最強とされた世代の次世代
13節からの数試合。アガーラ和歌山からは、エースの剣崎、守護神の友成、潰し屋の猪口、ドリブラー竹内と主力4人が、トゥーロン国際大会出場のためにチームから離脱した。今やオリンピック代表の主軸を担っている彼らは、アガーラ和歌山のユース史上では「最強世代」「黄金世代」とたたえられ、日本のユース界隈でもユースカップ優勝、ユースリーグ西地区(近畿・四国)優勝と戦績として残っている。
だが、実のところ、矢神らその下の世代も決して侮れるレベルではない。
「あの人らのせいで俺ら影薄いけど、ガミと三上って結構すぐにレギュラー獲ったよな~」
「おいおいタク。お前だってエガさん押しのけて猪口さんとコンビ組んだじゃん。そっちだって大したもんじゃん」
金沢へのバス移動の車中、ふとつぶやいた米良に対して三上がツッコむ。
「あの人らばっか目立ってるけど、ユースで残した結果自体は俺らのほうがいいんだよな~。リーグ戦はあの人らがやってない8連勝とかしてるし、失点も俺らのほうが少ないんだよな~」
三上に愚痴を突き放したのは、寝たふりを続けていた矢神だった。
「だが、プロになってからじゃ実際あの人らのほうが結果残してる。ユースの実績なんざ、プロになりゃただの紙切れだよ」
「紙切れって・・・。自分の結果をそうバッサリと行くなよ」
「事実だからしょうがない。あと22にもなって学生のノリではしゃぐなバカ」
「ちぇ、相変わらずつれない奴~」
第13節。アウェーでの金沢戦は次のようなスタメンとなった。
GK1秋川豊生
DF15ソン・テジョン
DF34米良琢磨
DF4江口大吾
DF19寺橋和樹
MF24根島雄介
MF17チョン・スンファン
MF32三上宗一
MF5緒方達也
FW36矢神真也
FW10小松原真理
選手の質の差で上回っていた和歌山は、序盤からボールを持てば積極的に前に運び、推進力で相手を押し込む。ゴールを割るにはいささか時間がかかったが、前半終了間際、三上のクロスを小松原が折り返して、こぼれ球を矢神が叩き込み先制。一度は追いつかれるものの、矢神に代わって途中出場した櫻井がPKを獲得。自ら沈めて勝利を収めた。
続く14節はホームで愛媛との「みかんダービー」。スタメンはこうなった。
GK1秋川豊生
DF32三上宗一
DF34米良琢磨
DF4江口大吾
DF14関原慶治
MF17チョン・スンファン
MF24根島雄介
MF25野添有紀彦
MF13須藤京一
FW36矢神真也
FW10小松原真理
この日、先発を任された秋川が緊張からミスを連発。アピールしようという気概が強すぎて、キャッチできボールをファンブルして先制点を献上してしまう。さらに、駆けつけた愛媛サポーターのブーイングを背に受けてペースを乱して、一対一の場面でトンネルの大失態を犯す。
だが、松本監督は「ミスは論外だが、そのミスが簡単に伝染している。もっと集中しろ!」とフィールドプレイヤー10人を一喝。これで気合を入れ直した後半は持ち直し、矢神の2得点で引き分けに持ち込んだ。
そして第15節、アウェーでの群馬戦。松本監督はここで大胆な一手を打った。
GK29舳巧
DF15ソン・テジョン
DF4江口大吾
DF34米良琢磨
DF14関原慶治
MF24根島雄介
MF32三上宗一
MF13須藤京一
MF31前田祐樹
FW36矢神真也
FW33村田一志
ここまでベンチ入りすらなかった2年目の舳をはじめ、前線にルーキーを抜擢。主力をベンチに温存してフレッシュなメンバーで挑んだ。ここで光ったのは矢神だった。
「前田!左に出せ!!」
前半の半ば、矢神は一度周囲を見渡し、米良からのパスを受けた前田に指示を出す。前田のパスは、須藤に通った。すぐさま矢神は須藤にアイコンタクトを送りながら、一度村田と同じように須藤のほうにステップを切る。そして、キーパーをはじめ群馬の守備陣の視線が左サイドを向いていると感じるや、すぐさま方向転換。ファーサイドのスペースに走った。そこにタイミングよく須藤のクロスが上がる。矢神はそれを、ゴールに向かって・・・ではなく、走りこんできた味方に折り返す。そのボールを完全に死角になっていた右サイドから快速を飛ばしたソンが蹴り込んだ。
「さすがっすねソンさん。よく間に合いましたね」
「よく言う。最初、お前、俺を見た。当てにしてたくせに」
さらに、この試合で堂々たるプレーを見せたのは舳だった。
「ぬうああああ!!」
この試合、群馬は6本のコーナーキックと5本のフリーキックを得るが、舳はその全てのボールをキャッチ。グローブに接着剤がしみ込んでいるかのような、キャッチの安定感で群馬の攻撃をことごとく寸断。最後は矢神が自ら得たPKを決めて2-0と快勝した。
この勢いで16節、ホームで徳島を迎え撃った「紀伊水道ダービー」のスタメンは次の通り。
GK29舳巧
DF15ソン・テジョン
DF22仁科勝幸
DF21長塚康弘
DF14関原慶治
MF17チョン・スンファン
MF32三上宗一
MF5緒方達也
MF31前田祐樹
FW36矢神真也
FW10小松原真理
連続でスタメンとなった舳は、この試合でも躍動。ベテランで揃えられた守備陣の安定感も、思いきりのよいプレーに繋がった。
当然この流れは攻撃陣にも波及。絶好調の矢神が先制点を決めると、三上もセットプレーの混戦からのこぼれ球を叩き込んだ。
後半に1点を返され、以後は押さえ込まれたものの、試合はそのまま2−1で勝利。代表組不在のなかで3勝1分けで順位を一気に3位まで上げ、自動昇格の2位との勝ち点差を2としたのである。




