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「……2学年下で、魔法青少年学院に通う……アロディアさんに助力を願ってみる、というのはどうかな?」
ガーヒルド・アロディアさん。元アプランツァイト学園生で昨年魔法青少年学院で一緒だったアウトドア好きの子。
サッカー観戦に行ったり、学院外で遊んだり……ある意味ではそういうプライベートな付き合いは一番多く関わったかもしれない。
『流星群観測』を経て、私のことを後輩として「忠義と忠誠を尽くすのに足りる存在」とまで評してくれた彼女。まあこの言葉はアプランツァイト学園流に考えれば「利用価値がある間は上位者として扱う」くらいの意味だけれども。
そんな彼女は現在一般教育課程に則れば、中学2年生。
すなわちアプランツァイト学園中等科の2年に最も強力なコネクションがある。
無論。高等科の生徒会選挙で選挙権を有するのは高等科の1年から3年生のクラスであり、そこに中等科が絡むことは無い。
しかし、そこはアプランツァイト学園。誰に投票するのかということを考えたときにその生徒会長候補のネームバリューやバックに居る人物、あるいは公約や今後の生徒会長としての生徒会組織運営の展望……そうした要素のみならず学園内の派閥力学なども考慮して誰に入れるか決める。
すなわち中等科と無用な軋轢を生みかねない人物よりかは、多少なりとも友好的な人物のが有利にはなる。とはいえ、他の要素の方が重要視されるのは確かではあるが。
そこまで考えた上での提案であったが、勉強会同級生組の3人は黙ったまま考える。
すると意見がまとまったのか、クレティが口を開く。
「……あのですね、ヴェレナ。
アロディアさんのことは私達も存じ上げています。何よりヴェレナ、あなたが紹介したのですから。
……言いたいことは分かるのですよ。高等科以外の支援体制の構築ではクレメンティー先輩程強力な手札を私達は持っていないですから、そこの補填に彼女を用いるというのは」
まあ、目の前の3人には確かにアロディアさんのことは紹介していた。しかもそのときソーディスさんに至っては、初等科文化祭での演劇の一件でテニスクラブで一度見かけていたことを覚えていたくらいで。
そうやって意識の中に残っていれば、私の利用できる手札に彼女が居ることくらいは、この3人であれば想定はしていたはずだ。にも関わらず彼女の名前を挙げて私に対して働きかけるように要求することはなかった。
「彼女――アロディアさんはアプランツァイト学園時代ではほぼ無名の人物だったから。
……中等科の意見を彼女1人の力で統一することは不可能よ。出来ることは限られてくると思うけれど」
ルシアがアロディアさんのアプランツァイト学園での影響力を鑑みてそう答える。曲がりなりにも『勉強会』は、その学年で影響力を有した人物の集まりであった。オーディリア先輩は最早言わずもがなとしても、ルシアもクレティもソーディスさんも、そして私も。初等科当時から今に至るまで私達の学年の代表という側面を必ず有していた。
翻って、アロディアさんにはそのような経歴がアプランツァイト学園内に存在しない。彼女自身は利害関係を考えて動いてはいたけれども、それはあの学園においては特段特異な才能というわけでもないのである。
影響力という意味では、ここに居るメンバーと比較すると一段劣ると言われるのは致し方のない側面もある。だからこそ、ルシアは彼女の実力を過大に見積もることなく適切に評価した結果で先の言葉が出てきた、ということである。
しかし、そういう意味では私からも反論は可能だ。
「でも。何もしなければ中等科は、明らかにオーディリア先輩の擁立した候補の支援に回るでしょ。
大学科や初等科は抑えられたも同然なのだから、せめて中等科くらいは多少かき乱さないと孤立無援になると思うのだけれども」
私の言葉には一理あったのか、ルシアは一言「そうね」と頷きそのまま黙る。
どうあっても学年横断的に関係性を構築していたオーディリア先輩の有する高等科以外のコネクションという武器に対抗する術は私達には存在しないのは事実である。
またアロディアさんを上手く私達の側に引き込めたところで、オーディリア先輩の有するコネクションを上回ることが出来るのかと言えばそれも微妙。
でも、何もしなければ盤外である高等科以外の支援体制はオーディリア先輩一色で整えられるだろう。そして、それを理解できない3人ではない。
「――でも、ヴェレナ、さん?
