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17 聖女のピンチ

 予想外のハプニングはあったものの、ボウイは吹き上げの通路を抜け、先行しているクラスメイトたちに追いつく。

 ギャルたちは赤い顔をして睨みつけてきたが、特になにも言ってこなかった。


 先頭のゴリタンは次の部屋を見つけると、赤い布を前にした牛のように走り出す。


 クラスのリーダーである彼は、危険が待ち構えている場所には誰よりも先に乗り込んでいく。

 それこそがリーダーであり、そして盾役(タンク)の本分であると思っているからだ。


 あとに続いた少年少女たちが、部屋の中で目にしたものは……。



 ……ゴォォォォォォォォォォォォ……!



 涅槃像のように横たわる、巨大な運河であった……!



「うほっ!? これは、かなりデカい川だな……! しかも、流れもかなり急だぞ……!?」



 遺跡の中に水が流れているのは珍しいことではない。

 しかしこれほどまでの規模は珍しかった。



「……あっ、あの! 助けて、助けてくださいっ!」



 呼びかけられた先には、すでに先客がいた。


 川岸に咲く花のように佇む、白いローブの集団……。

 特待科でも特に『高嶺の花』と呼ばれる女子たちがいる、聖女科の生徒たちであった。


 普段は学園では彼女たちのまわりには勇者科や賢者科の生徒たちがいて、近づくことすらできない。

 実習でも、いつもならキザで鼻もちならない者たちがとりまいているのだが、珍しく彼らはいなかった。


 2年D組の生徒たちはやや緊張気味に、特に男子はちょぴり赤くなりながら彼女たちに近づいていく。



「う……うほっほん! ど、どうした? 何かあったのかね?」



 よそいきの声音で、ゴリタンが尋ねると、



「た、タンポポさんが……! タンポポさんが、川に取り残されてしまったんです!」



 悲痛なる声音で、聖女たちの白い指が示す先は、運河の中州。

 そこには、吹けば飛んでいきそうなほどの儚い美少女が。



「私たちがこの部屋に入ったときは、川に水は流れていなかったんです! タンポポさんが向こう岸の様子を見るために渡ったのですが、途中で急に水が氾濫してきて……! 彼女は中州にあがって波にさらわれずにすんだのですが、取り残されてしまったのです!」



「うほっ! なるほど、そういうことか! そういうことならこのゴリに任せろ! 俺はちょっとやそっとじゃ流されねぇから、川に入って助けてきてやるよ!」



「……ゴリラボーイ、キミには無理なのさ、ライッ!」



 背後から声が割り込んできたが、もう振り向かなくても誰かわかった。


 彼は「ライライライ……」と手刀を切って、2年D組の間をすり抜ける。

 ゴリタンの前に割り込んで、説明していた聖女の手のをとり、うやうやしくキスをした。


 もちろんそれを黙って見ているゴリタンではない。



「うほおっ!? またてめぇかっ!? 2度も俺との勝負に負けたクセに、横からしゃしゃり出てくるんじゃねぇよっ! それに無理だと!? この程度の流れの川、ゴリなら簡単だぁ!」



 ライトニックは自慢の金髪を、フッとかきあげて応じる



「ライライ! 負けてなどいないのさ、ゴリラボーイ。それにキミは記憶力だけでなく、視力も良くないようだね。ライライとよく見るのさ。この川は浅いようだから、たしかに短足ボーイのキミでも入ることくらいはできるだろう。ライラライ! でも流れが急なうえに、上流からは丸太が流れてきている……! あんな猛牛の群れのような丸太にぶつかって、無事でいられるわけがないのさ! ライラライライ!」



「うっほぉっ! じゃあお前ならなんとかできるっていうのかよ!? (ワラ)みたいな身体したお前なんて、片脚を浸けるだけでさらわれちまうだろうよ! うっほっほっほっほっ!」



「ふっ、ライライ! ゴリラボーイはやはり、泥にまみれる庶民のようだ。考えからしてすでに泥臭いのさ! ライライララライ!」



「うっほぉぉぉぉーーーっ!? じゃあ、お前はどうするっていうんだよっ!?」



「ライならもっとスマートに、流れる丸太の上をひらりひらりと飛び伝って、お姫様を助けにいくのさ。ライライライってね!」



 ふたりのやりとりを「また、始まった……」といった様子で眺めている、2年D組の少年少女たち。


 そして当然のように、3回目の勝負……。

 どちらが先にタンポポを助けるかという勝負になった。


 しかしそれは、「よぉーい、ドンッ!」と誰かが合図した瞬間に決着。


 ゴリラ・タンク少年は、通過電車のような丸太の衝突を受け止めきれず……。


 ……ゴシャッ! 


 ライトニック・サンダース少年は、最初の丸太に脚をかけたとたん……。


 ……ツルンッ



「うっ、うほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?!?」



「おっ、溺れるっ!? 溺れるぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーっ!?!?」



 まるで年の近い兄弟のように、揃って仲良く流されていった。

 それでも彼らは争うように、手をとりあって、なんとか岸に這い上がる。


 濡れ鼠のまま、ごろんと大の字になって、



「うほっ! お前、なかなか、やるじゃねぇか……!」



「ふっ、キミこそ……! ライラ・ライラ・ライッ!」



 よくわからない友情ごっこを始めた。


 もう誰も彼らのことを見ておらず、クラスメイトたちは思案に暮れている。



「うーん、どうやったら、タンポポさんを助けられるのかなぁ……?」



「今までは川は干上がっていたそうだから、しばらくすると水は流れなくなるんじゃない?」



「たしかに、時限の仕掛けは遺跡によくあるけど、長いのだと1年はそのままってのもあるらしいぞ?」



「いつ終わるのかわからないものを待たせるのは、かわいそうだよね……」



 クラスメイトたちは、中州のタンポポを見やる。

 彼女は聖女科のクラスのリーダーなので、気丈に振る舞っているが、儚い感じの女の子なので、なんだかいたたまれないのだ。


 ちなみにもしアレがボウイだったら、誰も気の毒がるどころか、助けようともしなかっただろう。

 しかしボウイは逆に、助けるための知恵を絞っているところだった。



「うーん、どうすればいいんだろう? ボクは泳ぎが得意じゃないから、川に入るのは無理だとして……。かといって丸太の上を飛んでいけるほど、運動神経がいいわけじゃないし……。あ~あ、せめて空でも飛べたら簡単なんだけどなぁ……」



 思案とも愚痴ともつかぬ言葉を漏らすと、すかさず猫の鈴が鳴るような声が。



「あちらのタンポポ様をお助けするために、お空を飛ばれたいのですか? それでしたら……」



「えっ!? もしかして、ラスト・マギアって、空も飛べるの!?」



「はい、旦那様。『パラダイスカイストア』で、飛行装置(ジェット・パック)をご案内させていただきますね」



 ボウイはコエに促され、もはや慣れた手つきで、左腕のデヴァイスにはめ込まれた石板を操作する。

 『パラダイスカイストア』に浮かび上がったものを、勧められるがままに『今すぐ買う』と……。



 ……ぱぁぁぁぁぁ……!



 いつもの光が現れる。

 今度は、足にっ……!?

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