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急速なリスペクト

「くあっ」


 セレーノのルーキーFW澤下が放ったシュートに手を伸ばす友成。だが、ボールは無情にもゴールマウスに吸い込まれた。後半アディショナルタイム、その時間いっぱいに生まれたゴールに、友成は地面を叩いた。


 そして主審のホイッスルが響き、ホームのセレーノサポーターが歓喜にわく中、和歌山の選手たちの多くがうなだれていた。


 代表組が復帰し、天翔杯で好調を維持していた選手とどう化学反応を起こすのかが注目された一戦だが、結果は2-0の完封負け。セレーノの7本を上回る12本のシュートを放ちながら、枠にはわずか2本しか飛ばせず、そのいずれもがセレーノの守護神、韓国代表GKパク・ジョンホンの正面に飛んだ。立ち上がりからシュートチャンスを多く作りながらそれをフイにし続けているうちに、元日本代表の玉野にしたたかに決められ、後半は焦りを抱えたまま反撃するうちに、最後の最後でカウンターをくらって敗れたのであった。

 気を取り直して臨んだ一週間後のホームゲームでの京都戦も、エースの剣崎が二人がかりでつぶされ、竹内も激しく削られて精彩を欠き、セットプレーで奪われた虎の子の一点を守り切られた。ともに昇格争いのライバルであっただけに、そこへきての連敗は痛かった。京都戦後、松本監督は会見で敗因を語った。


「まあ、ある意味で代表効果と言いますか・・・この短期間であれだけ暴れれば相手のリスペクトも相当厳しくなってきますし、やはりリトリート(引き気味に守ること)で待ちかまえられると特にきつい。あとうちは若い選手が多い中でまだまだ勝負どころの駆け引きが、自分の感性頼みになっている部分があるので、この二試合はそこをうまくいなされたのかなと。そういう状況を僕が何とか打破できるように導かなきゃダメなんですよね」

 剣崎と竹内の活躍は、クラブに大きな恩恵をもたらしてはいるが、同時に対戦相手の対策もより綿密になり、特にこの二試合、二人は強引なプレーを選択せざるを得ない状況に追い込まれた。それを周りの選手がうまくフォローできればいいのだが、かえって気負いすぎて空回りすることが多く、攻撃陣はバラバラであった。

「まあ、変な言い方ですけど、6位にまで入ればJ1に行けますし、こういうリスペクトがあっても打破できる選手たちであることは確かなので、なんとか選手たちをまとめて、残り試合に臨ませたいと思っています」



「さてと。次は水戸に乗り込むわけだが、ここで星を落としたらまずいことぐらいは、理解できるよな」

 ミーティングでの冒頭、松本監督は強烈な一言を投げかける。頭で理解していることをあえて言われると、いら立ちはするものの改めて理解が深まるというものだ。

「俺は京都戦の後の会見で『相手はリスペクトしてリトリートしてくる』と言った。次の金沢はその傾向を前面に出してくる。何せ、今最下位の崖っぷち。J2残留のためにも、勝ち点どころか本気で金星を狙ってくる。お前たちはそれに勝たなければならん。考えようによっては、今シーズン一番の強敵だろう」

 昨シーズンは昇格組ながら一時期の快進撃でJリーグを盛り上げた金沢だが、主力を多く引き抜かれた今シーズンは開幕から下位に低迷し、J3へのUターン危機にある。目下の目標は最下位の脱出であり、いかなる相手からも勝ち点をもぎ取るために、死に物狂いで守る。代表でプレーしようが海外から凱旋復帰しようが、スタメン全員が自陣に引きこもるように守られては崩すのは容易ではない。

「だが、負けられないのは俺たちも同じ。それに、いかに守られていても、必ずスキが生まれるのがサッカーだ。そして、うちはそのスキを確実にものにできる面々がそろっていると俺は信じている。この試合がホームでの連戦であることも好都合だ。もう一度自分たちの得点の形を洗い直すぞ。相手の対策を真っ向から打ち破るためにもな」


「くれ!」

「おしっ」


 剣崎の呼び込みに応じるソン。鋭いクロスがゴール前に入れられるが、仁科がこれを跳ね返す。


「セカンド!!」

「もらいっ」

「うあ」


 友成が叫ぶと同時に、クリアボールを拾った須藤がシュート。古木は一歩及ばない。

「バーロー、フル!ニシさんクリアした瞬間に足止まめな!いつでもセカンド拾う心づもりでいろや!」


 友成がルーキーを叱る傍らで、須藤も竹内に指摘された。

「いまのはもっと周りを見ろ。村田がフリーだったぞ。シュートは悪くないけど、クリアボールを取り合いはもっと冷静に行け」

「ぅ、うす!」


 金沢戦に備えて汗を流す選手たち。守備はセットプレーとオフサイドトラップの練習。攻撃では数的不利を想定したミニゲームに取り組んでいた。

「攻撃側5人に対して、守備側が7人。常に二人多い状況で攻撃することに対して、どういった印象を持ってますか?」

 練習後、Jリーグ専門新聞「Jペーパー」の和歌山番である浜田記者が、竹内を捕まえて練習の意図を取材した。

「まあ、これは僕の印象なんですけど、ウチは今シーズン引いて守る相手に対して弱いというか、攻撃が滞りがちなんで、それを打破するイメージを全員で共有することなんだと思います。セレーノ戦も京都戦も僕とか剣崎とかのマークが異常に厳しかったんで、そうなったときにどうしていくかということをマツさんはやってるんだと思います」

「オリンピックに続いてA代表。竹内くんにとって今年はすごい一年になってるんじゃないかなって思うんだけど・・・実際どう?」

「そうですね・・・まあ、戸惑ってるわけじゃないんですけど、それ以上に周りからの反応がすごいですよね。自分でいうのもおこがましいですけど、そういう選手がJ2でありながら何人も抱えているので、こういうマークの厳しさは仕方ないかなと。そしてその中で、僕らが止められたときにほかの選手がどうするかっていうのをマツさんは見出したいと思うんですよ。残り試合は少ないですけど、こういう練習を重ねて、マツさんは『ウチは剣崎と竹内におんぶでだっこじゃない』というのを発信したいんだと思います」

「なるほど。じゃ、最後に。金沢戦はどんな試合になりますか?」

 浜田記者の質問に、竹内は自信ありげに笑った。


「すごい試合を見せられると思います」

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