43話 Alternative:Origin
『罪を喰らう者』は思わず自身の耳を疑った。
鼓膜に確かな振動と共に響いた言葉は脳内を疑問で圧迫する。
「オルタナティブ……だと?」
『罪を喰らう者』の疑問に『何か』はさも当たり前のような顔をして魔術を上昇させていく。
「これは本来貴様の能力などでは無い。俺の力だ。俺がリューアやその他の有象無象を真っ向から否定する為の能力────それが『神の座を壊す者』だ」
淡々と疑問点を埋めるように『何か』は語りながら魔力をさらに増加させていく。
「その証拠としてお前の身体に流れる血は俺の血だ。だからこの身体の元宿主の男はお前の血を啜り、その血に宿る俺の気に当てられ自我を失い最後は魂の部位のみが死んだという事だ」
「俺は────」
自分は、自らの意思で正義と思った行動を貫いてきた。
悪人が善人を装い、過去を隠してのうのうと生きている姿が心の底から許せなかった。
しかし、それは自身の考えでは無かったのだろうかという疑問が『罪を喰らう者』の中に浮かぶ。
思考も、それに伴う言動も、ましてや身体すらも自身のものでは無いのであろうか。
そんな考えが渦巻き、『罪を喰らう者』は再度あの言葉を口にする。
「何者なのだ────」
そうこうしている内に『何か』の魔力は完成を果たす。
周りに浮遊していたドス黒い色を帯びた魔力は『罪を喰らう者』の『神の座を喰らう者』同様、身体に吸収され皮膚に不気味な赤と黒の刺青のようなものを浮き上がらせる。
「お前の作成者は俺が知る所ではないが……まあ俺の人格が数分間とは言え表に出たのだ。作成者とやらもそのうち飛んでくるだろう」
『罪を喰らう者』とは違い、特に今の状態に苦しむ素振りも無しに『何か』は淡々と言葉を紡ぐ。
心拍数の上昇など他にも身体にとって負荷となる事が山ほどあるというのに『何か』は平気な顔をして立っている。
しかしそれは宿主の身体の問題であり『何か』は歩こうとした瞬間に少し眉を顰めた。
────宿主の貧弱な身体ではこのモードには着いてこれぬな。
すると『何か』はその場に座り込み、指先に魔力を集中させてその指先を地面に伸ばす。
「まずはすぐに仕留められる奴から行こう。死にはしないと安全な場所から高を括っている人間とやら……もう少し泳がせるのも一興かと思ったがもう良い」
独り言を呟きながら地面に手を置こうとする『何か』の行動を周りはただ黙って見ている。そんな中、フリークだけが今から何をしようとしているのかを察した。
「李仁!!!気をつけろ!!!」
「はい────?」
唐突な注意喚起に李仁は呆けたような返事するが次の瞬間、歪な声と共に李仁の声は途切れた。
「ガッ!?……────────────」
フリーク、和馬、ラック、そして直前まで李仁と話していた女神の頭の中にノイズのような音が響き渡る。
「李仁?李仁!」
フリークはすぐさま声を掛けるが李仁の声は帰ることは無かった。
ノイズはやがて止み、四人の頭には静寂のみが無常に響いている。
× ×
「え……?」
『罪を喰らう者』の場所に向かう途中、女神は頭の中で起きた唐突な現象に思わず顔に困惑の色を浮かべる。
× ×
「マジかよ」
同じく『罪を喰らう者』の場所に向かうラックもまた、何が起きたのかを大凡察し、汗を滴らせる。
× ×
フリークと和馬は目の前で何が起きたのか────否、起こされたのかを見ていた為、より一層『何か』に対する殺意のボルテージが上がっている。
二人の視線の先には地面に指を置いている『何か』の姿があり、心底つまらなさそうな表情を浮かべている。
「この世界の基盤は神が作ったモノ。それを弄り回すために脳からこの世界に干渉を果たしている。ならば神の力が混じった世界を否定する俺の能力の範囲内だ」
『何か』は『罪を喰らう者』の方を向いて自身の能力を語る。
「この能力は神の力が混ざっていればこういう使い方も出来る。今頃何処かの部屋でこの世界に干渉していた奴は脳が焼き切れて死んでいるだろう」
あまりに唐突な仲間の死に思わず和馬は飛び出す────
「おい待て!」
すぐさまフリークが一人で飛び出す和馬を抑制するがその耳に言葉は届かない。
不死身となって実質的な無敵ならば攻撃されても大した痛手にはならない。
『神の座を壊す者』モードが何たるかを知らない和馬はそう思って突っ込みそして────
振り上げた斧は華麗に躱され、交差する直前に『何か』が急遽魔力で作成した小型ナイフにより首を抉られるように斬られた。
痛みが走るが和馬はすぐに第二撃の準備を始める。しかしその準備は焦りと共に消え果てる。
「なんで……治らないんだ?」
血が止まらない。これ以上ない恐怖に和馬は一瞬で顔に恐怖の化粧を纏った。
「なんで……は?え……」
手で抑えようと僅かな隙間から血が漏れ出す。
ポタポタと、生温い感触が絶望と共に身体を滴る。
そして────
「消えろ、人間風情」
突如和馬の身体の中から無数の刃が生み出され、内側から串刺しになるという意味のわからない状態で和馬は絶命した。
「貴様らの不死とやらはこのフィールドの神の力の一部であるから否定対象だ。それに一度俺の魔力をナイフ越しでも触れば俺の魔力は微量でも体内を走る。その魔力から武器を生成する。いい戦い方だろ?」
『何か』は屍となった和馬を踏みつけながら『罪を喰らう者』に薄笑みを浮かべる。
この世の狂気を全て孕んだような残酷な笑みを────