私達には……私達の考えが、あるように、アロディアさんにも……当人の考えがあるはず。
この状況で、オーディリア先輩……ではなくヴェレナ、さん……あなたを選ぶ、とは限らない、はず」
「……まあ、それには腹案があるから、ね? ソーディスさん」
*
「……あや。確かに、アプランツァイト学園高等科の生徒会選挙が荒れているという話は小耳に挟みましたが……。
正直、私が言うのも差し出がましいとは思いますが、勉強会派閥内部で相争うことは不利益しか生まないと思いますよ、ヴェレナ先輩」
翌日。早速、仕込みを行ってガングベルクにある魔法青少年学院を訪ねた私。
まだ卒業して1年経たないけれど、懐かしさを感じる。まあ、女子寄宿舎の構造は完全に現在通う魔法爵育成学院と同じなので、その点については既視感の方が強いのだけれども。
そのダイニングでアロディアさんの歓待を受けつつも私達への協力を促す言葉を放った後に返ってきた答えがこれである。
そしてアロディアさんもアプランツァイト学園の高等科生徒会選挙の現状は知っていた様子。それは裏を返せば、この問題に興味を抱いていること、そして彼女自身も独自の伝手でアプランツァイト学園内部の情報を入手する手立てがあることの証左だ。
「……どうしても、私には協力出来ない感じ?」
私がそう言えば嘆息を漏らし、こう告げる。
「……あのですね、ヴェレナ先輩。確かに私は貴方のことを先輩と認めましたし、多少であれば便宜を図ることは吝かではありません。
しかし、今回貴方側の立場に立つとクレメンティー先輩を敵に回す恐れがありますし。せめてヴェレナ先輩がクレメンティー先輩側に付いて下さって居れば良かったのですが……」
私に対しての恩義……とまではいかないが腐れ縁的なものをアロディアさんが感じているのは確かだ。しかし同時に、それはオーディリア先輩を敵に回してでも遂行されるべきでもないということである。
まあ、それはそうだ。だから私がオーディリア先輩側に立っていれば彼女は協力してくれると述べた。これは私やソーディスさんらを軽く見ているのではなく、あくまで客観的に見たときにオーディリア先輩が重いということ。
「……オーディリア先輩の意向が私達勉強会のメンバーと戦ってみたいという知的好奇心で今回のお話が動いているとしても?」
「あや。その話は初耳ですが、そうですね。
それが仮に事実だとしても、私が敵対することでクレメンティー先輩に不興を買う恐れがある以上は決断は出来ませんよ。
あるいは、ヴェレナ先輩がこの場で真実のみを語るとも限らない訳ですし。
あっ、いや、ここで嘘を付ける人間だとはあまり思っていませんが、ヴェレナ先輩が有している『真実』が、本当に真実かどうかは分かりませんし、ね?」
いや、まあ私がオーディリア先輩から直接聞いた話ではあるのだけれども、アロディアさんの立場から見れば怪しむのは当然かもしれない。
私が嘘を付く可能性すらも考慮しているが、それ以上に私が真実を掴み損ねていることを危惧している。確かにオーディリア先輩との話し合いでは若干肩透かしを喰らった感はあるし、これだけが真実という訳ではなさそうなのは実際問題としてあり得る。
「……やっぱり、こうなるか」
「あや。……ヴェレナ先輩、私がこう答えることは予想していた、と?」
「うん、まあね。先輩後輩だけの関係だけで乗ってくれるとは思ってなかったし、私では説得出来ないかもとは……正直、考えていた」
もっとも、私の説得で納得してくれれば最上ではあったけれども。仕方ない。
「実は、時間差で助っ人を用意していたのですけれども……」
「――ヴェレナさーん? もう入っても良いですか?」
「あっ、すみません」
ちょっとだけ集合時間をずらして来てもらった人が一人。タイミング的に地味に噛み合っていなかったのかダイニングの外で待機させてしまっていたみたい。
そんな中途半端に締まらない状況で登場したのは――
「初めてお会い致しますね。お噂はこちらのヴェレナさんからかねがね。
――オーディリア・クレメンティーです。
ガーヒルドさん、以後お見知りおきを」
「……えっ、クレメンティー先輩?
