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THE Final  作者: 書事丈
4/17

beyond the final 3

 工場の屋根を叩きつける雨の音。段々弱くなっている。雷も、時折、光るくらいだ。

 レオは相変わらず、機械をいじっている。その横には、アクアがちょこんと座っていた。毛布に包まっている。髪は濡れていた。

 ぼんやりと灯っている電球が、周りを照らしている。今回、この灯りで、アクアは助かった。

 ショッピングモールだった大きな建物を出ると、暗くなっていた。日が沈むには、まだ早い。空を見上げると、真っ黒な雲に覆われつつあった。

「これは…ヤバイ…」

死の水ー雨が降ってくる。雨に濡れたら、たちまち病気になってしまう。

 遠くの空が光っている。ゴロゴロと広がりながら、雷が鳴っていた。

 アクアはガレキの上を走り出した。ガレキは慣れているが、転ばないように慎重に…だが、素早く進む。

 日が沈む時間と、重なって来ている。辺りが見えなくなり始め、何がどうなっているのか…。

「もうすぐなんだけどなぁ」

こんな天気ではなく、月が出ていれば工場が見つけられるのに…。

 時々光る稲光では真っ白になり、様子がいまいちわからない。それに、大きな音。地面に突き刺さるようだ。

「キャーーー!」

悲鳴も雷鳴に消されてしまう。

 アクアはカバンを抱え、這うように前に進んだ。

 ポタン

ガスマスクのレンズに水滴が落ちる。

 ポタン

手袋にも雨の感触。

「どうしよう……」

こうなると、一気に降ってくる。何か雨よけになるものはないか…。最悪、ガレキの下に潜り込む。が、害虫がいるかも…それどころか、害獣だってー滅多に会うことはないが、それらは病気の温床だ。

