帰路
もうちょっと早く書けるかと思ったのですがすいません。
「殿下殿下」
「ん?もう朝か・・・。」
いつものようにメイアリアに起こされると、見覚えの無い所に居た、って、あーそっか昨日はセレンス村にそのまま泊まったんだっけ。
「おはようメイアリア・・・。」
「おはよう御座います、今日もいい天気ですよ、殿下。」
まー紅龍皇朝は基本常夏だから天気は勿論良いんだが、オレはたまたま暑いのが気にならない体質だったから助かってるけど、窓からみるとメイアリア貴下の竜騎士達は可愛そうな位暑そうだ。
「殿下、そろそろシルバーンに戻る支度をしませんと・・・。」
「あーそうだね。」
オレは窓際の急遽用意されたベットから這い出るとメイアリア達が一応用意していた凱旋用の軽鎧をのろくさと着始めた。
要するに今回は緊急だったけどこれでも第一皇子の初陣だった訳でそれなりに国民に対してきちんと凱旋パレードとかしないと国民に対して示しがつかないとかなんとか・・・。
色々面倒臭いなーそんなに格式ばった国じゃ無いけどさ紅龍皇朝って国って。
皇族って割には戦闘担当だったりするから格好良く帰らないといけないとか・・・。
「メイアリア。」
「はい、どうかなさいましたか殿下?」
「いやさ、その派手派手しいマントとかも付けなきゃ駄目なの?」
「そうでしょうか、私はさほど派手だとは思いませんが。」
そこじゃなくてー!!
「まーいいやもう、確かにオレは暑いのとか関係ないから。」
オレはげんなりしながらもメイアリアに言われるままド派手なマントも肩から掛けると一階に降りて外に出た。
「おお、ハーク殿下、似合いますね。」
と、カインさんに言われてもあんまり釈然としない。
「あんまり好みじゃないなーこの格好。」
「まあまあそう仰らずに、後は乾燥地帯を抜ければ迎えの馬車が居ますので。」
「でもさー来たときはドラゴンでばーっと飛んできたのに帰りもそれじゃ駄目なん?」
『いえ、殿下、今回は殿下の初陣としてもう既にシルバーンの民に知れ渡ってますので流石にちゃんとしませんと。』
とブラックドラゴンさん。
「あーそうだね・・・もうみんなに知れ渡ってたんだよなー出陣式しない代わりに凱旋しないと駄目かー。」
『まあ、そう面倒くさがられても困りますな殿下、どのみち迎えの馬車迄は距離がありますのできた時と同じように帰りますよ。』
「ハーク殿下、初陣は今回だけですので次回はこのように面倒には成りませんよ。」
「そうですよ殿下、本来なら毎回国民に戦闘行動の予告などしませんし。」
カインさんとメイアリアに諭されてオレは渋々シルバーンに凱旋しに帰路に付いた。
あーもうこのマント邪魔臭い!!
『ガハハハハハハ、それなりに似合ってますぞ殿下。』
横でブラックドラゴンさんがいつものように豪快に笑っている。
「ていうかメイアリアもなんか着なくて良いの??」
オレは隣に乗っているメイアリアに向かって言った。
「私は今回は初陣では在りませんし、殿下もこの次は特に面倒な式典等はないと思いますが。」
「あーほんと、そー願いたいねーこの軽鎧って割には結構窮屈だしこれ。」
「殿下、そう馬鹿にもできないのですよその鎧は、きちんと戦闘に耐えられる作りに成ってますので。」
とオレの前に座っているカインが言う。
「もーなんでもいいや、早く帰ってこれ脱ぎたいよ。」
そんな悪態をつきながらも和気あいあいと俺達は迎えの馬車までの飛行を楽しんでいた。
ふと、メイアリアが前方を指差して。
「まあ、珍しい、ギンヤンマですよ殿下、それもあんなに沢山。」
どうやらこっちの世界のトンボみたいだが、俺達との飛行コースと交差しそうな感じでこちらに飛んでくる。
『まだ大移動の時期ではない筈だが珍しい事もあるのう。』
ブラックドラゴンさんも興味深々だ、そうこうしている内にギンヤンマの集団の先頭が俺達の前にさしかかる。
ギンヤンマも飛んでいる俺たちに興味深々なのか何匹か、俺達に停まったりしてしばらく一緒に飛んでから本来の方向に飛んでいくのかと思われたその時
メイアリアの右手に停まっていたギンヤンマが甲高い爆音と共に爆ぜた!!
ガギィィンッ!!!!!
