ロビーで酒盛り
風呂上がりに何か飲もうかと、自販機に向かう。
腹は一杯だし、ビールよりチューハイの気分だな。
小銭を入れてボタンを押す。
ガシャンと落ちてきた缶を拾い、プルタブを開けて口をつけようとした時だ。
「アハハハ~」
間延びした笑い声が、ロビーに響いた。
どうやら、ソファで誰かがバラエティ番組を見ているらしい。
たまにいるよな。部屋じゃなくて、ロビーでくつろぐ人。
……でも、なんか聞き覚えのある声だな。
「って、みのりさん?」
ヒョイとソファを覗き込むと、そこには売店で買ったらしき柿ピーやポテチをつまみに、缶チューハイを飲んでいるみのりの姿があった。
「あらまあ、玄君。あなたも一緒にどうかしら~?」
頬をほんのりと赤く染め、すっかりほろ酔い気分のようだ。
「みのりさん。なんで部屋じゃなくて、こんなとこで酒飲んでるんですか?」
「凛花ちゃん、お散歩するってお外に行っちゃったのよぉ。部屋で一人で飲んでても、寂しいでしょう~? ここなら帰ってきたのがすぐにわかるし、テレビも大きいからちょうどいいと思ってねえ。玄君みたいに、他の誰かも来るかと思って~」
「な、なるほど……」
せっかくなので、俺も彼女の隣に座ってチューハイを飲むことにした。
「……このポテチ。チーズあんシメ鯖味って、なんだこりゃ!?」
「それ、ご当地ものなのよ~。なかなか面白い味がするわ~」
無農薬のポテトを使い、開発には三十一年を費やしたと書いてある。
一枚とって口に入れると、チーズの濃厚さと酸っぱいシメ鯖とあんこの甘さが、奇妙なマリアージュを奏でていた。
「なんとも言えない不思議な味だ……そういえば。みのりさんと剛さんって、どういう関係なんですか? 『剛ちゃん』なんて呼んでますし、やたら親しそうですけど」
「ああ~。あの子はねえ、従弟なのよぉ~」
「従弟! それでか」
色々と納得である。
デカく育つのは血筋かもしれない。
みのりは、懐かし気に語り始めた。
「おうちが近いのもあって、小さな頃はよくお泊りに来ていたわぁ~。昔はカブトムシが死んじゃっただけで、ワンワン大泣きしてたわねぇ~。わたしが結婚する時も、『みのり姉ちゃんを不幸にしたら許さないぞ!』だなんて、夫に言ってくれたのよぉ~。ダンジョンスプラウトの種も、あの子がプレゼントしてくれたものなの~」
「へえ。あのイカつい剛さんにも、少年時代があったんだなぁ……当たり前だけど」
「うふふ~。今でも、中身はあまり変わってないわよぉ~」
みのりはクスクスと笑いながら、チューハイを一口飲んだ。
それから、俺の目をジッと見つめた。
「玄君はねぇ~」
「はい?」
「もう少し、人に甘えてもいいと思うわぁ~」
「え?」
思わず、聞き返す。
だが、みのりはそれ以上は何も言わず、ふっと旅館の出入口へと視線を向けた。
「凛花ちゃん、ちょっと遅いわねぇ~。近くにいると思うから、玄君、迎えに行ってあげてくれないかしら~?」
「……あ、はい。わかりました」
俺は缶チューハイをグッと飲み干し、立ち上がった。
小説家になろう注目度ランキングにランクイン、ありがとうございます。
今後も頑張って更新していくので、面白かったらブクマや評価、レビューなどお願いします。




