44話 despair
和馬はどこまで行っても結局は一般人である。
そもそもこの話は転生者の七割に当てはまる話であり実際に戦闘に送り込まれ、自分よりも戦闘に慣れ、秀でた存在の前では虎と子犬並みの差が生まれる。
それを埋める為に与えられる神からのギフト────即ち能力があるのだが今この場に置いてそんなものは玩具に過ぎない。
何故なら敵はその能力を『打ち消す』能力を有しているのだから。
結果的に和馬の擬似的な不死身も打ち消され、単純な戦闘経験の違いにより簡単に首を切られ最後には身体から歪な刃が生み出され見るに耐えない凄惨な死を遂げた。
「テメェ……」
フリークはそんな和馬の死を前にして視線を更に強めていく。
フリークは元の世界では戦争に駆り出される傭兵の役割を与えられており転生者四人の中でも戦闘には格段に慣れている存在であった。
特に与えられたギフトもなく、強いていうならば獣の直感と目の良さ、鼻が効くようになった程度なのだがそれでも彼は元の世界で努力のみで地位を上げ、最高クラスに上り詰めていた。
そんな彼が、怨嗟の言葉とは裏腹に心底怯えていた。
────クソッ……動け足!
歩こうとしても身体が言う事を聞かずに震えるばかりである。
心底自分に腹が立つ。
和馬を結局は見殺しにした事。李仁への忠告が遅れた事。目の前でラーゼの身体が乗っ取られて今目の前にいる怪物を呼び起こしてしまった事。
そして何よりこのフィールドにおいて自分はまだ何も果たせていないことに心底ラーゼは腹が立っていた。
しかし思いは行動に直結する事は無く、身体は硬直している。
「どうした?貴様の薄汚い体毛が逆立っているぞ?怯えているのか獣よ」
そんなフリークを見透かしているかのように『何か』は笑いながら感情を煽る言葉を淡々と口にする。
それが煽りだとわかっていて冷静になろうとフリークは深呼吸をするがそれが怯えを取り除く要因にはなるはずも無い。
「俺は……ここで死ぬかもな」
そんな怯えをフリークは何処か諦めが付いたような表情で口にし始める。
「怖いさ。仲間も殺されて残るは二人だけ。その二人が力を合わせてもお前には勝てねえと思う。死ぬのは怖えよ。心底怖え────でも、それが立ち向かわねえ理由になんかなりはしねえ」
自虐は自身の怯えを多少なりとも取り除くために呟かれた言葉であった。
戦場には死の恐怖が満ちている。
それは元の世界で何度も経験した事だ。
初めての戦場では何もできなかった。その癖のこのこと生き残って周りの仲間たちの死を嘆いた。
そんな自分が許せなかった。
戦場には恐怖が渦巻いている。
それを克服せねば前へは進めない。
フリークは初心の気持ちを取り戻すかのように再度深い呼吸をした後、右手に剣を構えて標準を『何か』に定める。
そして────堰を切ったように飛び出す。
獣の身体による瞬発力は常人のスピードを遥かに凌駕し、剣の矛先を『何か』の首に向ける。
『何か』には勿論一連の行動が見えていた。
フリークが死地を踏む事で開かれる究極の集中状態に入っていたことも全て見透かしている。
だからこそ『何か』は顔から笑みを消さずにそれを真っ向から向かい打つのだった。
勝負はコンマ数秒の世界で片がついた。
静かに、そして躍動的に────紅い血が舞い上がる。
フリークの剣は進行方向に添えられた片腕で簡単に遮られ、多少の切り傷が付いたが致命者などには到底至る事無く、その次の瞬間に交差する際に走った銀色の閃光をフリークは皮膚の一部で受け、両者の少ない血が地面に滴った。
「俺の身体は今や関係のない人間のものだ。いくら傷が付こうが関係のない事だ」
勝利を確信し、まるで死のカウントダウンを始まるかのように『何か』は口を開きフリークに言葉を呟く。
「しかし傷をつけた事は誉めるに値しよう。よくやった獣人よ。誇りに塗れて死ぬが良い」
「ハッ!余計なお世話だ!」
フリークは『してやった』という顔を浮かべて『何か』の言葉に自身の言葉を返した。
そして次の瞬間────フリークの身体は和馬の身体同様、身体から無数の刃が剥き出しになり、大量の血を流しながらその命の灯火に終わりを告げた。
「残るはお前を入れて三人。先にどちらを殺そうか?」
目の前で行われた残虐極まる行為を見て『罪を喰らう者』は半ば放心状態に陥っていた。
そんな『罪を喰らう者』に『何か』は試すような質問をするが『罪を喰らう者』は汗を流すだけで言葉を呟く事はなかった。
「ふむ……少し退屈で眠気を催したか??」
何故『罪を喰らう者』が放心状態になっているのかをわかっていながら『何か』はわざと眠気を催したかという質問をする。
「では少し眠気覚ましをしよう。そう簡単に壊れてくれるなよ玩具よ」
そして『罪を喰らう者』の身体は再度強く蹴り上げられ、宙を大きく舞った。
一撃、二撃、三撃と息をする暇も与える事無く無情な蹴りが轟音と共に『罪を喰らう者』を襲う。
「ここまで反撃が無いと少し退屈だな」
『罪を喰らう者』への蹴りを一時ストップし、地に落ちた玩具を見て『何か』は心底つまらなさそうに言葉を吐き捨てた。
そして、そんな『何か』の頭の中に一つの案が思い浮かぶ。
「このラーゼとやらの身体を乗っ取ったことによって彼奴の記憶が少し俺の頭の中に流れ込んできてな……お前、女神とやらと行動を共にしていたそうだな?」
その問いに初めて『罪を喰らう者』は反応し、否定の言葉を口にする。
「やめろ、俺が相手をする。あの女は巻き込んだ被害者だ!」
「成る程。では殺そう」
『罪を喰らう者』の意見など真に『何か』の心には届かず無慈悲な言葉が帰ってきただけであった。
「巻き込んだお前が悪いのだ。嫌ならその非力な身体で止めてみせよ」
『何か』は颯爽と女神の気配がする方に向かい始める。それを追う為に『罪を喰らう者』も立ち上がるが蹴られた痛みによって足がおぼつき、うまく歩くことすら叶わない。
着々と、フィールドに絶望が蔓延していく────




