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私の魔法爵育成学院……つまりは高校生生活は、概ねこの連絡会議という代物に始まり、そして終わるものなのだと思わざるを得ない。
あくまで連絡会議発足の大元は、学内の対立構造の緩和のため。そして王子主導による学内改革によって片翼党上層部からの介在の余地を減らすことにあった。
学内での対立は、中学校課程の出身校によるもの、身分出自によるもの、性差によるもの……こうした複合的要因が最終的には儀仗組とそれ以外という形のクラス編成の歪さに集約されていた。それを王子はせめて名前だけでも是正して一並びにしようとしたのが起点であり、結局儀仗組の改称に関しては手を付けなかったが、教師陣よりかは小回りが利き確かに学内対立の緩和という主目的を達成する『連絡会議』という組織の成立にこぎつけることができたのであった。この辺はアマルリック王子とオーディリア先輩の共同制作である。
そして、私はこの3年間で魔法使いの内外問わず様々な対立構造に接してきた。上を見れば片翼党が魔法使い主流派である学閥に対抗しようと尽力しており、その余波が私達、特に王子やローザさん関連のやり取りの中で問題として析出していた。
アプランツァイト学園高等科生徒会選挙にまつわる部分では、オーディリア先輩のギリギリの部分での綱渡りが垣間見え、そしてこれと時を同じくして発生した『世界繊維危機』によって今なお『森の民』という国、いや世界中がその後遺症に悩まされている。
野外演習においては自己意識の甘さが露呈した部分が最たるものであったが、イダリア先輩の恋愛観、ひいてはこの国で一般的な恋愛に対する価値観を教えてもらった。それは、王子の婚姻問題や、あるいは直近ではブランヒルデさんの忠告に繋がるものであった。
また、3学年年下の下級生において平民出身者の過激派思想迎合による深刻な貴族出身者との対立が発生している現状もある。それを中立的に裁定しようとしていたアロディアさんは魔法爵育成学院に進学してしまったために、今は殆ど野放しであると言っても良いだろう。それと、そうした対立には無関心であった天才・ベレンガリアさん。そしてこの陰にも片翼党の影響力が見え隠れしていた。
そう、片翼党。ここの次期棟梁と噂される総務部長とも面会した。それが、貴族社会との結び付けという形に発展し、同級生のルーウィンさんの許嫁であるフリーダさんとの関係構築に繋がっている。そんな貴族の中にも対立構造は見え隠れしていた。
はたまた豊作飢饉。学院への不法侵入者問題から析出した農業に関する問題であったが、ここで初めて農業界においても農政の観点から我が国の影響下にある緩衝国家である街道の民への移民政策という方向性が拡張志向が見え、強硬派というものが単に魔法使い内部独自の動きではないということを知らしめる結果となった。
そしてブランヒルデさんの背後関係を洗っている内に、別の軍事組織であり私のことを監視している『近衛兵』組織が、サッカー協会と関係があり、そうした背後関係をスポーツ行政を管轄する魔錬教育省は認識しながらも放任しているという実態、即ち軍事組織の問題が単に相互の対立関係に留まらないことが見えてきた。
本当に、3年間色々あった。そして私はそれらの動きに関与出来ていない。
時代の流れというものに、高々高校生の分際で介入すれば大火傷では済まないのは理解しているし、魔法教育のトップを片翼党に抑えられている以上は、仮に成功したとしても片翼党の功績になりかねないという危惧もあった。
けれども……根本的な部分で言えば、怖い。そうか、私は怖いのだ。
受動的で流されているという自覚はあれど、それでも総合的に見ればそこまで悪くない。国家、ないしは世界が不況の底にあれど、特に私自身も、家族も、そして友人らも取り立ててそれによって破滅したわけでもない。
……これを自分の行動で壊してしまうのが怖いのである。壊せるだけの影響力が果たして私にあるのか、という問題がそれ以前にあるけれどもね。
としたときに、『連絡会議』の今後の進退も結局は既定路線に過ぎないと私は考えていたが、それは間違いであったことにすぐに気付かされる。
*
「えっ……本当に候補が居ないのですか? アマルリック王子?」
「無難に考えれば、2年生の中で最も高位の爵位の家の子息を私の後任に就けるのだろうけれども、それで何とかなるかと言われると微妙なのですよ」
連絡会議そのものは私の魔法爵育成学院生活の要所要所で関わってきたものであるが、昨年より実際に所属し、そして今現在こうして後任をどうするのか考えるまで、特段忙しかったわけでも問題が発生した訳でもない。活動自体もちょっとした委員会活動レベルに過ぎないし、生徒間対立の問題だって全代表が集まって仲裁するなんてことは限りなく少なく、大方当事者の関係者同士の利害調整で事が済む。女子生徒の代表である私だけれども、その女子生徒が全体で4人でしかない以上は、問題はほとんど発生しないようなものでしかなく、ごく稀に私の下にもたらされる議題も、精々女子は自分でご飯を作っていてずるい、とかそんなレベルの陳情でしか無かった。
いや、こちとら男子寄宿舎みたいに食堂併設じゃないのだから、それ言われたら食堂寄越せって話になるし。それに私達だって別に毎日作っているわけではなく本棟の学食をそれなりに使っているのだけど。
ということで、その目的に反して活動については驚くほどあっさり淡白であった『連絡会議』なのだが、これ自体は片翼党が現王子政権に対しては協調を選択したということも大きい。だからこそ、その抑えであった王子が居なくなった後のことを考えると中々に悩まされる問題となってしまう。
