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101 それぞれの戦

 六階層へ降りたカインたち。その後方からは、未だ怒声が響き渡り、ガチャガチャとけたたましい音が鳴っていた。


 五階層を突破したのは確かだが、後方から迫る騎士たちを抑え込むには至っていない。


 このまま何もせずに逃げているだけでは、何れは本隊とぶつかり挟撃されることとなってしまう。


 誰しもがそれを理解しているのか、一同は階段を降り切ったところで足を止め、後方へと振り返った。


「カイン。俺が足止めをする!」


 最初に声を上げたのはアーマードであった。


 階段下は狭い一本道となっている。


 確かに守る戦いならば、少数でも抑え込むことが出来そうではあるが……。


 相手は騎士百五十名と倒し切っていないSクラスの冒険者が二人いる。果たして、仲間に任せきりにしてこの場を離れて良いものか……。


 カインが迷っているとミズシゲが声を上げた。


「カイン。アーマード一人では厳しいでしょう。この場で敵を食い止める者を選別して下さい」


 ミズシゲの言葉に、他の面々は頷いた。


 誰しもがこの場に残る覚悟があるということだ。その選択を皆が皆、カインに委ねてくれる。


「半数残す! アーマード一人も通すなよ! ゲンゴウとバッカー! Sクラスの冒険者はお前たちが抑えろ。油断するなよ、強いぞ! 一人はガチガチの格闘タイプだ」


「もう一人は、天眼のアルタイルです。技を模倣してくるのでご注意を」


 ミズシゲが補足を入れる。


「だそうだ。それと、リンドーは魔術で援護。ヴィレイナ! 前衛が怪我を負ったら透かさず回復させろ! マリアンお前も残れ、ここからは急ぎだ。トリティ、マリアンとヴィレイナを守れ!」


 カインの言葉に名前を呼ばれた面々は頷いた。


「カイン、あと二百ぐらいいるけど大丈夫?」


「問題無い。本隊は魔族討伐で忙しい。手練れがいたとしても、アイツを抑え込むのは容易じゃない。寧ろこっちの方が大変になるかもしれん」


「あー、確かに」


「マリアン。全体を見てさっきみたいに指示を飛ばせ! 相手がなりふり構わずA級魔術を使って来たら無力化しろよ」


「人使い荒いんですけど! というかあの状況でそんなところよくみてたね」


「探知の賜物だな。全体が手に取るようにわかる。とにかく頼んだぞ」


 そう言って、カインたちは間を置かずに駆けて行った。


 それを見送ってマリアンが呑気な声を上げた。


「さー、頑張ろー!」


 それに対して一同は気楽な様子で頷いた。


「あの女は俺様が相手をするぜ!」


「なら、天眼は俺か。まあ、問題なかろう」


「一人も通さん」


「マリアンたんがいらっしゃるとなると、カッコ悪いところは見せられませんな」


「皆さん無茶はしないで下さいね」


「ヴィレイナ様、マリアン様。いざという時は私を盾にして下さい」


 それぞれが配置に着き、先程とは立場の変わる守る為の戦いが始まった。






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 薄暗いダンジョンの中で、ゆらゆらと光が揺れ動いた。


 腰に取り付けられた『光陣』の魔晶石が、歩く度に揺れ動き、周囲に光と影を作り出す。


 足音は鳴らない。


 ファライヤは、そう教え込まれて来たのだから。


 ダンジョンの三階層。


 カインたちと別れて反対側の通路を歩いて少し。通路が開けた場所でファライヤは足を止めた。


「こそこそと隠れてないで、出て来たら?」


 ファライヤが何もない暗がりに向かってそう言うと、突然、闇の中から一人の男が現れた。


 線の細い黒髪の男―――高松英土(えど)は、薄ら笑いを浮かべる。


「やはりお前はとんでもない奴だね。気配は完全に消していたはずなんだけどな?」


「気配というか、あなたの場合はスキルか何かに頼っているだけでしょう? 遮断していたようだけれど、陽の当たる場所で光を遮断してもそこには真っ暗な暗闇が出来るだけなのよ。ポツンとある暗闇なんて見逃しようがないわ」


「はっ! そんなことはわかってる。そもそも、相手の魔力をそこまで的確に感知出来るのが異常だって言ってるんだよ!」


「異常? この程度は基礎よ。いやね、そんなこともわからないのに私の前に出てきて大丈夫なのかしら? 心配になってしまうわ」


「余裕をこいてられるのも今の内さ! お前が使っている魔法の技術は既に知れているんだからな!」


 ファライヤはやれやれと肩を竦めてみせた。


「アホね。知れたからなんだというの?」


 そう言ってファライヤは、獰猛な瞳を向けた。蛇のようなその瞳に、エドは僅かにたじろぎ息を飲む。


 敗北の記憶が蘇り、足が震え冷や汗が噴き出した。


 あの時に味わった死の恐怖は、決して忘れない。忘れることが出来ないほど、深く心に刻み付けられた。


 ……許せない。この女だけは!


 勝つ! 倒す! 殺す! この女を始末しなければ、胸の内に刻まれた恐怖は晴れない!


