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058 再会する仲間たち

 ゲネードを発って十二日後。


 カインたちは予定通り、コルネリア領にあるペルシアの街へと到着した。


 コルネリア領三大都市であるペルシア。ボルドのような城塞都市ではないが、高い石垣いしがきに覆われた活気のある街並みが広がっている。


 街に到着したカインたちは宿をとり、旅の疲れを取る為にしばしの休憩をすることとなった。


 とは言っても、翌日にはキリエ村に向かって旅立つわけで、休まるというほどではない。


 だが、キリエ村に到着するまでは、訓練を行わないとのことなので、精神的には幾分か楽になっている事は確かである。


 ペルシアまでの道中も大きな問題は起きず、おおむね平和であったと言えよう。到着した一行の表情は疲弊した様子が見られはしたが。


 まあ、それはそうだろう。ベンズマストへ向かう最中さなかに行われた訓練が再開しているのだから、カインたちに休まる時間などあるわけもない。


 それでも、慣れなのかステータスの上昇によるものなのか、行きに比べればまだ余裕のようなものもある。


 本気でやつれているのはヴィレイナだろう。


 彼女には数日後に、キリエ村で浄化を行なって貰わなくてはならないのだ。ここらで休んで貰わなくては本末転倒になる。


 そんな理由もあり、一時的に休まる時間を得ることが出来ている。


 しかし、カインには休んでいる暇などない。カインはこの街でやらなければならないことがあったからだ。


 天秤の塔を攻略する際に仲間となった冒険者たち。彼等と会い、諸々(もろもろ)の精算と話し合いを行う必要があったのだ。


 カインはルクスをともない、冒険者ギルドへと向かった。


 事前に冒険者ギルドに設置されている、ラインという通信手段を用いて仲間と連絡を取り合っていた。


 カインが本日ペルシアへ到着することは既に伝わっており、仲間たちは冒険者ギルドへ集まる筈である。


 カインとルクスがギルドへ到着し受付にて確認すると、パーティーが密談や会議を行う為の個室がカイン名義で貸し出されているとのことだ。


 カインたちは直ぐさま階上へ移動し、受付で教えられた三号室をノックし扉を開く。


 すると、そこには約ひと月程前に、共に天秤の塔へと挑んだ仲間たちが既に待機していた。


 薄い灰色の長い髪を一つにまとめ、静かに暝目めいもくしている東国出身の剣士、ミズシゲ。

 小柄な体躯ではあるが、はかまの上に東国独特の軽鎧をまとい、凛とたたずむ姿は達観した強者の雰囲気がある。実際彼女は、女性の身でありながらカインたちのパーティー内で一番力が強く、剣の腕前も驚く程に高かった。

 その細腕のどこにそんな力が隠されているのか不思議で仕方なかったカインではあったが、ステータスの存在を知った今なら、その理由もなんとなくだがわかる。


 ミズシゲの隣に腕を組んで腰掛けている男が、ゲンゴウ。

 ミズシゲの従者のような立ち位置で、彼も東国出身の剣士である。短い髪にいかめしい顔付き。アーマードよりは一回り小さいが、それでもミズシゲと比較すると背丈は倍ぐらいの高さがあり、鍛え抜かれた肉体も相俟って威圧感が凄まじい。

 東国の剣士はみな同じような格好をしているのか、ゲンゴウもはかまの上に軽鎧をまとっている。


 その隣で、机に足を上げて暇そうに頭の後ろで手を組んでいる男。彼がバッカー。

 端正な顔立ちに金色の髪がよく映える。

 女性に好かれそうな容姿を持つものの、実際にはモテない。いや、モテた時期も多くあったのであろうが、その殆どを彼は無為にして来た。

 何故なら馬鹿だからである。それも生粋きっすいの。


 格闘家として、全てを拳で収めようとする彼は、良く言えば真っ直ぐな男。悪く言えば脳筋野郎とも言える。「馬鹿野郎!」とののしられれば、バッカーという自分の名前を呼ばれたと思い込み、「呼んだか?」と答える程度には手に負えない男だ。