咄嗟に身をかわしたが流石に距離が近すぎた、メイアリアとブラックドラゴンさんは錐揉み状態になってそのまま落下していくが
なんとか途中で体制を立て直して地面に難着陸した。
俺達も後を追って降下する、あまり高い高度を飛んでいなかったのが幸いした。
「メイアリア!!」
オレはカインさんのドラゴンから飛び降りるとメイアリアに駆け寄った!!
「ゴ、ゴホ!」
メイアリアが咳き込むとおびただしい量の血がメイアリアの口から流れ出した、まずいこんなの俺にはどうにも・・・。
カインさんとその他の竜騎士達も即座に駆けつけ治癒魔法をメイアリアに掛け始めた。
「殿下、すいません、やられちゃいました、ゴホゴホ。」
「馬鹿、喋るな溺れるぞ!!」
『殿下ここは冷静に成ってください、その程度の負傷で死ぬほど姫はやわでは在りません。』
「でもそんなこと言ったって、こんなに血が!!」
『今はこの状況をどのように脱するかを考えるべきです。』
この状況?? この状況!!!
そういわれてはっとして周りを見渡すと先ほどのギンヤンマの集団に俺達はすっかり取り囲まれていた、それもとても数えられる様な数では無い。
『ギンヤンマは元来集団で移動する上数が非常に多いので大きさの差はあれど、これでは多勢に無勢です。』
「なんで、こんな事に。」
『さてワシも記憶に有りませんが状況から考えて魔導王朝の仕業としか思い当たりませんな。』
そういいながらもブラックドラゴンさんの耳からも赤黒い血が流れ出している。
「ブラックドラゴンさんも耳から血が!」
『まあ、姫ほどではないのでさほど問題はございません、が、きちんとワシ等の弱点をついてきていると成るとやはり奴等の差し金ですな。』
「殿下!!私達の治癒魔法では止血するまでがやっとです!!」
なんてこった、治癒魔法も万能じゃないとは知ってたけど・・・。
『まったく、姫が今まで無理を通して再生槽に入ってこなかったのが災いしたか。』
「メイアリアってそんなに無茶してたの!!」
『殿下も知っての通り治癒魔法はあくまでも治癒能力を増大させるだけで細胞の分裂回数は龍族といえど有限ですからな、カイン、姫の止血が済んだのならワシの方も頼む
此れでは流石に飛行もままならん。』
「ドレイクさんを先に帰したのが間違いだったか・・・。」
そうなのだ、ドレイクさんは早朝に戦況報告や凱旋パレードの手配やなんかをしに既にシルバーンに戻って居る。
「あらあらあら、痛そうですわねー。」
俺達の頭上から不意に声が聞こえた。
見ると黒いローブに身を包んだ正しく魔導士という風情の女がそこに浮かんでいた。
黒いローブの女は地面に降り立つと、恭しく一礼して自己紹介を始めた。
「これはこれは、お初にお目にかかります皇子殿下、私、魔導王朝で魔導士をしております、アーシェリカと申します、気軽にアーシェとでも呼んで下さいませ。」
明らかに敵の癖に気軽になんてふざけた女だった!
『殿下ここはおさえて下さい、まずは相手の出方を見ましょう。』
オレは静かに静かに頷くと、相手が喋るのを待った。
「それにしても皇子殿下、昨晩の戦いは見事でした、私、敵ながら感服致しました、本来ならばこうしてお目にかかる手筈では無かったのですが、二、三、お聞きしたいことが御座いまして、こうして参った訳で有ります。」
聞きたい事??
こっちにとってはメイアリアが大怪我させられてるのに聞きたいことだって??
「なんだ?」
「いえいえ、皇子殿下はあの技術を何処でお知りに成ったのか興味が御座いまして。」
「あの技術? 技術もなにも別に・・・。」
「またまた御戯れを・・・。」
なんだ、話が噛み合ってないぞ、オレからしてみたらメイアリアを早く何とかしなきゃいけないのにこんな所で敵と暢気に喋ってなきゃいけないんだ!
オレが困惑しているのに痺れを切らせたのかアーシェリカと名乗った魔導士が続ける。
「どうやら私の杞憂の様でしたね、それでは私はこの辺で失礼させて頂きます、どうやらそちらの援軍がいらした様なので。」
そういい残すとアーシェリカと名乗った魔導士はギンヤンマの群れに隠れるとかき消えた。
しっかりギンヤンマが残っている辺り流石に敵だなと感心したが、そんな場合ではなかった。
「援軍、援軍なんて来てる??」
『どうやらそのようですな、まったく、暢気に飛ばずに走ってくるのがそろそろ見えますよ殿下。』
ブラックドラゴンさんに促されるまま街道のシルバーンの方を見ると砂煙を上げて大型の猫化の動物の様に走ってくるなにかが見える。
するとのそ何かはキラリと瞬くと俺達に向かってすさまじい速度の火球を吐いた!!
