beyond the final 4
学校から、生徒が次々と出てきた。みんな楽しそうだ。なんたって、もうすぐ夏休み。頭の痛いテストも終わった。
今日は答案が返ってくる日である。結果を気にするものもいるが、どうって事はない。大半は、解放感に浸っていた。
ことは学校の門の陰で立ち止まった。ポケットから、丸い鏡を取り出し、髪の毛を整えたり、顔周りをチェックする。
鏡のフタの外側は、透き通るような藍色。所々、キラキラと光っていて、夜空のように見える。ことは、この鏡が気に入っていた。
「あっ」
2人の男子学生の後ろ姿を見て、鏡のフタを閉め、ポケットに入れる。走り出すと、2人の間に割って入った。
「よっ!」
「あ、こと先輩。お疲れ様っす」
コマさんが手を挙げる。ミノルはぺこりと頭を下げた。
ことは高校3年生。天文部の部長だ。AO入試で、早々と進路が決まっている。余裕があり、高校生活を楽しんでいた。
「テスト、どうだった? ま、カニはばっちりだよね」
急に言われて、ミノルは返事に困っていた。
「どう言う意味っすか。オレだって、補習なしっすからね」
コマさんが不貞腐れて口を尖らせる。
学校では、欠点を取ると補習。部活は禁止。という、厳しいルールがある。
「良き、良き。じゃあ、2人とも部活できるね」
ことは嬉しそうに言うと、カバンから何やら取り出す。
「ハイ」
ニコニコしながら、ミノルに手渡した。フェルトで作ったマスコットだ。
「カニはわたしと同じ水瓶座だからね。お揃いだよ」
ことは、カバンを見せた。同じ手作りのマスコットがぶら下がっている。
「あ、ありがとうございます」
俯き加減に、照れ笑いをする。
「あーー、ことセンパ〜イ〜。もしかして〜〜」
コマさんがニヤニヤしている。
「これはコマッちの」
ことは気にせず、フェルトのマスコットを突きつける。
「部員全員分、作ったんだからね。すごいでしょー」
「すごいっす。ありがとーございまーす」
コマさんが調子よく言った。
「部活、ちゃんと来るんだよー。もちろん、天文観測もね」
ことは手を振りながら、バス停の方へと駆けて行った。
地下鉄へと続く階段を下りながら、ミノルはマスコットを見ていた。水色と青の壺。下には黄色の星がついている。
ーみんなの分の1つか…
そう思いながら、カバンに入れた。
「残念だったなぁ」
コマさんが肩を小突いた。
「まあ、先輩とお揃いでよかったじゃん」
ミノルは見透かされたようで、反論しようとした。が、コマさんは
「ところで、夏休みの部活って、いつだっけ?」
と話題を変える。ミノルはスマホをカバンから取り出して、スケジュールを見せた。
地下鉄のホームでは、何人か知った顔がおり、テストの結果などを言い合っている。なんとなく、その輪に混じる。みんなの話を聞いていると、
「ゲーム、どこまで進んだ?」
コマさんが訊ねた。スケジュールをチェックしていると思ってたら、いつのまにか、ホーム画面に戻している。更に、アプリのアイコンに指を近づけた。
「あ。…ちょっと、待って」
ミノルが止める間もなく、
「へぇー。こんな感じか…。やっぱ、面白そうだな」
と画面をなぞりながら、見ていたが、
「女の子が主人公なのか。こと先輩の名前、つけてんじゃねーの?」
コマさんが、楽しげに問う。それを聞いて、近くにいた何人かが集まって来た。
「違うって。この子には、アクアって名前をつけたんだ」
ミノルの話には、みんな興味なし。
「こと先輩って?」
「確か、3年2組だよなー」
「まあ、可愛い子だよ」
と思い思いに話している。
コマさんが、面白そうに唇を上げ笑う。
「さっき、こと先輩からプレゼント貰ったんだよなぁー」
今、ここで言うか・・・。ミノルは眉を顰め、コマさんを見た。
どうやら、揶揄いのスイッチが入ってしまった。こうなると、なかなか止められない。
みんなが納得するような事を言わなくては…
「コマさんだって、貰っ」
「いいよなー。2人、お揃いで」
意地悪く笑う。みんなも、それに乗っかるように、
「見せろよー」
と、ミノルの周りにやってきた。
「…それは……」
別に見せてもいいのだが、それだけでは終わらないだろう。もっと騒ぎになりそうだ。後々、言われ続けられる事になりかねない。
「僕だけじゃなくって、部員全員に渡したって言ってたし、大したものじゃ…」
いや、大したものだ。なんたって、手作りなんだから。ーー手作り、としれたら収拾がつかなくなる。
「いいじゃん」
「オレたちに見せられねーのか?」
ダメだ、と言われると、余計見たくなる。
ここはなんとか阻止したいのだが・・・。
皆は、半ば、強引にカバンを掴もうとした。ミノルは慌てて後ろに隠す。が、すぐに回り込まれた。
1人対大勢だ。これは時間の問題だな。ミノルはそう思いながらも、反射的にカバンを前に出した。
あまり急だったためか、手からカバンの取手が離れてしまう。その反動で、カバンは高く舞い上がった。
「あっ」
ファーン
そこへ、地下鉄がホームに滑り込む。
いつものようにドアを開ける。人々を吐き出し、吸い込み。音楽が流れ、ドアが閉まる。そして、次の駅へと向かっていった。
一同、あんぐりと見ていた。
「僕のカバン」
地下鉄が去った後、ミノルは急いでホームの下を見る。
レール以外、何も見当たらなかった。