 雨が長く続くと、浸水してくる。これが一番厄介だ。服から侵入して、皮膚が爛れくる。それだけでは、済まない。ーー最悪は"死"。

「何とかしなくっちゃ」

何が出来るか…選択肢を考えながら、辺りを、見回して見る。といっても、真っ暗……その中、前方に灯。

「レオの電球だ!」

アクアは灯りを目指して、走り出した。

 工場に着く直前、集中攻撃するような雨。なんとか、間に合った。

「明かりは必要だな。点けておいてよかった」

 アクアの話を聞いて、レオはホッとしたようだ。心配かけてしまったかな、とちょっとだけ反省した。

「昔は、夜でも昼間のように明るかったんだがな…」

「ほんと?」

電球がそこらじゅうに転がっている所が、アクアの頭の中に浮かんだ。

 ーそんなに明るくない。

月が出ている時は、昼のようにはいかないが、様子は十分わかる。それと変わらないような気がした。

「服はあんまり濡れてないからね。すぐ、乾くよ」

リュラが温かい飲み物を持って来てくれた。カップを手渡すと、横に座る。

「アクアのお土産。気に入ったよ」

角砂糖のお礼に、途中、拾った小さい鏡をリュラにプレゼントした。

 丸くて、青と黒が混ざったような色。表面は擦れてキズだらけだが、フタは開けられる。中の鏡もちゃんと見ることが出来た。

「で、これはなんだい? レオ」

そう言いながら、リュラはアクアの持ち帰った平べったい金属の板を指差した。

「タブレットだ。昔はこれでなんでも出来た。何でもわかったもんだが…」

 レオはガサガサと道具箱の中を探り出す。そして、コードを取り出した。

「何してるの?」

アクアが訊ねると、

「充電だ」

とコードをいろいろとつなげている。

「これで電源がついたとしてもなぁ。…パスワード設定してるんだろうか。うーん、とっくにwifiないしな・・・」

「???」

アクアには、全くわからない。知らない言葉ばかり出てくる。バッテリーにつながる、ということは…電球みたいに明るくなるのだろうか。

 レオはバッテリーとコード、最後にタブレットやらにスイッチを入れる。

 ポン

「鳴った!」

アクアとリュラはお互いに顔を見合わせた。

 軽い電子音の後、黒かったところの真ん中あたりに、何やら浮かび上がる。白い線の長方形。はしに赤い線。その下に、数字が書いている。

「よし! 動くな」

レオはいつになく、生き生きとしていた。まるで、ずっと探していた宝物がようやく見つかったような…。瞳が輝いていた。

 白い枠にある丸いボタンを押す。黒から急に明るくカラフルになる。下の方を指でこすると、いろんな色の小さな四角が何個も現れた。

「お〜」

3人で感嘆する。

「これ、知ってる!」

リュラか叫ぶ。思い出したのが嬉しかったのか、子供のように無邪気に笑う。

「この四角を指で押すと、画面が変わるんだ」

そう言いながら、"4"と書かれた白い四角を人差し指で押した。

 リュラの言う通り、一瞬で違う場所に移ったみたい。

 左上には赤い文字で"2059"。その横には何かの記号。"7月"もある。後は、黒い数字がキレイに並んであった。"4"の所だけ赤い丸になっている。

「今日は、2059年7月4日だ」

リュラが言った。

「わたしは…何年生まれだったかな…。今、いくつかな…」

と指を折って数え始めた。

 何年生まれ…? アクアにとって、今日は聞きなれない言葉ばかり出てくる。

「カレンダー」

キョトンとしているアクアを見て、リュラは笑いながら説明する。

「時間があるだろ。朝から寝て、次の朝で24時間。で、1日。今は時計もないし、ザックリだけどね。それと同じで、1日1日、何年何月何日何曜日と決まってるんだ」

そんな事すっかり忘れてた。とまた笑う。

「取り残された日から、21年経ったのか…」

溜息交じりにレオが言った。



 かつて、人類は「文明」という最強の武器を手に入れ、この世界を君臨していた。

「誰もが平等に、何不自由なく暮らせる」

 そんな生活を目指し、文明をどんどん発展させていった。

 寒さ暑さに関係なく、快適に過ごせる。遠い所でも時間をかけずに行くことが出来る。道にも迷わない。いつでもどこでも、欲しいものが直ぐ手に入る。わからない事なんてない。情報は次々と更新されて、知ることが出来る。

 しかし、「これ」は誰にでも与えられた訳ではない。

 当初は皆同じ。誰もが一定の基準で生活できる。そして、そうなるように修正を続けてきた。それに気が付かないフリをして、文明をどんどん大きくしていった。

「うまく行っている」と言い聞かせている間に、その歪みは段々と大きくなるばかりだ。

 歪みは自然をも犠牲にしていった。それでも、人類はやめなかった。

 文明を発展させれば、何も心配しなくていい。必ず、理想の楽園を手に入れられる。

 そう、信じていた。

 やがて、文明は暴走し、人類が意図しない方向へと向かっていく。そして、ツケを払わなくてはならなくなった。

 自然破壊による地形や天候の変化。頻繁に起こる地震、大雨。次々と進化するウィルス。思いがけず、自分たちより小さな生物にまで、注意しなければならない。

 天災なのか。人災なのか。そして、何より、人類同士の諍いは終わることがなかった。常に戦い、どんどん酷くなる。

 なんとか、元に戻したい。試みたが、遅過ぎた。一部の人類は、

「これは失敗だ」

と結論付けた。そして、自分たちの創り上げた世界を捨てて、新たにやり直す。

 ーーここではない。

この失敗した世界は捨てる。

 その他大勢は、置いて行く。知識のない奴はまた、同じ事を繰り返す。選ばれた者だけが、新天地へと旅立った。

「それが、取り残された日」

取り残され者たちは、この世界をなんとか維持しようと頑張った。が、自然の復讐には勝てなかった。

 度々起こる地震、洪水。今までの大気汚染が襲いかかる。正体不明の病気が蔓延する。それを、今までのようには対処出来ない。

 文明は死んだのだ。

 なす術もなく、次々と倒れていく。あっという間に、多くの仲間が失われていった。

 取り残された者たちは、ほんの僅かに残った文明の痕跡を手繰りながら、生きていくのがやっとだった。

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