第177話: 決戦の火蓋
そして、運命の決勝戦の朝。
グルメンティアの中央にある巨大なコロシアムは、数万人の大観衆の熱気と歓声に包まれていた。
特設された厨房ブースには、予選を勝ち抜いた十名のトップ料理人たちが並び、それぞれが極上の食材を前に包丁を握っている。
「第一回戦、まずはグルメンティアの誇る三ツ星シェフ、レオン・クロイツの作品の審査です!」
実況の声が響き渡り、エルフのシェフ・レオンが優雅な足取りで審査員席へと進み出た。
彼が巨大な銀のカバーを開けると、コロシアム中に眩いばかりの光と、天上の如き美しい香りが溢れ出した。
「こ、これは……!!」
「西の彼方の『黄金鶏』と、千年の一滴と呼ばれる『エルフの秘酒』の煮込み……! なんと芳醇で、芸術的な香りなのだ!」
審査員たち(恰幅の良い王様や、美食を極めた貴族たち)が、一口食べた瞬間にガクガクと震え、涙を流し始めた。
「美味い……美味すぎる! 口の中で黄金鶏の旨味が爆発し、秘酒の香りが魂まで昇華させてくれる……ッ! これぞまさに至高ゥゥゥッ!!」
「おおおーっ!!」
観客席から割れんばかりの大歓声が巻き起こる。いきなり出た、圧倒的な満点評価だ。
「ふむ……。さすがに天才と呼ばれているだけはあるな。あれは、食材のポテンシャルを魔力で極限まで引き上げた、魔法料理の完成形じゃ」
観客席から見下ろしていたソフィアが、珍しく感心したように頷いている。
ルナやセリスも、その圧倒的な完成度に少し息を呑んでいた。
しかし、厨房ブースに立つ僕(ツムギの助手として特別に参加中)と、ツムギは全く焦っていなかった。
ツムギは「へぇ〜、すごく美味しそうなんよ!」と呑気に感心しながら、手元のフライパンを軽快に煽っている。
「さぁ、次はいよいよ本大会の大穴! 予選で謎の茶色いソースを操り圧倒的1位を記録した、ヤマトからの刺客! ツムギシェフの作品です!!」
僕たちの出番だ。
ツムギが大きなお皿(有田焼のような美しい大皿、もちろんネットスーパー産)を両手で持ち、自信満々に審査員席へと歩み寄った。
「お待たせなんよー! これがウチと仲間たち(最高のキャンピングカー)で作った、これまでの旅の集大成! 『異世界・特製お子様ランチ(超絶豪華版)』なんよーっ!!」
カバーが開かれた瞬間。
さきほどの『黄金鶏』すらも霞むような、全く系統の違う……暴力的なまでに食欲を刺激する「複数の美味しそうな匂い」のオーケストラが、審査員たちと数万の大観衆を同時に強襲した。