 そしてもう一人、室内だというのに深く帽子をかぶりマントを羽織った魔術士、ウルスナである。

 豊満な体つきの彼女だが、魔術士としてのこだわりがあるのか、あまり素肌をさらそうとはしない。


 どちらかと言えば根暗そうな印象を受けるが、口数は少なくなく、むしろ良く喋る。


 見た目と相反あいはんして、自分の意思をハッキリと主張出来る性格の持ち主だ。


 以上四名に、ルクス、そしてカインを加えた六名が天秤の塔を攻略したパーティーメンバーである。


 カインが個室に入室すると、一同の視線が集まる。そして、その視線を受けてカインが口を開いた。


「久し振りだな。合流に時間が掛かってしまってすまなかった」


 カインが謝罪すると、いち早くウルスナが声を上げた。


「あんたさぁ。計画ってもんをわかってるわけ?」


「もちろんだ。だが、やむを得ない事情があった」


「私たちと合流する前に、ベンズマストへ旅立たなきゃいけない事情なんてわからないんだけど?」


「それについてはちゃんと説明する。ルクスが」


「おいっ! てめぇ! 勝手なこと言ってんじゃねぇよ! 事情なんて俺はなんも聞かされちゃいねえだろうが!」


「はあ? ルクス、あんたさ。一人でわざわざ追い掛けて行って事情の一つも聞いてないわけ? どんだけ無能なのよ」


「ウルスナ、てめえ! 口の利き方には気を付けろよ! 俺の方が年上なんだからな!」


「うっさい、おっさん。あと声がでかい」


「まあまあ、喧嘩するなって。意見が割れた時はほら、殴り合えば良いだろう?」


 金髪のイケメン、バッカーが二人の会話に割って入った。しかし、二人は示し合わせたようにバッカーを睨みつけると同時に言った。


「「馬鹿は黙ってろ!」」


「あんだよ。せっかく俺様が妙案みょうあんってやつをひねり出してやったってのに。あと俺様はバカじゃなくてバッカーだ。いい加減覚えろよな」


「ぐう。こいつは何でこんな……ルクス、あんたがアホだから馬鹿のせいで疲れたじゃない!」


「ウルスナ! てめえはさっきから舐めた口利いてんじゃねえ!」


 二人が再び言い争いをし始めると、パンッと手を叩く音が会話を遮った。


 一同の視線がミズシゲへと集まる。


 彼女は目を閉じたまま、静かな声音で「お静かに」と一言述べた。


 そのたった一言で、その場に静寂が満ちる。


 そして、ミズシゲは瞳を閉じたまま、その瞳を見開くことなくカインへと顔を向けた。


わずかな期間で腕を上げましたね」


 カインの何を見てそう判断したのか、いや、そもそも見えているのかわからないが、ミズシゲの言葉には確信めいた含みがあった。


 確かにカインはこのひと月の間に力を付けた。


 スキル獲得によるステータスの上昇もそうだが、今まで使用できなかった身体強化の魔術。ファライヤが編み出した六つの身体強化。そして、魔法の技術に近い半魔法の獲得。


 だが、それらは一見してわかるものではない。


 装備を一新し、龍皮を用いた鎧にコート。黒曜鉄で打たれた刀など、確かに見た目の変化もうかがえるのだが……。


まとっている魔力の動きが違います」


 カインが内心で考えていた疑問に答えるように、ミズシゲはそう付け足した。


「わかるのか?」


「何となくですが……。それが、ギフトによる恩恵……と言ったところでしょうか」


「……そんなところだ」


 カインがそう告げると、ミズシゲは静かに頷く。


「そうですか。……では、詳しい状況の説明を」


 緩やかに場を取りまとめたミズシゲにうながされ、カインは天秤の塔を攻略したのちに何があったのかを詳しく話した。


 ギフトの代わりに授かったマリアンという少女の話。マリアンの持つ知識により、己を鍛えることができた話。キリエ村の呪いを解く為に行動することとなり、その過程でエラー教とミリアム教の後ろ盾を得て、英雄に祭り上げられた話を語る。


 その話を聞いて一同は顔をしかめて、各々の思考を巡らせる。


 表情の読めないミズシゲと、おそらく何も考えていないバッカーを除いて全員が難しい顔をしていた。


「今後はどうするつもりなのよ?」


 そう言葉を発したのはウルスナだ。

 現状のことよりも先のことが気になったのだろう。


 そもそも、カインたちは天秤の塔を攻略したのち、アルストレイ帝国に向かう予定だった。ミズシゲのコネを使ってアルストレイの後ろ盾のもと、災害指定と呼ばれる魔物を打ち倒し名声を得る手筈になっていたわけである。


