35話 Again
女神を連れた『罪を喰らう者』は転生者達から一旦距離を取りラーゼの能力について話を始めた。
「恐らく奴の身体を固定する能力の条件は『動かない事』だ。先程も、一番最初も奴が何かしらの要因で動き出すと我々も動き出せるようになっていた」
「なるほど……凄い洞察力ですね」
女神は『罪を喰らう者』の一瞬の判断と頭の回転の速さに感嘆の声をあげると同時に頭に浮かんだ疑問点を質問として投げる。
「なら、動けなくなる前に何かしら予備動作のようなものはあるのでしょうか?一瞬でも動けなくなってしまえばこちらが不利です。多分何かしらあると思うのですが……」
女神の言う通り複数戦においていちいち足を止められる事は煩わしい事この上ない。
更に『罪を喰らう者』の魔力は今でこそ『上』で魔力を無尽蔵に垂れ流しているデルメアのお陰で然程魔力を消費せずに済んでいるがそれもいつ消えるかわからない。『罪を喰らう者』本人はデルメアの魔力が回路として備わっている事など分かってすらいない為余計に足止めを喰らって他の者の襲撃で武器を魔力で生成させるのが慮れる状態であった。
「種は何かしらあるだろう。しかし女神よ、今は細かい所まで考察をする程の余裕は無い。他の三人の力が完全に割れてないなら尚更だ。あの動きを止めるやつは力尽くで倒しにかかるぞ」
『罪を喰らう者』の意見に女神は頷きながらも若干不満な顔を露わにして思わぬ言葉を返す。
「その、女神呼びじゃなくて私にはリンシアっていう名前があるのでそちらで呼んでください。今は背中を預ける仲なんですから」
女神の思わぬ申し出に『罪を喰らう者』は困惑の顔を露わにするが言葉を曖昧に流す。
「考えておこう……」
そのまま『罪を喰らう者』は女神の言葉を待たずして一人で再び敵へ飛び込んでいった。
リンシアの言葉が頭の片隅にチラつくが『罪を喰らう者』は一先ず戦闘の事に集中をする。
────もしラーゼが動かないだけで能力が発動するならばあまりに使い勝手が悪い。恐らく他に発動条件は存在している筈だ。
そんな木々の合間を抜けて向い来る『罪を喰らう者』に嗅覚を駆使し瞬時にフリークは二人に命令を出す。
「来るぞ!取り敢えずは李仁の上書きが終わるまでの時間稼ぎだ!」
「了解了解!」
「はぁ……僕もう疲れたんだけど」
憂うような態度を露わにしながらもラーゼはすぐさま能力を使うための準備を始める。
ラーゼの能力は『呪い』である。
呪いとは神から与えられた能力の一部を発展させた黒魔術の一つである。
元々ラーゼは微量な魔術を転生時に与えられただけの本当の外れ枠のような人間だったのだが、とある人物との出会いによりその魔術は大きな変化を遂げる事となった。
その魔術師は外見だけで言えば無邪気な子供っぽさをいかにもという程体現した様な人物であるがその心の中は酷く荒んだ下水の澱の様な人物であった。
彼は文字通りどうしようもない快楽殺人者であり、そんな本人曰くある人に出会う為に気まぐれで人を殺しては悪名をわざと轟かせているらしい。
何故自分は殺さないのかとその人物にラーゼは質問をしたが彼は微笑んで「気に入ったからさ。君の死んだ目は僕の大好物な訳」とだけ言ってある日突然黒魔術についてのノウハウを語り出した。
しかしこれがまたラーゼを深く異世界にハマり込ませる事となり黒魔術を扱える様になってからはラーゼの世界が一変した。
彼はヒーローなどでは無い。魔王を倒す訳でもなければ勇者として莫大な量の仕事をする訳でも無い。
彼は淡々と自分が食うに困らない程度の仕事を卒なく熟す。そんなタイプであった。
しかし黒魔術と出会ってからは常人を離れた。
師匠とも呼べる少年の見た目をした男を反面教師とし人殺をする事は無かったが己の実力を確かめる為に世界に蔓延る高難易度の依頼を次々と受けていった。
その結果彼は一躍ある世界では本人にとって大変不本意でありながらも有名になり、その活躍がリューアの耳にも入り今回メンバーとして収集された訳だったのである。
そして今現在、最終的には強制的に巻き込まれるという形になってしまっている始末である。
基本面倒くさがり屋な彼が考えている事は収集されてからも変わらず常に一つ────
────早く面倒ごとは終わらせないと。
彼に勝負の楽しさなどと言う言葉は無縁である。
彼は彼自身が楽をする為に戦うのみである。
────だからまあ……
「そろそろ終わらせたいよね」
木々の隙間から抜けた『罪を喰らう者』とラーゼは再び邂逅を果たす────




