がぁるずとぉく
お風呂回は重要。
古事記にもそう書いてある。
湯気が視界を邪魔する水野家の浴室には二人の少女の姿があった。
茶色がかった黒髪をおろした少女がプラスチックの椅子に座っている子の清流のような髪を洗っている。
「わっ。ほんとに球体間接! それなのに柔らかいし髪もさらさら……どうなってるのこれ……」
「あの……見ての通り私は機械だから水浴びは必要ないと思うのだけれど……」
霧子に誘われ、なし崩し的に風呂で髪を洗われているルルリエはぼやいた。
「なに言ってんの。こんなに髪汚して……女の子なんだから綺麗にしなくちゃ。それに裸の付き合いって言うしこう言うのは気分よ気分。……あ、防水性とかは大丈夫よね?」
「それは問題無いのだわ」
「よかった」
一瞬故障を心配して手を止めた霧子は再びルルリエの髪を丁寧に洗い始めた。
わっしわっしと言う泡が増える音が浴室に響く。
「……何で私が此処にいることを許してくれたのですか?」
なすがままなルルリエは振り返らず霧子に聞いた。
話をぶり返すようだがあそこまで自分を敵視していたのにすんなり許可した理由が気になっていたのだ。
「あーそれはね……」
すると霧子の目が昔を懐かしむように細められた。
「昔、兄さんは猫を飼っていたのよ。でもその子も死んじゃってね。お兄ちゃんが貴方を家に置くことに決めたのはそう言う心の穴を埋めたかったからなのかな……なんて思っちゃったりして」
鏡越しに少し寂しげな表情を浮かべる霧子をみたルルリエは安心した。
そして同時に確信した。
この人は優しい人であり味方であると。
「その猫、何て名前なの……ですか?」
「えっと……たしかみぃちゃん? だっけ」
「あ! その名前! 私のお友達と同じ名前なのだわ!」
「へー。そう言う偶然もあるものなのね。そんな縁もあって貴方が此処に来たのかもね」
「それはとてもロマンチックなお話なのだわ!」
「ふふ……」
名前が一種の楔になったのかもしれない。
そう言う渡界の性質を知っていたから親友は自分を此処に送れたのかもしれないとルルリエはもはや知るすべの無い事を推理する。
そしてそれならばやはりいつか戻ることも可能なのではないかと僅かに希望の火を灯らせた。
「あと無理して敬語使わなくて良いわ。これから一緒に住むことになるんだし」
「わかったのだわキリコ! これからよろしくなのだわ!」
「うん。よろしく。ルルちゃん。泡流すわね」
「うん!」
二人はお互いに笑いあう。
それは心の距離が縮まったと言うこと。
出会いこそ良いものではなかったが友達になれそうだとルルリエは思う。
「にゃぁぁぁぁ!? あっ、泡が目に入ったのだわー! ショートするぅぅぅ!」
「えぇっ!? 防水は大丈夫って……」
「目は! 目はダメなのだわー!」
だが、お風呂と仲良くなるのはもう少し先のようだった。
お風呂で泡が目に入った時の痛さは異常。