いやいや、こちらこそお会いできて本当に光栄です! あや……、何でちょっと、どうしてヴェレナ先輩と一緒に来ているのですか!?」
*
私が隠していた切り札はオーディリア先輩。
アロディアさんが混乱するのは分からないでもない。だって、今回の高等科生徒会選挙に限って言えば、ソーディスさん側に付いた私とオーディリア先輩は言わば敵同士だ。そんな敵対している間柄で、まさかアロディアさんをソーディスさん側に引き込む交渉に敵の総大将たるオーディリア先輩を使うなんて考えはしないだろう。
だけど私はオーディリア先輩が、私達他の勉強会メンバーと戦いたいことを知っている。そして先輩の気質を鑑みれば、それが最高のコンディション、ベストメンバー、取り得る最良の手段を駆使して相対して欲しいと考えていることくらいは分かる。
そこに交渉の余地が生まれる。敢えて私の懸念事項を除くのにオーディリア先輩自身を利用することへの。流石にこの話を持ち掛けたときには先輩には苦笑いされたが。
「――というわけですね。私としてはアロディアさんが、ヴェレナさん……ひいてはソーディスさん側に付いていただいて全く問題はございません。
彼女のおっしゃる通り、これは勉強会派閥の仲違いなどではなく利害関係が大きく生じぬ内に手合わせをしてみたかったという興味があるのは間違いなく事実ですから」
「あや……。オーディリア先輩にそこまで太鼓判を推されるということであれば、ヴェレナ先輩にご助力せねばなりませんね。
私の実力がどこまで先輩方に通用するのかは分かりませんが、微細ながらも尽力させていただきます」
オーディリア先輩を前面に出したら交渉が一発で終了してしまった。切り札である認識はあったけれども、こうもあっさりと意見を翻されると私の立つ瀬がない。
まあ過程は兎も角として得るべき結果はしっかりと手にしたのだから、多くは望まない方が良いか。まだ私の実力では手段を選べるほどの力量は無いということだ。先輩のお零れであろうと奇策の類だろうと、泥臭く利用しなければ結果は付いて来ない。
「……あや、そうでした。
折角アプランツァイト学園卒で魔法使いを志す先輩お2人がこの場に居るのですから、伝えておきますか。
生徒会選挙には全く関係のないことなのですが――」
「聞きましょう」
オーディリア先輩の返答は矢のように鋭く、しかし端的であったがその声色に真剣さが乗っていたので、私も頭を切り換えて、続くアロディアさんの言葉に意識を傾ける。
「――ルイトガルド・ベレンガリア。私の1学年年下で入学してこの学院に所属している女子生徒なのですが。
……どうやら、本物の『天才』――それも化け物と呼称しても良い程の才覚の持ち主かと思われます」
「アロディアさんの1年下と言うことは私から見れば5年次だけ下ですか……。
その才覚は、我々の学園で使われる意味でしょうか? それとも――ヴェレナさんのような?」
オーディリア先輩からみて5個下ということは私から見たら4個下ということになる。
そして『天才』という言葉が示す意味と意義。
アプランツァイト学園的に考えるとオーディリア先輩の如き派閥抗争や権力争いにおいて無類の才覚を発揮するタイプなのだろうか。
あるいは、先輩の言った私のようなタイプとは……。
「いえ、一番近しい人物を挙げるとすればワーガヴァント先輩でしょうか、やや軍事寄りですけれど。
特に……ヴェレナ先輩の『二段階制空論』。あれに軍事的な視野で価値を見出しているようでして。
先輩、いつ機会があるかは分かりませんが、気を付けて下さい。この寄宿舎にて一緒に暮らしている経験から言えば……本物です」
アロディアさんがまさかここまで言う人物が居るとは。流石にそこまで神妙に私の進退を彼女に心配されるとは思ってはいなかったので、私もそれに応じる声は慎重となってしまう。
更に、それに続けて答えるオーディリア先輩の声も、硬さが僅かに残るもののそれでも私達を安堵させるようにこう話すのであった。
「……覚えておきましょう。5年次下であれば、手駒が全く無いわけではありませんから、少し私の方からも探ってみますね」
……この人。いつの間に魔法青少年学院の5年も年下の学年に何故、伝手を形成しているのか。