ゴバァア!!!
俺達の周りのギンヤンマだけを爆発に巻き込み炎が避けて通る!!
『まあーったくなんてザマだい、第一騎攻師団の癖に!!』
炎が吹きすさぶとブラックドラゴンさんよりも一回りがたいの良いレッドドラゴンが小さいドラゴンを従えて其処に居た。
「プロフェッサー、申し訳有りません。」とメイアリア
プロフェッサー??
『あらあらまあまあ、メイアリア、玉のお肌が傷だらけじゃないかい!!』
『暢気に走ってきておいてよく言うわ!!』
『煩いねえこの黒いのは、いつも言ってるだろ主役は遅れて出てくるものなんだよ!!』
『まったく、どうせチビドラ達が付いてこれないから走ってきたくせにのう。』
おいおい、オレを置いて話を進めないでくれよ。
『これはこれは、お初にお目にかかります、・・・』
いやいや、そのやり取り今日二回目なんだが・・・。
『まあ、取りあえず自己紹介は後にしまして、この蚊蜻蛉を蹴散らそうかね!』
『そうだのう、久しぶりにあれをやるか。』
ブラックドラゴンさんもカイン達竜騎士の治癒魔法で負傷が治っていた。
『お前達、自分の身は自分で守るんだよ!!』
そういわれてレッドドラゴンの近くをピイピイ飛んで居たチビドラ達がオレに引っ付いた、いや、地味に重いんだが・・・。
カイン達竜騎士もなんか判ってるみたいでオレをメイアリアの近くに引き寄せると水防壁の魔法が俺達全員が入る様にすっぽりと覆った。
それを待っていたのか、レッドドラゴンが火炎を吐きながら地面すれすれをコマの様に旋回する!!
ブラックドラゴンさんはギンヤンマをウォーターブレスで弾き飛ばしながら上空に昇って行くとレッドドラゴンと同じようにウォーターブレスを吐きながら、(いやミストブレスか?)旋回しだした。
地面がレッドドラゴンの火炎によってブスブスと熱を帯びる。
上空ではいつの間にか黒い雲がたちこめていた。
次の瞬間、レッドドラゴンが急上昇すると熱風が吹きすさぶ、その熱風に向かってブラックドラゴンが急降下すると上空から水分を伴った冷気が降りてくる
ドラゴン達が交差した瞬間今まで見たことのない量の稲妻が爆音ともに辺りに降り注いだ!!
ゴガガガガガガガガ!!
稲妻が鳴り止んでも暫く地面までビリビリと電気を帯びていた。
あれだけいたギンヤンマも跡形も無く消え去っていた。
『あーすっきりしたねえーやれやれ、まったく、あたしが来なかったらどうなってた事やら。』
『毎度毎度チビドラ優先で事を運ぶからこうなるんだ。』
『煩いねこの黒いの、もっと真っ黒にしてやろうかね!!』
あれ、この二人っていや、二頭か・・・。
「申し訳有りませんプロフェッサー。」
メイアリアがなんとか話しかける、だがまだまだ予断は許さない状態に見えた。
『あーあー良いんだよメイアリアは、相変わらず無茶ばっかりしてたんだろう、この黒いのが付いてるくせに、困ったもんだよ。』
『うるさいわい、いつも一言多いんだお前は!』
その二人のやりとりをみてメイアリアが力なく笑う。
「つかさーちょっと君達重いんだけど、もう大丈夫だと思うけど。」
オレがそう言うと、ちょっと不満げにオレに引っ付いていたチビドラゴン達がオレから離れてレッドドラゴンの元に飛んでいった。
レッドドラゴンもやっとオレの存在を思い出したらしく、再び向き直って自己紹介を始める。
『ハーク殿下、申し遅れました私、殿下の騎竜としてハーク殿下の下に参りました、こちらに来る前は中央学府にて教鞭を執っていまして。』
「あーそれでメイアリアにプロフェッサーって呼ばれてたんだね。」
やっと合点が入った。
『中央学府で教鞭を執る前は殿下の伯母上であられます、皇太姫陛下の騎竜として大陸中を飛び回ったものです。』
「伯母上って今、中央学府の学長の?」
『おや、良くご存知でいらっしゃいます、皇帝陛下が仰って居たよりもハーク殿下は聡明であらせられますね。』
『もう、その辺で良いでは無いか、どーせいつもの様に上品な喋り方なんぞすぐ飽きるのだろうが。』
