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第4話 こんな結果想像できる!?

 生暖かい鼻息が直に当たることでこれが現実なのだと無理矢理にも理解させられた巴笑は顔を青ざめさせたまま顔を勢いよく横に振った。


「そうか、よかったよかった。危うく食べ残しを付けたまま従来を闊歩、いや、飛行していたという醜態を晒していたということになっていたな」


 本当に良かったと思ったドラゴンは何度か首を縦に小さく頷くように振ると、視線を今度は巴笑に向けた。


「そういえば、お主、尾はどうした? 見当たらぬが?」


 そこで巴笑は急いで自分の臀部に視線を動かした。


 そこには当然尻尾などいうものは付いてはいない。人間では普通だが、ドラゴンからしたら異常なのかもしれない、と巴笑は考えた。


 ドラゴンは完全に巴笑を同族として認識している。


 巴笑が推測するに、ドラゴンが人間に化けられるということはごく当たり前にできることなのだろう。

 未だ巴笑はこの世界の情勢も種族間の事も何も知らない。


 もしも、同族であったために襲われなかったのだとしたら、と考えると巴笑は自分が今とても危険な状態になっていることに改めて気づき身震いした。


「まさか、お前……」


 一瞬ドラゴンが持つ爬虫類独特な鋭い目が光った気がした。


 その大きな盾に裂かれた同行が恐ろしくて体が強張りただただその場に座り込むしかできなかった。


 ゆっくり開くドラゴンの口、そしてその中で光る先端が張りのように尖った牙が目に映った瞬間、喰われると思い目を強く瞑った。


「切り取られたか?」


 ドラゴンが言った言葉を理解するのに数秒の時間を費やすと巴笑はこの場を乗り切るためにその話に便乗することにした。


「そ、そうなのよ! いやぁ、ま、まいっちゃうよねホント! 尻尾切り取られた時すっごい痛くて! 人間の姿なら傷口が小さくなって痛みも減るかなぁ、なんて……そ、それで、今こんな姿なんだよ!」


 精一杯自分は負傷したドラゴンですと演技と虚言を使って演じる。


 ドラゴンがもしみんな目の前にいるドラゴンのような喋り方だった場合ここで巴笑の第二の人生ならぬ杖生は終わる。


「おぉ、やはりか!」


 結果、命をベットした賭けに勝った巴笑は内心で今世紀最大のガッツポーズをとった。


「ふむ、やはり人間は滅ぼさねばならぬな」


(人類の皆さんごめんなさい。どうやら私は人類滅亡に加担してしまったようです)


 巴笑は確かに何か地雷のようなものをを踏みしめた音を確かに聞いた。


「な、なんでそう思うんですか?」


 穢れた大人の世界という場所で生き残るために身に着けた作り笑顔を必死に作るが、その笑顔の仮面はどこか歪だった。


「異なことを聞くな同族よ。我らならば人間を忌諱するのは当たり前であろう。嫌悪するのは当然で、人を憎悪し、論なく厭忌する。それが我等であろう?」


 あぁ、駄目だ、これは駄目だ。これはもう駄目だなのだろう、と巴笑は思った。

 すでにこのドラゴンは、もうすでにこのドラゴン達は人間達の事を完結させてしまっている。


 自分自身だけで、身内同士だけで完結してしまっている。


 もう変えられない、巴笑は絶対に人間であることがばれてはいけないと思った。


 今が人間でなくても、人間の姿をしているだけで、もしくは前が人間であるというだけで殺される可能性がある。


「お前、尾を切り取られてから何日たった?」


 問われた問いに対して巴笑は必死に思考する。


 ドラゴンが何故そんなことを聞くのか、それは暗に時間がたてば何かが起こることを示している。


 ここでもし長い時間が経っていることを言えば訝しく思われ、逆に短すぎる答えを出せば、もしこの近くに人間がいたらその人達が犠牲になる可能性がある。


「え……っと、い、ふ、二日ぐらい……かなぁ……」


 トカゲの尻尾は完全に戻るのに半年から一年かかる。


 しかし、ここは完全なファンタジーの世界、地球の常識は通用しないはず。


 ドラゴンの飛行スピードは先ほど巴笑は身を持って体験した。


 故に、二日程度あればかなりの距離が移動できると踏んだのだ。


「二日か、なら、丁度今日生え変わるな」


(ジーザズ!)


