第056話: 巨大魚を釣ろう
海水浴を楽しんだ後は、船上でのんびりと釣りタイムだ。
キャンピングカーのデッキ(屋根部分が展開してテラスになる仕様)に座り、僕たちは釣り糸を垂らしていた。
「……釣れないねぇ」
ルナが退屈そうに欠伸をする。
彼女の竿には、港町で買った安物のルアーがついている。
「お魚ー! 早くこーい!」
「ララちゃん、水面を叩いちゃダメですよ。お魚が逃げてしまいます」
セリスが優しく諭すが、ララは我慢できない様子で竿をブンブン振り回している。
このままじゃ、本当に一匹も釣れないかもしれない。
「ナビ、魚の反応はどうだ?」
『ソナー解析中……。本船の真下、深度50メートル付近に大型の生体反応を確認』
「大型?」
ナビの言葉に、ルナとララが反応した。
『推定全長3メートル。マグロ型の回遊魚、モンスター名『オーシャン・ツナ』と思われます』
「3メートル!? そいつはデカいね!」
「マグロ! 大トロ! 食べるー!」
色めき立つ一行。
だが、相手は3メートルの怪物だ。普通の釣り竿じゃ折れてしまう。
「よし、秘密兵器の出番だ」
僕は【マイホーム】の機能を使って、特製の「ミスリル製釣り竿」を取り出した。
リールには鋼鉄のワイヤーが巻かれており、魔力で強化されている。
「ララ、これを使ってくれ。君の筋力なら釣り上げられるはずだ」
「わーい! 任せてお兄ちゃん!」
ララは竿を受け取ると、獣人の本能剥き出しで海面を睨んだ。
『ターゲット接近。カウント……3、2、1……今です!』
「そこだぁぁぁっ!」
ナビの合図に合わせて、ララがルアーを投げ込む。
直後。
ガツンッ!! と凄まじい衝撃が走り、竿が大きくしなった。
「かかった! 引っ張れララ!」
「うぬぬぬぬ……負けないぞー!」
ララが踏ん張る。尻尾が逆立ち、腕の筋肉が盛り上がる。
相手も必死で抵抗しているようで、船体が少し傾くほどの馬力だ。
だが、獣人のパワーは伊達じゃない。
「うおおおおっ! これで……終わりだぁぁぁっ!」
ララが渾身の力で竿を引き上げる。
水しぶきと共に、銀色に輝く巨大な魚体が空中に舞った。
「で、デカい……!」
「本当に3メートルありますね……」
ドスンッ! とデッキに落下した『オーシャン・ツナ』は、ビチビチと跳ね回って暴れている。
「すごいねぇララ! こいつは今日のご馳走だよ!」
「お刺身! お刺身!」
大はしゃぎの二人。
だが、セリスだけは少し心配そうに魚を見つめていた。
「ユウ様、このお魚……まだ生きてますよね? どうやって捌くんですか?」
確かに。3メートルの暴れる魚を前に、普通の包丁では太刀打ちできない。
そこでナビが静かに提案した。
『マスター。調理用のアームを展開しますか?』
「調理用アーム?」
『はい。ガーネット氏が「巨大魚対策に」と内蔵してくれた、レーザーカッター付きマニピュレーターです』
「……あのドワーフ、変なところだけ気が利くなぁ」
かくして、キャンピングカーから伸びたロボットアームが、鮮やかな手際でオーシャン・ツナを解体し始めた。
三枚おろしから柵取りまで、わずか数分。
プロの料理人も顔負けの職人技(AI技?)だった。
「すごい……! さすがナビちゃん!」
『感謝します。セリス様。……中落ち部分は、ユウ様にユッケにしていただくのを推奨します』
ナビの提案に、僕の腹が鳴った。
採れたての大トロに中落ち。
これはもう、宴会をするしかないだろう。