『煩いねこの黒いの!本当に消し炭にしてやろうかね!!』
あーあ、言ってるそばから、ってかこのレッドドラゴンさんもキャラ濃いな・・・。
そうこうしている内に聞き覚えの有る音と共にシルバーンの方の空間が斬れてカエサルさんが現れた。
『おおーカエサル気がついてくれたか、すまんすまん』
「いえ、流石にお二人の暴爆雷陣を見落とすことは有りませんが、大事ありませんか??」
『わしらは平気だが姫がな・・・。』
「此れはいけない!!直ぐに再生槽にお送りします。」
「すみませんカエサルさん。」
メイアリアが掠れた声で言う。
「ではハーク殿下失礼してメイアリア様を先にお連れします。」
「うん、ありがとう、俺達も直ぐに帰るよ。」
俺達はカエサルさんを見送るといつもの様にドラゴンに騎乗してシルバーンに向かう。
「ねえねえ、メイアリアってさーそんなに無理してたの??」
オレの疑問は尤もだった今回怪我をした為に再生槽とやらに入らないといけないとか、ちょっと初耳だった。
『いえ、本来ならばあの程度の負傷でしたら再生槽なぞに入らなくても問題は無いのですがな。』
「ハーク殿下、治癒魔法の弊害は授業で学ばれましたか?」
とカイン。
「まあ、ざっとは習ったけどさ、要するに治癒魔法って細胞とかの傷を治す速度や力を増すだけなんだよね、それはさっきも言ってたじゃない?」
「はいそうなのですが、姫の場合、今まで負傷した度、治癒魔法で治しては来ましたが再生槽には入って無かったのでそろそろ体中の各部の細胞の分裂回数がバラバラに成ってきてしまいまして。」
「えー!じゃーそんなに無理してたの!?」
『まあ無理していたというよりは乙女心って事かねえ。』
横からっていうかオレの下からレッドドラゴンさんが口を挟む。
『お前が乙女って柄か?』
『煩いよ!あたしじゃなくてメイアリアの事だよメイアリア!!』
??
『なんだい、ハーク殿下は意外と、とうへんぼくかい?!』
あ、いやーまー、なんつうか、まー。
『まったく親父に似てはっきりしないねえ。』
『その辺にしとけ赤いの。』
「ようするにあれか、怪我するたんびに再生槽に入って若返ってたらなんかちょっと卑怯かなって事かな?」
『ほう、中々判ってるじゃないか殿下! 皇帝陛下よりはいくらかマシだね!』
『まったく、ついさっきまで畏まって喋ってたと思えばもう此れだ。』
『煩いよ外野は黙ってな!!』
なんかこの二人って夫婦漫才?!
なんやかんや在ったがなんとか迎えの馬車が来ている街道騎士の詰め所にたどり着いた。
つーかこれちょっと派手だろ・・・。
オレは迎えに来ている馬車を見てげんなりするしかなかった・・・。
だってまさに野球で日本一に成った球団がパレードするような馬車が、ずらーーーーっと並んでいる・・・。
当然の様に第一騎攻師団全員分とオレとオレの騎竜のレッドドラゴンさんが乗る分の馬車まで在るのだから。
どうしよう逃げたい・・・。
『殿下まさか逃げたいとか思ってませんよね?』
レッドドラゴンさんまでモノローグ読むし・・・。
「あーもー判りましたよ判りました、乗れば良いんでしょ乗れば。」
観念して乗り込むとまあまあの乗り心地で悪い気はしなかった、デザインとか派手過ぎるのを除けばだが・・・。
街道沿いでちょくちょく手を振られたりしてそのままのんびりとシルバーンまで帰って来ていつも開いているはずの門が開くと花吹雪が・・・。
あーなんかこれオレのキャラじゃねーなー・・・。
みんなお祭り騒ぎとか好きなのねー。
道中レッドドラゴンさんから聞いた話によると、普通の人と龍族の平均寿命が違いすぎる為に、皇子とかの初陣の出陣パレードとか凱旋パレードって一生に一回見れるか見れないからしい。
だからオレの初陣がどうとか成ったときに瞬く間に話が広がったって寸法だ。
まーみんなで称えてくれるのは素直に嬉しいけど、ぶっちゃけオレはメイアリアが心配で早く終わらねーかなーって感じだった。
続きは来年になるかも知れませんが来年もよろしくお願いします。