 しかし、ふたを開けてみれば、カインの得たモノはなんとも曖昧なモノであり、更に予定と違いカインは既に英雄として名声を手にしてしまっているというではないか。


 カインの行動次第では身の振り方を考え直さなくてはいけないわけで、ウルスナの疑問は至極当然のことだと言える。


「一先ずはキリエ村の呪いを解く」


「それは話の流れでわかるわよ。私が聞いてるのはその後のこと。アルストレイじゃなくて、エイブ王国に根を張って活動するなら、そもそもの話と違ってくるわ」


「はあ? 別にどこにいたって良いだろ? どうせ目の前の敵をぶっ飛ばすだけなんだからよ」


「馬鹿は黙ってて頂戴」


「ウルスナ。お前馬鹿だろ? 俺の名前はバカじゃなくてバッカーだ。何度言えば覚えられるんだ?」


「ああー、もう! あんたと話してると疲れるから黙っててよ!」


「どちらにせよ。アルストレイにはもう行けぬ。カインよ。少しはしゃぎ過ぎたな」


 ゲンゴウがわずかに殺気を帯びた様子で声を発した。

 その様子を見て、ミズシゲが手を上げてゲンゴウを制する。


「抑えてください。ゲンゴウ」


「しかし……」


 反論しようとしたゲンゴウがミズシゲの物言わぬ威圧感に押し黙った。


「ご存知かと思いますが、我々の祖国―――東国はアルストレイ帝国の一部です。当然のことながら大英雄を神のごとうやまっている者も多い。マークレウスを名乗ったのは早計でしたね。下手をすればヴァルキュリアやシグルズを敵に回します」


「話せばわかる連中ではないということか?」


「カインは自身が信仰する神の名を語る者を、容易に受け入れることができますか?」


「あまり信心深くない方だからな。ピンと来ないが言わんとしていることはわかる。お前もそう感じているのか? ミズシゲ」


「……さて。どうでしょうね。少なくともあなたに大英雄ほどの力が備わっているというのなら。私はそれほど否定的には考えないでしょう」


 つまりは、現状ではその名を口にすることは認められない。


 ミズシゲの言葉は言外にそう告げていた。

 成り行きというべきか、主にマリアンの所為だとは言え、大英雄を名乗ることに否定的な意見を告げられカインは苦い顔を向ける。


「で? 要するに今後はどうするのよ?」


「力を付ける。そして、大英雄と同じことをするつもりだ」


 その言葉に一同がピクリと反応する。表情読めないミズシゲですら、わずかに眉をしかめた。


「はあ!? バッカじゃない! そんなこと出来るわけないじゃない。それに、私が聞いてるのは、今後どこに根を張って何をするのかってことでしょ。ちゃんと具体的な話をしてくれないかしら?」


「強くなる為の手段はある。それに下手に動くよりも、コルネリア領で地盤を固めることが最善だと判断した」


「……大英雄と同じっつーことは、国を興すってことか?」


「そうじゃない。最初から伝えている通り何も変わらない。俺は力を付けて俺の我儘を押し通す。大英雄がそうしたように、守りたい者の為に命を賭けるだけだ。これも最初から言ってるが、俺のやり方が気に入らないなら抜けろ」


「攻略者であることは知れ渡ってっから、現状で絡まれそうなのはバン・ドルイドとヴァルキュリアにシグルズか。どれも相手にしたくねえな」


「神の恩恵を狙って来る奴もいるでしょう? 三大宗教とエイブ王国を味方に付けたとしても、戦力としては心許ないわ」


「なんだ? お前ら抜けるのか? 俺様はやるぜ! 何故かって? 面白そうだからだ!」


「馬鹿は単純で良いわね」


「いや、だからよ。俺の名前は―――」


「あー、はいはい。もう良いから!」


「私たち東国の剣士は、アルストレイと事を構えることができません。ヴァルキュリアやシグルズと対立する場合、力にはなれないでしょう」


 ミズシゲが重々しく言った。


「……ですが、それでも構わなければ、力になりましょう」


「ミズシゲ! お主は何を言っているのだ!」


「ゲンゴウ。彼は大英雄を名乗ったのですよ」


「そうだ。我等が軍神様の主、マークレウスの名を語ったのだ! 捨て置くわけには行くまい」


「だからこそです。元々彼の理想は、マークレウス様の思想に近しい。それ故に、我々はアルストレイに引き入れるべく力を貸したのでしょう? であるならば、見定めなければならないと私は考えます」


「見定める必要などあるまい。大英雄の名を語れる人物など、世界広しと言えど誰もおらん」


「いいえ。ただ一人、大英雄その人だけはその名を語ることが認められています」


「それは当然だろう!」


「ならば、次代の大英雄が居たとしてもおかしくはないでしょう。その者が、大英雄と同じ名を語ったというのならば、それは我々にとってもほまれとなります」


「っ! ミズシゲはこの男にそれほどの才覚があると思っているのか!」


「先程から言っていますよ。私は彼に力が伴えば、否定的な感情はないと」


 そう断言され、ゲンゴウは渋面じゅうめんを作り黙り込んだ。


「と言うわけで、我々はあなたの力になりましょう」


 瞳を閉じたまま、ミズシゲはそう告げる。


「ああ。宜しく頼む」


 カインがそういうと、ミズシゲはニコリと口元を緩めた。未だに底の知れない強さを持つミズシゲとゲンゴウ。


 改めて二人の協力を取り付けられたことは、カインとって大きなものであった。

読んで頂きありがとう御座います。

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