第066話: キャンピングカー・リサイタル
「うわぁ……! 中はこんな風になっているのですね!」
車内に入ったマリーナ姫は、目を輝かせてキョロキョロしている。
リビングのソファ、システムキッチン、そして大画面モニター。
すべてが彼女にとって未知の光景だ。
『室温調整完了。湿度60%に設定。……マリーナ姫、リラックスしてください』
「すごい……声が部屋全体から聞こえますわ」
ナビが照明を落とし、ムーディーな雰囲気を演出する。
そしてモニターには、美しい星空の映像を投影した。
「これは……?」
『地上の星空です。貴女が見たがっていたものですが、いかがですか』
「これが星空……きれい……」
マリーナ姫は息を呑んで見入っている。
その瞳に、星々の光が映り込んでいた。
『この空間なら、誰にも気兼ねする必要はありません。……少しだけ、歌ってみませんか?』
ナビが促す。
マリーナ姫は少し躊躇したが、セリスが優しく手を握った。
「大丈夫です。私たちは観客です。貴女の歌を聞きたいです」
「……はい」
彼女は深呼吸をし、小さく口を開いた。
最初は震えるような声だった。
しかし、ナビが即座にピアノのような伴奏(ソフトな音色のシンセサイザー音)を流し始めると、彼女の声に力が戻ってきた。
透き通るような高音。
深海に響く鈴の音のような、優しくも力強い歌声。
車内の高品質スピーカーが、その魅力を余すことなく増幅し、空間全体を包み込む。
「すごい……」
「鳥肌立っちゃったよ」
僕たちも言葉を失って聴き入っていた。
一曲歌い終わると、自然と拍手が沸き起こった。
「ブラボー! 最高だよマリーナ!」
「素敵な歌声でした……心が洗われるようです」
「もっと歌ってー!」
マリーナ姫は驚いたように目を見開き、そして照れくさそうに微笑んだ。
「ありがとうございます……。こんなに気持ちよく歌えたのは、初めてです」
『声紋解析完了。貴女の歌声には、特殊な「癒やしの波長」が含まれています。自信を持ってください』
「はい……! ナビさん、ユウ様、皆さん、ありがとう!」
彼女の顔から、先程までの憂いは消えていた。
自分の歌が誰かを笑顔にできる。その単純な喜びを思い出したようだ。
「これなら、本番の儀式も大丈夫そうですね」
「ええ! 私、歌います。この都市のみんなのために!」
マリーナ姫が力強く宣言した、その時だった。
都市全体を揺るがすような、激しい警報音が鳴り響いた。
『緊急警報。都市の外壁結界に異常発生。大型モンスターの侵入を確認』
窓の外を見ると、都市を守っていたドーム状の結界の一部が砕け散り、そこから巨大な「影」が侵入してくるのが見えた。
「あれは……シーサーペント!?」
「まさか、結界が破られるなんて!」
マリーナ姫の顔色がさっと青ざめる。
癒やしの時間は終わりだ。
アトランティアに、最大の危機が迫っていた。




