帰ってきた「ナンバーエイト」
J2のリーグ戦も、今日から折り返しとなる第23節。ホームの紀三井寺陸上競技場に迎え撃つのは、和歌山と共にJ1復帰を目論む清水エスポワルスである。
J1復帰を目指すライバル同士の一戦。加えて両者は勝ち点2差と差がつまっており、現在4位の和歌山は清水に勝てば順位を入れ替えられる。単に剣崎たちが出場できるオリンピック前最後の試合という以上に勝ちたいところであった。
そしてそれ以上に和歌山サポーターたちがこのスタジアムに足を運んだのは、この試合で待ちに待った選手が復帰するからだ。
「『正確無比のレフティースナイパー』背番号8、ミッドフィールダー。栗栖っ将人っ!」
スタメン発表時、スタジアムDJのアナウンスと共に、オーロラビジョンに栗栖の写真が映し出されると、ホームのゴール裏は沸きに沸いた。
およそ一年前、ACLの舞台で相手のラフプレーで負傷。手術とリハビリを経て、栗栖将人がピッチに帰ってきたのだ。しかもスタメンで、である。
GK20友成哲也
DF15ソン・テジョン
DF4江口大吾
DF34米良琢磨
DF14関原慶治
MF2猪口太一
MF8栗栖将人
MF16竹内俊也
MF5緒方達也
FW10小松原真理
FW9剣崎龍一
「クリ~てめえほんと役者気取りだよな~。なんでこんな都合のいいタイミングで帰ってきてんだよ~!」
入場前、剣崎がそう茶化しながら栗栖と肩を組む。
「偶然だバカ。それにこれはマツさんの方針でもあったんだ。『お前の復帰戦はスタメンで行く。だからスタメンで使えるぐらいに戻れ』ってな」
「結構厳しいハードルだよな、それ。よく考えると。でも、剣崎の言う通り、オリンピックに行く前に一緒にサッカーできるって、ゲンのいい話だよな」
「クリが戻ってきたなら大丈夫だ。俺らがいない間、チームのこと頼むぜ」
猪口と竹内が栗栖に対して頼もしく話す一方、友成は相変わらず容赦ない。
「頼れるかどうかはこの試合で判断しようぜ。治りかけでまだガタがあるなら不安でしょうがねえよ」
「そうか?じゃ、結果で示すしよっか。自分の復帰戦は自分で飾らせてもらうぜ」
一方で清水の小森監督は、栗栖の復帰に舌を巻くとともに、松本監督の采配をいぶかしんでいた。
「復帰のうわさは聞いていたが、まさかスタメンで使うとは・・・。ずいぶん大胆なものだ。しかし、我々を侮っての判断なら、それが致命傷であることを教えてやらないとな」
「しかしマツよ。ほんとに大丈夫かクリの奴。練習試合にゃ出てたがよ、スタメン連中とはほとんどいっそにやらずに復帰だろ。ぶっつけ本番でイケるのか?」
宮脇ヘッドコーチの心配事を、松本監督は鼻で笑った。
「な~に大丈夫だろ。もともと剣崎も竹内も、栗栖がどんな選手かはよくわかっている。もっと言えばあの三人がユースで暴れまわり、そのままプロでもウチをJ1に連れて行ったんだ。ましてや剣崎と栗栖は生まれながらのホットラインだ。こっちがあーだこーだやらなくても、本能的にできるもんだ」
松本監督の判断は、吉と出る。
キックオフと同時にボールが回ってきた栗栖。左足でボールを踏みしめながら周りを見やる。
(練習とか練習試合じゃまずまずの感覚で蹴れていた・・・。本番でどうか、だな。とりあえず・・・)
栗栖はちらりと右サイドの竹内を見る。
「トシ、走れ」
竹内の前方めがけて、栗栖がロングパスを蹴り上げる。竹内は相手DFに並走されながら落下点に走る。だが、思った以上にボールが大きくそれる。
(なんだ。こりゃ外に出るな・・・)
竹内のマーク役はそう判断して足を止めたが、ボールは思わぬ変化をする。タッチライン際に着弾したボールは、バックスピンがかかってピッチに跳ね返ってきた。それを竹内がフリーで拾った。
「はは。さすがの芸当だね」
トラップした竹内は、そのままゴール前にクロスを放つ。さすがにこれは相手に跳ね返されゴールとはならなかったが、栗栖の左足が脅威を秘めていることを、清水の選手たちは一瞬にして痛感した。
「8番マーク!ボールを持たせるな!」
中盤での攻防で、清水のMF今村が味方にそう叫ぶ。相手の激しいスライディングやタックルを、栗栖は冷静に受け流す。
「ボールだけは常に触ってきたからな。そう簡単には取られないよ。それに・・・」
いなしながら、栗栖は左サイドへ、ノールックのバックパス。それを緒方が拾った。
「今のうちには、あんな活きのいい若手だっているしな」
ボールを受けた緒方はそのまま中央にドリブルで切れ込む。清水の選手たちはバイタルエリアを固め始めるが、その間際に緒方は小松原にボールを託す。
「剣崎!」
「任せろぃ!」
小松原の折り返しのパスを受けた剣崎は豪快に右足を振りぬく。強烈なシュートは、相手DFの体にあたってコーナーキックとなった。
「さてと・・・久々にやるとすかね。わかってんだろうな、クリ」
ボールをセットする栗栖に対して、剣崎はそうつぶやく。中学時代からの付き合いである二人の阿吽の呼吸。栗栖もまた、それをわかっていた。
「成長したらしいが、ボールをくれっていうあからさまなオーラは変わらねえな。まあ、そっちの方がいいけどな」
栗栖の動きに合わせて、ゴール前の敵味方が動く。そして、剣崎は一呼吸遅れて、逆方向に動き出す。おかしな動きであったが、和歌山の選手たち、そして尾道時代に何度も対戦してきた今村には見慣れた光景であった。
「んな?今日はマーカー付きかよ」
「一人変な動きをして、フリーでオーバーヘッド。そんなオチはバレバレなんだよ」
今村に対して驚いた剣崎だったが、何ら問題はなかった。
「見破ったのはいいが、アンタじゃ俺はつぶせねえよ!!」
剣崎は跳躍し、体を縦に回転させて右足でボールをとらえる。
久方ぶりのオーバーヘッドシュートが、豪快にゴールネットを揺らした。




