エピローグ
エピローグです。
そう。エピローグです。
『また会う日までサヨナラなのだわ』
混濁した意識の中、その声だけが明瞭に聞こえた。
誰の声だっただろうか。
何だか寂しさを感じさせるその声は。
「おらぁ! 起きろお兄ちゃん!」
「ほぁっ!?」
腹に受けたずっしりとした衝撃に目を覚ますとそこは見知った天井だった。
そして腹の上には妹――――
「じゃない!」
「きゃっ」
霧子の顔を見て昨夜の出来事を全て思い出した蒼太は飛び起きる。
「あいたた……酷いじゃない」
「あっごめ……じゃなくて! 一体何がどうなって……!?」
「まぁまぁ説明してあげるから落ち着いて」
「落ち着いてられるか!」
自身の置かれた状況が理解できずにあたふたする蒼太に撥ね飛ばされた霧子はぶつけた頭をさすりながら言う。
「どうでもいいけど取り敢えず顔洗ったら居間に来て」
「あっ、はい」
後からじわじわ来た痛みのせいだろうか。
少し怒気を含んだ声に蒼太は素直な返事を返す他なかった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「よっ」
「お邪魔してます」
「やぁっと起きたか」
顔を洗って気持ちを一新させ居間へ行くとそこには昨夜戦った面々とセンがテーブルを囲み一同に会してお茶していた。
「どゆこと……」
昨日の敵は今日の友と言う諺があるが何をどうしたらこんな円卓のような席になっているのだろうか。
「まぁ机につきなさい。まずは君が一番知りたいであろうことから話そう」
三ツ境はそう言うと懐から一つの青い勾玉のようなものを取り出して机に座った蒼太の前に置いた。
「これがルルリエだ」
「ルルっ!? こんなに小さくなっちゃって……」
「私が言うのもなんだけど君はそれで良いのか……」
度重なる非常識に頭がおかしくなってしまっているのか勾玉をその胸に抱く蒼太に三ツ境は少し引く。
「まぁそのなんだ。ルルリエは封印させてもらった」
「封印……?」
「そう。化け猫の亡霊に何を囁かれたのか知らんがあいつは人を殺したから消した。だが今回は誰も死んでないし被害もほぼ無い。だから……温情って形にしておこうか」
「でもなんでルルは封印されてセンは大丈夫なの?」
「なんじゃ? わしの方が封印された方が良かったか?」
「あぁいや! そういうんじゃなくて……」
自分の物言いが悪かったかと焦る蒼太を見てセンはくつくつと笑った。
「すまんすまん。ちょっといじめてみただけじゃ。わしもさっきこやつらから聞いたんじゃがな。わしはこの世界で望まれて産まれたものでお主という観測者がいるから存在できていて世界に与える影響は少ないから封印する必要はないらしい」
「つまり……どゆこと」
「全然わからん!」
知らない世界の話をされても全く理解ができない二人であった。
その影響の尺度などを知らないので当然と言えば当然だがせっかく説明したのに理解をされず三ツ境は思わずずっこけそうになる。
「……まぁアレよ。すごく強い毒か弱い毒かみたいな話よ」
「「なるほど」」
「ほんとにわかった……?」
全然感情のこもってない相槌に本気で心配になる三ツ境であった。
しかし蒼太には一つ腑に落ちないことがあった。
「でもなんで今回は記憶を消さなかったの? 正直な話、前みたいに無かったことにしてしまえばこんな面倒なことをしなくてもよかったんじゃ……」
「また思い出されて恨まれても困るし……約束したからね」
「?」
「つまり君はこちらの世界を知るものになった。それは私の監視下において私の手伝いをしてもらうってことだよ」
「えぇ……」
「文句はそこの勾玉の中にいるに言ってね」
なんとも理不尽な要求だった。
一体ルルリエは彼女とどの様な約束をしたと言うのか。
物言わぬ石の中に目線で問いかける。
「ま、これから長い付き合いになりそうだし改めて自己紹介といこうか。私はこの地区の存在しないものを狩る守人の三ツ境芽依。んでこっちの仏頂面がユキ。霧子は知ってるわよね」
「名前はわかったけど……その子達とはどういったご関係で?」
「あぁ。そうね。ユキは私の家に代々仕えてる式神で霧子は普通の人間で後輩。紆余曲折あって……弟子みたいな何かよ」
「そんなぁ。愛弟子じゃ無いんですかぁ?」
三ツ境はすり寄る霧子を慣れたように軽くあしらうと話を続ける。
「と、言うことで過去の事は水に長そう。君も落ち着いて考えたらわかるでしょ? アレらはそうするしかなかったんだって」
「……そうだね。納得はできないけど理解はしてる」
「よしっ。それじゃ大団円! 解散ね! じゃっ!」
「ええっ!? 何かこう……余韻とか今後の予定とか無いの!?」
話は終わったとばかりに去ろうとする三ツ境を引き留めると彼女は先程までの落ち着いた雰囲気から一変。あからさまにめんどくさそうな顔をする。
「あなた達の起こした騒動のお陰さまでこちとら時間がないのよ」
「えっ!? それってヤバイやつ?」
「ヤバイわよ。とんでもなくね……」
「一体何が……」
「中間試験よ!!」
季節は春の終り。
世界よりも何よりも目の前にそびえ立つテストという壁が学生の身分である三ツ境には大事であった。
蒼太は騒動の中でこの子を過大評価していたと思い直すと一つ提案を出した。
「……勉強見てあげよっか?」
「教えられるの!? ただのニートじゃなかったの!」
「だいぶ失礼だよね!? 確かにそうだけど! そうだったけど!!」
唐突に開催が決まった勉強会。
蒼太はこれでも大学に通っていた身。
多少勉強はできた。
「家でやっててもなーんか集中できないし……分かった! 勉強道具持ってくる!」
「お、おぅ」
時間のない三ツ境は蒼太の家を飛び出す。
「あ、待ってくださいよ~」
「あんまり急いでも帰ってあぶないですよ」
そしてその後をお付きの二人が追いかけて行った。
その二人から逃げながら三ツ境まるで嵐が去った後のような水野家でぽかんと間抜け面を晒す蒼太を振り返る。
「せめて蒼太の記憶の中だけでも一緒に居させて欲しい……か」
ルルリエは彼のどこを気にったというのか。
数年前の事件からマークだけはしておいたのだが外見は良くも悪くも普通だしそこまでの魅力があるとは思えない。
初めて見た親以外の異性が蒼太だったからか、彼の優しさや心に触れたからか。
それとも――――。
「……いや、不粋だな」
人を好きになるのに理由などどうでも良い。
その「好き」がどんな形だったとしても自分達を動かしたのは事実だ。
今はそれだけで良いではないか。
「さぁて。どうこきつかってやろうか」
この世界にはまだまだ存在してはいけないものが溢れている。
それらを退治する三ツ境の目標に新しく「存在してはいけないものが存在できる方法」を探すことが加わった。
これにて一章は終わり! 閉廷!
口調とか週またぐと安定しないしあなぼこだらけなので直しつつ2章へ行きたいと思います。
なのでちょっと次は遅れるかもしれません。
ご了承ください。
まぁ完全趣味の奴だから誰にも文句は言わせないがな!