 湧き立つ怒りの感情が、刻まれた恐怖を塗り潰す。


 エドは岩壁に拳を叩きつけて、怒りの表情を浮かべた。


「僕は負けてこなかった! 勉強もスポーツも! 女だって選びたい放題さ! この世界に来てからも順調そのものだった。誰もが僕の力にひれ伏し、許しを請い媚びへつらった!」


 エドがキツく唇を噛む。


「お前だけだ! 僕に苦汁を舐めさせたのは! ファライヤ!」


 自分を言い聞かせるように言葉を吐くと、エドの体から魔力が膨れ上がる。


 無尽蔵とも思えるその量は、カインが出会った魔族と同等。いや、下手をすればそれよりも多いかもしれない。その膨大な魔力がダンジョンを揺らす。


 それだけの量の魔力を鎧のように全身に纏ってみせて、エドはファライヤを睨み付けた。


「これが僕の手にした魔法の力。『魔闘気』だ! 僕の名前はエド・タカマツ。死に逝く前に覚えておけ!」


 全身に非常識な魔力を纏ったエドが、歩く度に地面を砕きながら一歩、また一歩とファライヤへと近付いていった。


 それに対して、ファライヤはクスクスと笑いを零す。


「私が到着する前に、マリアンにも手玉に取られていたでしょうに」


 馬鹿にするような言葉に、エドの感情が更に膨れ上がった。


「ぶっ殺す!」






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 ダンジョンの最奥。十二階層の広間に慌ただしい喧騒が届いた。


 相変わらず、片膝を立て岩壁に背をもたれた状態で瞑目していた魔族だったが、十二階層に侵入したおびただしい数の気配を感じ、僅かに顔を上げる。


 階層に広がる己の魔力を通して、その数を数えるとどうやら二百名ほどの人間が入り込んだのだということがわかる。


 全く人というモノは騒々しい。忌々しげに尾を振り上げ、地面に打ち付けると、その音に驚いた蛇たちが一斉に横穴へと逃げて行った。


 魔族と違い、人間は群れなければ何一つできないのだから、その習性も理解できなくはないのだが。


 それでも、鬱陶しいことには変わらない。


「大人しくしていれば、痛い目に合わずに済むというのに……」


 そんな呟きが、口から漏れていた。


 そういえば、あの男はどうしたのだろうか?


 不意に、魔族の脳裏に一人の男の姿が浮かんだ。


 仲間と群れずに、ただ一人で自分に立ち向かって来たあの男。


 幾度となく打ち込んだ全力の一撃。その攻撃を受けて、さすがにただではすまなかったろうに、あの男は懲りずに何度もやって来た。


 図々しくて傲慢な態度で自分を苛立たせたのは、他の人間と同じで変わらない。だが、あの男の行動は、今まで見て来た人間のそれとは違っていた。


 あの男が連れて来た不可思議な少女。


 結局言い負かされて、自分は約束してしまったのだ。


 認めさせることが出来たならば、人を信じる努力をしてやると。


 馬鹿な男だ。


 認めるなどという曖昧な基準で納得し、努力をするなどという不確定なものを信じたのだから。


 自分の匙加減で、容易に反故に出来る内容だ。


 だが、そんな曖昧な口約束一つで、嬉しそうにしてみせた男の姿。その姿が、胸の内にチクリと小さな痛みを感じさせた。


「……ふっ、何を考えているのだ、私は」


 そう言って、魔族は頭を振った。




 暫くすると、魔族のいる広間へゾロゾロと騎士が侵入して来た。


 規律の取れた乱れの無い隊列が、魔族を取り囲むように配置される。そして、その中央を掻き分けて一人の男が一歩前へと出た。


 背の高いガッシリとした体つきの男。緑がかった短い髪。背には大きな大剣を背負っている。


 そして、歴戦を思わせる厳しい顔には、額から左目にかけて深い傷跡があった。


 グレイシス・バイウォード。


 領主オルトランド・コルネリアの正規部隊。熱鋼騎士団の団長であり、闘千の称号を持つ領内最強と呼び名も高い戦士である。


 闘千とはその名の通り、たった一人で千の騎士と闘い、それを打ち倒すことの出来る者にのみ贈られる称号である。


 功績を称えられて呼ばれる英雄とは違う。ただ強く、人の限界を逸脱した者にのみ贈られる称号なのである。


 各国の力のバランスは、単純な国力だけでは決まらない。何人の闘千を抱えているのか、またはそれに匹敵する英雄をどれだけ従えているのか。それこそが兵の数よりも、富の数よりも重要視されるのだ。


 その称号を持つグレイシスは、人の身で魔族に対抗できるほどの力を間違いなく備えている。


 グレイシスは更に一歩前へと歩を進め、片膝を立てたままの魔族に向かって声を上げた。


「久し振りだな。もう一度出会えて嬉しいぞ」


 魔族は金色の瞳をチラリと向けて、つまらなそうに首を回して立ち上がった。


「……誰だ? 貴様など知らん」


 その言葉に、グレイシスは眉間に皺を寄せて苛立ちの表情を浮かべる。


「二年前にお前を追い込んだのが俺だ」


「……ああ。その醜い顔の傷は私がつけたのか。泣きベソをかいて逃げていった奴らのことなど、然程さほど覚えていないがな」


「貴様っ!」


 グレイシスの眉間に青筋が立った。


 ワナワナと腕を震わせ、背負った大剣を引き抜き構える。


「二年前と同じだと思ってもらっては困るぞ! 今回は取り逃がしたりはしない!」


「取り逃がす? いつ私が逃げた? 逃げ帰ったのは貴様らだろう?」


 そう言った魔族の体から、膨大な魔力が立ちのぼった。


「私も今回は見逃すつもりが無い。かかって来るのなら死ぬ気で来い」


 金色の瞳を見開き、コイコイと挑発する魔族にグレイシスは咆哮を上げて斬りかかった。

読んで頂きありがとう御座います。


ブクマ、評価、コメントまでくださって感謝感激であります。

お陰様でまだまだ頑張れそうです!というかまだまだ終われません!

引き続きマリアンたんと英雄譚をヨロシクお願い致します。

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