歩前に踏み出させ……。

 通気口のような格子床を、



 ……カツーーーンッ……!



 と高らかに踏みならした瞬間、



 ……ビュォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーッ!!



 下から突風が、吹き上げてきたっ……!?



「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッ!?!?」



 ギャルたちは、台風の日の傘のように、一団のスカートを、いちだんと……!

 いや、これでもかと舞い上げられるっ……!



「やだっ!? やだやだっ!? 何これっ!? なんで急に風がっ!?」



「あぁん! いやぁんっ!? きょう合同実習だから、勝負パンツなのぃぃぃぃぃぃーーーーーっ!?!?」



「しょっ……勝負って!?」



 思わず反応してしまうボウイ。


 彼の瞳に映っていたのは、健康的な肌に穿たれた、縦長のおへそ。

 そして限界まで布を省いたような、オブラートさながらの薄布たち……!


 例えるなら、昼食のピザの一切れを、狭めに狭めたトライアングル。

 例えるなら、一本筋を隠すのだけで精一杯のような、わずかな面積。


 視線に気付いたギャルたちが、ぎゃんぎゃんと少年に噛みついた。



「てめえっ! ラスト間際っ! 見てんじゃねぇしっ!」



「あぁん、もうっ、さいってー! あんなヤツじゃなくて、カレシに最初に見せるつもりだったのにぃーーーっ!」



「ってオメー、カレシいねぇし!」



「そ、そう言うキャルルだって!」



「あ、あーしはいないんじゃなくて、作らないだけだし! この学園には、ロクな男がいねーし!」



「……って、パンツ丸出しで何言ってんの!?」



「しょうがねぇだろっ! どこに行っても風が吹いてるしぃ!」



 それでボウイは気付く。


 視界の左上にある、ラキスケポイントが100に達していて……。

 今まさに発動中であるかのように、ビカビカと点滅しているのを……!



「ご、ごめん、みんなっ! これは、僕のラスト・マギアのせいで……!」



「ハァ!? テメ、なに言ってるし!? こんな時でもラスト・マギアなんて、マジきめぇし!」



「あぁん、もう、やだぁぁぁぁっ!」



「いやぁん、見ないでぇぇぇぇっ!」



「いい加減にしろっ! ラスト間際のクセしてあーしらのパンツ、ジロジロ見んじゃねぇしっ! お嫁さんになれなくなるしっ!」



「っていうか、きゃ、キャルル! 逃げようよ! この廊下を出ないと、ウチらずっとパンツ丸出しだよっ!?」



「くっ……! おいっ、ラスト間際! 覚えてろしっ! あと、コエさんに変なことしたら、あーしがぜってー許さねぇしっ! おいっ、わかったし!?」



 捨て台詞を残し、ギャル軍団は少年の前から去ろうとする。

 彼女たちが背を向けると、食い込んだハイレグの生尻がふるふる揺れていた。


 そして一刻も早く立ち去りたかったのだろうが、厚底ブーツと突風のせいでうまく走れないのか、よちよち歩き。


 カルガモの赤ちゃんの引っ越しのように、お尻ふりふりして去って行く彼女たちを、ボウイはなんともいえない気持ちで見送っていた。

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