サラちゃんご立腹(アシュレイ)
魔物を使役するには技術も必要だが、大量の魔力を消費する。しかし私の場合は魔力の消費は大したことがない代わりに、肉体的な疲れがどっと出た。
サラを使役した時には感じなかった疲れだ。
あの時は心が幼すぎて不思議に思いもせず、ただサラマンダーをラナに贈ることばかり考えていたせいもあって記憶が曖昧で覚えていない。だが恐らくラナの魔力は魔物にとっても心地よく受け入れやすい質なのだろう。
フェンリルや他の魔物は確実にラナを攻撃する目的で狙ったので、サラマンダーやドラゴンといった高等な類の魔物に特化して効果を発揮するのかもしれない。
もしラナに魔法を使うことができていたなら、トゥーリをしのぐ魔法使いになっていた可能性がある。ラナを危険に曝したくない私にとってはそうでなくてよかった。
使役中にそんなことを考えられたのも、ドラゴンがラナの魔力を受け入れているのが分かったからだ。
押さえつけなくても大人しくなったドラゴンは、ずんぐりした巨体で大人しく座って成り行きを受け入れていた。私だけでなくサラのことすら警戒していない。気持ちよさそうに喉を鳴らしてまるで犬か猫のようだ。
それにしても……サラの時は幼さゆえの恐れ知らずだったとしても、まさかドラゴンを使役する日がこようとは。魔力の器に変わりはないので、やはりラナの魔力は特別なのだと実感した。
「まさかドラゴンの使役に成功したのか?」と周囲から漏れる驚きの声。ラナの護衛を任せていたトゥーリは職務放棄して「嘘でしょう!?」と言いながら飛び出してきた。
使役に成功したのかを確認するためにドラゴンに近づく。
ドラゴンは黙って私を見下ろしていた。
「小さくなれ」と命令すると巨大なドラゴンが形はそのままに、瞬く間に縮んでいく。
縮小が止まると、小型犬ほどの大きさのドラゴンが縦長の瞳孔で私を見上げていた。
「成功してる……」
トゥーリが唖然と呟いた。
使役した魔物は自由に体の大きさを変えることができるのだ。
サラは手のひらサイズになれたが、ドラゴンは子犬サイズが限界らしい。
ドラゴンの戦意は完全に失われている。私を見上げる縦長の瞳孔が期待に満ちているように感じるのは勘違いではないだろう。
ドラゴンの使役に成功したのはいい。子供を殺すことで生体二体を相手にする危険もなくなった。それどころかドラゴンを使役したことは近隣諸国への牽制になり、大きな抑止力になる。
使役されたドラゴンはラナの側にいることを望んでいるのは明白で、ラナの言うことしか聞かなかったとしてもたいへん有益なことだ。
問題はサラだ。
サラを確認すると不服そうにしていた。
サラマンダーに表情はないがひしひしと感じる。見えないが顔に不服と書いてある。声も出さないが、恐らくこの場で私は誰よりもサラの気持ちを理解しているだろう。
昨日のドラゴンは確実にラナを狙っていた。たとえドラゴンにそのつもりがなくても、人間のラナに興味を示すのは殺すという意味だ。ラナの魔力が心地よく美味そうだと感じたのなら巣に持ち帰り、なぶり殺して腹に収めるのが魔物の本能だ。
恐らく今回ドラゴンが使役に応じたのも子供だったからだろう。成獣ならうまくいかなかったに違いない。
それだけラナに興味を示しているドラゴンだから、使役したのが私だとしても、私を主として認めて大人しく従うとは思えなかった。
ドラゴンの主はラナ一択だ。
しかしサラは静かに怒りを増幅させている。そして目の前にいるドラゴンは私の様子を窺いつつ、座った態勢のまま、少しずつ尻で移動してラナへと近づこうとしていた。
子供なので待てができないらしい。
思わずため息が漏れた。サラには酷だが我慢してもらうとしよう。
待てができなドラゴンを紹介するために結界の前に立つとラナが駆け寄ってきた。
「あのドラゴンは一体どうなったんですか?」
火を吐き攻撃してきていたドラゴンが小さくなってしまったのだ。ラナは意味が分からないと眉を寄せて不安そうにしている。
「新しい使役獣だ」
「え?」
ラナがこてんと首を傾げた。かっ……可愛い!
と和めたのも一瞬のこと。
強い魔力を感じて振り返ると、かぱっと大口を開いたサラがドラゴンへ業火を吐き出したのち、少し短くなってしまった尻尾でドラゴンを思いっきり弾き飛ばした。




