第261話:雲海の助け船
白銀の雲海の上を、キャンピングカーは優雅に滑空していた。
スタラグランドを離れてから数日。反重力エンジンの静かな重低音と、天窓から差し込む心地よい陽光が車内を満たしている。セリスが淹れたハーブティーの香りが漂い、ルナがソファでうとうとと船を漕いでいた。
『マスター。前方三万メートル上空にて、生命反応および戦闘反応を感知しました』
ナビの静かな報告に、ユウはハンドルを握る手に力を込めた。天窓のグラデーション表示に、赤く明滅するホログラムが映し出される。
「戦闘反応? こんな雲海の上でか?」
『肯定。大型の双頭魔鳥一頭が、人型の飛行物体を追撃中。被追撃者の魔力波長は減少傾向。墜落の危険性あり』
「なっ……大変じゃない! ユウ、急ぎましょう!」
セリスが立ち上がるのと同時に、ユウはアクセルペダルを限界まで踏み込んだ。
「反重力ブースター、全開!」
ドォン! と空気が爆ぜるような音と共に、キャンピングカーは雲海を切り裂いて急加速した。
——雲を突き抜けた先。
そこでは、朱色の小さな翼を傷つかせ、必死に飛ぶ少女——竜人族の姫レニが、巨躯を誇る双頭のワイバーンに追い詰められていた。
『ギシャァァァァッ!』
ワイバーンの鋭い爪がレニの背中に迫る。彼女は恐怖に瞳を大きく見開き、ギュッと目を瞑った。
「誰か……助けてぇっ!」
その悲痛な叫びに答えるように、巨大な金属の城——キャンピングカーが二頭の間に割り込んだ。
「ウォーター・キャノン、放水っ!」
車体上部の高圧ノズルから、圧縮された高圧水流が爆発的に射出された。直撃を受けたワイバーンは悲鳴を上げて吹き飛ばされ、そのままバランスを崩して雲海の下へと墜落していく。
「え……あ……?」
助かったことに気づき、呆然と滞空するレニ。
キャンピングカーのサイドドアが滑らかに開き、ユウが手を伸ばした。
「怪我はないかい? 入っておいで!」
白銀の空の下、神秘的な動く城と手を差し伸べる青年の姿に、レニは吸い寄せられるようにその手を取るのだった。




