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自力があるからこその皮算用

 主力不在で勝ち点を一気に10積み上げた和歌山。しかし、格言にもあるように、好調な時に限ってひどい目に遭うものだ。


 まず最初の悲劇は、17節のアウェーでの京都戦。


「ぎゃっ!!」


 京都のコーナーキックの場面。相手のクロスを跳び上がってキャッチした舳だったが、ほぼ同じタイミングで相手FWの有野と交錯。有野のヘディングが顎へモロに叩き込まれた格好になり、すぐさま病院へ搬送。骨折が発覚し、全治二ヶ月の戦線離脱となった。チームに与えた衝撃は小さくなく、平塚も好守を見せたものの立て直しきれないままに2失点で完封敗けを喫した。

 さらに和歌山に戻ると、ここまで左サイドハーフのレギュラーとして活躍していた緒方が疲労の蓄積でコンディションを崩し、数試合の欠場が確定した。

 ただ、幸いにしてトゥーロン国際大会に出場していた剣崎たちが帰国、合流した。若手二人の欠場は軽い傷口ですむかと思われたが、松本監督はあえてきびしいチョイスをした。


GK27平塚将司

DF15ソン・テジョン

DF4江口大吾

DF34米良琢磨

DF19寺橋和樹

MF17チョン・スンファン

MF24根島雄介

MF25野添有紀彦

MF32三上宗一

FW11櫻井竜斗

FW10小松原真理


 18節、ホームでの2位セレーノ大阪戦。離脱していた4人をスタメンで起用せず、友成がベンチ入りしたのみ。あえて温存して上位との直接対決に臨んだ。

 しかし結果は苦しいものだった。

 櫻井のトリッキーな個人技で先制点を奪ったものの、百戦錬磨の猛者が揃うセレーノに経験の差を見せつけられ1−4の完敗を喫した。




「山口、奈良、そして熊本。前半の残り3試合のカードだ。とりあえず、この熊本とやる前にこれ以上勝ち点は落としてはならないと俺は見ている」

 翌日、松本監督は練習場で青空ミーティングを行い、開口一番にそう言った。それに、剣崎が首を傾げる。

「そうか~?だって俺たち今3位だぜ。まだそこまでクッパ詰まってねえだろ監督」

「剣崎、『クッパ』じゃなくて『せっぱ』な。これは、J2優勝を狙うとしたらの話だ。プレーオフを狙うんならこの3試合は全敗してもまだ問題ない。数字上はな」

 最後に付けた一言で全員の表情が引き締まる。

「だが、自動昇格は狙うものだが、プレーオフは狙ったら絶対にしくじる。あくまで狙うのは自動昇格。プレーオフは『終わった時に出れればいい』ぐらいにな。このチームはオリンピックどころか現役のA代表選手も抱えているから、選手の質は自動昇格以上じゃなければ納得してもらえないレベルだ。まだ自動昇格を狙いたいなら、この3連戦は全勝する腹積もりで行く。それでいいな」

「当たり前だ。J1を経験している以上、プレーオフで復帰なんてかっこ悪くてできねえよ」

 友成が全員の思いを総括するように、自信満々の笑みを浮かべた。


 そしてまず、アウェーでの山口戦。


GK20友成哲也

DF15ソン・テジョン

DF23沼井琢磨

DF34米良琢磨

DF14関原慶治

MF2猪口太一

MF17チョン・スンファン

MF16竹内俊也

MF32三上宗一

FW9剣崎龍一

FW11櫻井竜斗


「トモさん!お久しぶりっす!」

「・・・誰だおめえ」

「い〜っ?長年守護神の座を争った良き後輩じゃないっすか〜」

「あ〜、いたようないなかったような・・・」

「ちょ、聞いたかミカ!この人ひどくね?」

「ハハハ。相変わらず騒がしいな、シンゴ」


 試合前、和歌山の面々に山口のキーパー、本田真吾か声をかけていた。昨年まで和歌山に在籍していた彼は、出場機会を求めて山口へ移籍。開幕当初は第2GKの位置付けだったが、ここ4試合はレギュラーだったキーパーの不振によりスタメンを勝ち取り、前節では強豪清水を完封していた。


「とにかく、今日は連続完封狙ってるっすからね!覚悟してくださいよ、ザキさん!」

「おめえ・・・誰だっけ?」

「ザキさんまで?この先輩たち人でなし!!」

 剣崎のボケに本田はそう叫んだが、竹内が三上にささやいた。

「でもさ、剣崎とか友成って『怪物』ってよく言われるから、ある意味『人』じゃないかもな」

「プッ!トシさん座布団ものですよそれ」


 試合は、友成と本田の守護神対決がクローズアップされていたが、忙しかったのは無論本田の方だった。


「うりゃあ!!」

 剣崎の強烈なシュートが右脚から放たれる。

「ぬぐうっ!」

 それを本田が長い腕を伸ばして防ぐ。しかし、すぐに弾いたボールに飛びつきにかかる。

「でぃっ!!」

「あ~残念~」

 そこにすぐに詰め寄っていた櫻井は、おどけた表情を見せる。

(くっそこの人マジで油断ならねえ。こぼれ球の反応良すぎだろ・・・)



「ぬぅりゃっ!!」

 あるいは竹内がクロスに見せかけてふらりと狙ってきたループシュートを、本田はバク転をするかのように身体を反り上げ、手でボールをかきだす。もともとシュートに対する反応はピカイチだった本田。特に、シュートコースに対する勘は友成をもってして「俺より感度はいいかもな」と言わしめていた。

 だが、そんな本田をもってして、この男までは止められなかった。

「そうなったらこぼれ球には対処できないよね~」

 人を食ったような表情で、櫻井がボールを押し込んだ。


 この日は「櫻井デー」と言ってもよかった。シュートに対して抜群の反応を見せた本田だったが、弾くのが精いっぱいという難しいものが多く、それをことごとく櫻井が拾い、前半だけでハットトリックを達成。一方で友成はPKを止めるなど、本田に負けじと5本のシュートを完璧に防いで格の違いを見せつけた。試合終了間際には、剣崎が面目躍如のヘディングシュートでとどめを刺し、4-0で快勝した。


 続く20節。奈良とのダービーマッチ。リオオリンピック本大会に出場するメンバー発表前、最後のリーグ戦である。

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