 丁度いいと思っていった日数がちょうどいいタイミングな


「生え変わったら、ともに人間の所へ行くぞ」


 人間のいる所、想像するのは暖かい家と温かい食事、そして賑やかな人々。

 今いる森とは違う文明がある場所。


 だが、目の前のドラゴンを見た瞬間、その思考はなくなった。


「な、んで、人間の所へ行くの?」


「滅ぼすのだ。爪で引き裂き、牙で砕き、足で踏み潰す」


 笑っている、目の前の絶対種は長い口から白い牙を露わにしながら嗤っている。


 どうしてそこまで人間を憎んでいるのか、どうしてそこまで人間を滅ぼすことに愉悦を覚えているのか、巴笑は分からない。


 分かってはいけない気がした。



 分かってしまったら、後に引けなくなってしまうよな気がした。


「な、なんで……」


「うん? まさかお前……あぁ、お前はまだ生まれて間もないのだな」


 一匹だけで勝手に納得を示したドラゴンはその場に寝そべった。


「そうだな、いい機会だ若者。歴史を教えるのも年長者の義務、この私が昔話を語ってやろう」


 年長者らしいその物言いは、大人が小さい子供に紙芝居を披露するかのような様子をしていた。


「昔、それは本当にまだ昔、人が国を作る前、まだ文明がなかった時代。我等はまだ人を嫌悪していなかった。むしろ、我等は彼らを救ったのだ」


「えっ? 助けてたの?」


 巴笑は心底驚いた。


 この嫌悪と憎悪の喧嘩のような目の前のドラゴンが、現在嫌っていた対象を昔は救っていたのだ。

 そして、巴笑は心底このドラゴンたちの過去に途轍もない興味を抱いた。


 素直に驚いた表情をした子供を見た大人は小さな笑みを浮かべた。


「ああ、助けたのだ。私達はな、彼らを隣人として、または愛するものとして、できることをしたのだ」


 色あせない過去に思いを寄せて、懐かしむように笑みを浮かべている。


「私達は長寿だ。人間達が人間になる光景を直に見てきた。あの頃は楽しかった。奴らは好奇心旺盛でな、人間の子供など私の背中によじ登ろうと必死になってなぁ、いつ背中から落ちないかどうか何時もひやひやしていたものだ、ははは」


 その笑みは年老いた老人が孫に話しかけるような優しさが含まれているのを巴笑は感じた。


 だが、次の瞬間にはその笑みは消え失せていた。


「本当に、あの頃は楽しかったのだ……人間が知恵を付ける前まではな」


「……何があったの?」


「……人が、知恵をつけ、国を作り始めた時、悲劇が起きたのだ」


 悲劇、それこそが決定的に人間とドラゴンを敵対させた要因だったに違いない。


「私達は人を愛した。脅威を退けてやったこともある。だが、奴らは裏切った」


 ギシリ、と、歯を食いしばる音をドラゴンはたてる。


「奴らは裏切ったんだ。仲間を、家族を、約束を! 奴らは私達を裏切ったのだ」


 怒りを感じる、猛烈で壮烈な焔のような怒りの感情がドラゴンの瞳に宿っている。


 ドラゴンの拳に力が入る。

 その鋭利な爪と強靭な鱗を持つ拳は、その場の大地に深い傷跡を残す。


「奴らは、赤子を、私達の皆の家族を仲間を殺した」


 母親になったことがない巴笑にとって子供が殺され時の怒りは分からない。


 だが、怒れるのは分かる、分かってしまう。


 あの時、母親が撃ち殺された時、父親が銃殺された時の怒りは、殺意は本物だった。目の前の敵を、目の前の悪を、目の前の怨敵を殺す、それ以外考えられなくなった。


 それを目の前のドラゴンは今この時まで持っているのだ。


「我等の鱗は頑強。故に、奴らは欲した。最強の盾を欲した。そのために、そのためだけに、奴らはまだ生まれて間もない子供を攫い、殺し、鱗を剥がして鎧にしたのだ」


 それは、人間に例えると何とも悍ましいものである。


「しかも、奴らはその鎧を着て実の母の前に現れた! 当然怒り狂ったその子の母はそ奴らを皆殺しにした。そしたらどうだ! 奴らは悪しき龍だ、邪龍だなどと宣い、正義の力だとか言いながら殺したのだ!」


 巴笑は想像する。


 自分の娘、自分の親を殺した者が、その親が身に着けていた物を持っていたら、しかもそれを誉だ、武勇の証だなどと宣いながら意気揚々と現れる姿を思い浮かべる。


 あぁ、これは、なんて……殺したくなることだろうか。


「奴らは血も涙もない畜生共だ! 生かしておけば多くの種が根絶することになる!」


「そんなこと、ッ!」


 とっさに否定しようとしたが、その言葉は最後まで出てこなかった。


 地球内にはすでに絶滅した種族が多数いる。勿論すべてが人間のせいではない、だが、確実に人間のせいで絶滅した種族は存在する。


 故に、巴笑は否定できない。


 多くの知識を持っているが故に、滅ぼされた経験があってしまうがために、元来正直者な元人間はその言葉を口にすることができなかった。


「そんなこと? お前、その尾は人間に切られたのだろう?」


「え……っと、た、確かに、私の尾は人間に切られたよ。で、でも、優しい人間だって、きっと」

「いない」


 巴笑の言葉は大人の確信めいた言葉によって遮られた。


「確かに、私達に優しく接する者もいるだろうが、それは恐怖からくるものだ。逆らったら死ぬ、故に奴らは私達を歓迎するだろう。奴らは異物を好まない。人と同じ姿、同じ性能をしていなければ、奴らは排除する」