そしてこの場に居るのは、その各代表の上に『ご臨席』いただいているアマルリック王子に、中央校代表のルーウィンさん、地方校代表に捻じ込まれているローザさん、そして女子生徒代表の私と後は外部生の代表とほぼほぼ身内で揃っているわけである。
ローザさんは片翼党の方針で入れられたので、片翼党に対峙するための体制を整える王子の次の取り纏め役を決める場には相応しくないのだが、敢えてプロセスを見せることで取り得る片翼党の行動を制御しようという目論見なのだろう。
そしてその肝心の王子から告げられた言葉は、的確な人材がいないということ。確かに王族が居ない以上は、その年代の貴族最高位の子息を付ければ慣例として続けていくのにも分かりやすいし、何より無難だ。
だが、問題はその私達の1個下の世代というのは、平民出身者と貴族出身者が分断されてしまっているがために、『連絡会議』の取り纏めに貴族を置いてしまうと、平民出身者側の反感は否応なしに高まってしまうだろう。これでは当人の資質以前の問題となってしまう。
ちらりとルーウィンさんの様子も伺えば、その意見に賛同している様子。王族目線ではなく貴族目線で見ても厳しいか。
「……ある程度、考え方を変えるしかない……かもしれませんね」
「と、言いますと。どういうことでしょうか、フリサスフィスさん」
「いえ。ルーウィンさん。今までの私達のやり方の踏襲出来る後任を考えておりましたが、アマルリック王子の代役を務めるのではなくもっと別のやり方もあるのではと……」
ローザさんの手前、私は声には出さないが、遅滞戦術もアリかなと考えている。決定的な学内対立だけは避けて問題を棚上げにしてずるずると引き伸ばすというやり口。不満は出るだろうが、どの道魔法爵育成学院に在籍する期間は3年間なのだから、教育制度改革の範疇に強硬派の問題を差し込まなければ良い。
王子がゆっくりと口を開く。
「……悪くはないかもしれません。ある意味では今年がそうであったように、片翼党の方々と協調路線を歩んでいくのもありかもしれません。学内に危うき思想が跋扈することを防ぐ、という一点においてはこの場に居る皆々方は同意していただけるでしょう」
その言葉にローザさんも含めて頷く。まあ、大分修飾と脚色に溢れた王子の言葉ではある。片翼党と協調していたなんて王子は露ほどにも思っていないだろう。とはいえ、片翼党による教育制度改革がこの連絡会議という枠を使って推し進めるのには、最低限この『連絡会議』という箱物を壊してはいけない。そこにおいては共闘できることもあるだろう、という判断だと思う。
「……ねえ、ローザさん。片翼党からのオーダーは受け取ってる?」
「ぁ、えっと……。これ、言っちゃって良いのかなあ……。その……次期以降の連絡会議では片翼党出身者が主導権を握れるようにする……ことですね」
そして、この場に居るローザさんが実は効いてくる。
3年間過ごした中で概ね把握してきたことではあるのだけれども、彼女はネゴシエーターでもフィクサーでもブレーントラストでもなく、メッセンジャーなのだ。
これは私やオーディリア先輩、あるいはアロディアさんのように魔法使いという存在を巨大な『官僚組織』として認識していないことに起因する。彼女は片翼党という組織にこそ所属しているが、派閥抗争を主導する側の人間ではないのは間違いない。
だからこそ、私が対立する懸念を片翼党上層部から伝えられて私と不仲になることを嫌がった彼女は、自分でその状況をコントロールするために動くのではなく、私に片翼党の懸念をそのまま伝える、という手法を取ってきた。勿論、組織という重さを利用した脅しとしては有効的ではあるが、それは同時に彼女自身が片翼党側の意向を捻じ曲げてまで自身に有利な形に変貌させるという政治的一手を取ってこないという何よりの証左である。
そうは言っても魔法使いを『軍人』として見るのであれば、高魔力保有者であるローザさんはこの場に居る誰よりも貴重な人材であることは間違いがなく、そして卒業後は航空兵に関する知見も高めることも踏まえれば、多分魔法を含めた個々人の武勇では隔絶していて、そしてそれは羨望という形で指揮能力にも計上されるだろう。その意味で言えば、片翼党に所属しているからこそそういう教育機会に恵まれたと言えもするが、仮に所属しなくてもあるいは埋没しかねない男子生徒であったとしても優秀な指揮官としての立ち位置は確立するのは想像に難くない。
ただ、この場がどちらかと言えば『政治型』の魔法使いの集まりであるということが彼女にとっては不幸であり、同時に『非政治型』のメッセンジャーとしての役割しか片翼党に期待されていなかったのは幸福であったと言って良いだろう。
「地方校代表は片翼党の方に埋めてもらうとして。中央校の代表に先の貴族の方は動かしますかね、エルフワイン殿下?」
「悩みどころですが、貴族は外した方が良いかもしれないですよコロバート。
……因みにフリサスフィスさん。女子生徒はどのように?」
「……アロディア・ガーヒルドさんを推挙しようかと」
「そうなりますよね。彼女の負担が大きくならないためにも中央校の代表者には平衡感覚に長けた者が望ましいのですが……」
殆ど蚊帳の外の外部生代表であるが、実際のところ外部入学生の総数は女子生徒程ではないにしろ、数が少ないので選択肢は限られる。正直、毒にも薬にもならないタイプしか入りようがない。
王子は続けて言葉を紡ぐ。
「……となると、やはり私の後任ですね。いっそのこと魔法使いの外部と関係が強い方などのが良いかもしれません。それで貴族にも平民出身者にも嫌な顔をされないとなりますと……」
確かに『連絡会議』の重みを残すのであれば、それもありかもしれない。下手に魔法使い内部から介入されて揺れ動かないように魔法使い外の権力機構と繋がっている人というのは……って。
この条件に当てはまるのって、近衛兵組織の義父を持つブランヒルデさんなのでは……?