 断言された言葉は巴笑の心に、人でなくなった巴笑の心の奥深くで木霊した。


「人は人しか愛さないし、愛せない。お前が何故そこまで人に肩入れするかはわからないが、もし人と仲良くなりないのなら諦めろ。我等は人ではない」


 人ではない。その言葉は想像よりも重く巴笑の肩にのしかかる。


 人の姿をしていてもそれは仮初であり、仮初であるからこそ、正体がバレた時、いったいどうなるか分からない恐怖が巴笑の足を竦ませる。


「ふむ、つい話しすぎたようだが、こういうことは既に両親から聞いているだろう? お前、親はどこにいる?」


「えっ!? そ、それは……」


 親と聞かれて思い出すのは無残な姿。


 体中に穴が開いた姿。そして、その周りにいた親以外の死人達の姿。


 そして、昔興味本位で調べた傷の種類の全てが見られてしまう現場を思い出した。


 熱傷(ねっしょう)擦過傷(さkkしょう)挫滅創(ざめつそう)裂創(れっそう)切創(せっそう)咬傷(こうしょう)咬創(こうそう)挫創(ざそう)挫傷(ざしょう)割創(かっそう)杙創(よくそう)銃創(じゅうそう)爆傷(ばくしょく)、変色して異臭を放つ元人間達にあった傷は多岐にわたっていた。


 思い出すだけで吐き気を催し、胃液独特の酸っぱさが口腔内を支配する。


 顔を青くし何かを我慢するような雰囲気を醸し出す巴笑の姿を見たドラゴンは罪悪感に囚われた。


「すまなかった」


「えっ?」


「辛いことを、思い出させてしまったようだな」


 内心を見透かされたことに巴笑は腹を立てなかった。

 逆にその申し訳なさと共に感じる温かみがとても心地良いものだった。


「お前、名前は?」


「え? と、ともえ……」


「トモエか。意味は分からないが、きっと素敵な意味を持っているのだろうな」


「あ……」


 大きな口に笑みを刻みながら名前を褒めるその姿に、巴笑は母親を幻視した。


 柔らかなその手で頭をなでてくれた私の最愛の人。



『巴笑。あなたの名前には〝美しさと才能をもった人〟という意味があるの。でもね、やっぱり巴笑にはいつまでも笑顔でいてもらいたいの。だから、私達は〝巴〟に〝笑顔〟をという願いをこの名前に込めたのよ』


 母お言っていることは小さな私には難しすぎて、けれどそこにはすごい意味があるのだと感覚で理解できた。


『へぇ、じゃぁ、私、一杯頑張って、名前に負けないようにしないといけないね!』


 だから私は元気よく返事を返した。

 母に笑っていてほしくて、笑った顔を見たくて、私は無邪気な笑顔を振りまいた。


『うふふ、そうね。じゃあ、私と一緒に勉強しましょう』


『えぇ~、わたしおべんきょうきら~い』


 勉強が嫌いなことを隠しもしない私に苦笑いをするも、母は乾いた笑みを零した後に、再び優しい笑みをそこに浮かべた


『しょうがない子ねぇ。じゃぁ、私も一緒にやってあげる』


『え、本当?』


『えぇ、一緒にお勉強しましょう。ちゃんとできたら、ケーキ作ってあげる』


『ケーキ!? うん! わたし、がんばるよ! がんばったら、いっぱいほめてね!』


 種族も違う、大きさも違う、それでも、それでも思ってしまう。重ねてしまう。

 嫌がる私に嫌な顔一つせずに温かみうくれた人。


「おかあさん……」


 意図せず出てしまった言葉に涙が零れそうになる。


 懐かしさとともに現れたもう二度と会うことができないという現実が涙腺を刺激する。


 だが、なんとか残った理性が働き涙は出なかったが、目はきっと赤くなっている。


「……トモエよ。お前が良ければだが、私の娘にならないか?」




「……はい?」


 ドラゴンの唐突な提案に巴笑は間抜けな顔をした。


「そうか、よいか! ならば今日からお前は私の娘だ。ならばさっそく仲間に紹介せねばな」


 聞き直すために開いた口がふさがらない。


 ドラゴンの言葉を正確に理解するためには、一瞬では足りなかった。


「え? あれ?」


 気づいたらドラゴンの巨大な手に全身を拘束され、同時にその背にある大きな翼を広げて飛ぶ準備ができていた。


「口を閉じよ。舌を噛むぞ」


 そしてついに大空を舞った。弱肉強食の自然の世界から、人間が遥か昔から憧れた空へといる場所を移した。


 しかし、そこには感激や感動などはなかった。


「え、えええぇええええぇえええええ!」


 巴笑には、その感動を覚える余裕はなかった。

巴笑「あれ? お父さんの記憶は?」

作者「お父さんよりもお母さんの方が絵的にいい気がして」

巴笑「お父さん……なんて不憫な……ま、いっか別に」

父「……(泣)」


次回からこんな会話を後書きに入れようかと思います。

よろしくお願いします。

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