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第1話~記憶喪失と魔法の世界~

初めに光があった。

光は人と共にあった。

光は人と交わした絆を尊んだ。

しかし人はそれを拒んだ。

一部の光の使者は光の上に立とうとし、

後に影となったが、

それは光に打ち勝てなかった。

そこで影は別のものに目を向けた。

それは光がもっとも尊ぶものであった。


光の使者と影は「アウター」と呼ばれ、彼らは自らの力を地に宿した。

光の力は「ヒカ」、影の力は「ゲカ」と呼ばれ、アウターに遠く及ばないものの、

人にとっては驚異的な力だった。

この二つのアウターの力はあらゆるものを侵し、憑かれたものを、「アウタレス」と呼んだ。

ヒカは人の心の中にある聖を照らし、ゲカは闇を照らす。


アウターは殆ど干渉する事なく、ただ人の経緯を見てきた。

そして人はアウターの力を利用し、翻弄され、各々の生を歩んでいた。


挿絵(By みてみん)


-第1話-


   少年は夢を見ていた。夢の中で、少年は乗っていた荷車から放り出され、崖を落ちていく。荷車には他に誰かが乗っていた。しかし誰かは分からない。崖を落ちる少年の視界は次第にぼやけ、彼は目を覚ました。彼は周りを見渡すと、自身が丘にいる事を知った。緑が覆うこの丘には霧が掛かっていて、空は曇っていた。丘の上方はやや明るく、下方は闇が広がっていた。少年は寒さを感じ、自身が裸である事に気付く。


「なんで裸なんだ?ここは・・・そもそも俺は一体・・・」


-第1話~記憶喪失と魔法の世界~


   少年は過去を思い出そうとするが、何も思い出せなかった。少年は記憶を失っていた。


少年は近くの水溜りに写る自身の顔を覗いた。年は10代半ばだろうか、見ていても違和感だけが残った。何も分からないので、少年は移動する事にした。しかし、どこにいけばいいのか分からなかった。


「確か山で遭難した時は、下に進むか水の流れを下っていけばいいんだよな?」


誰も答えてはくれない。少年は丘の下方を見つめた。闇が広がっていて、そこへ向かう気にはなれなかった。丘を上る気にもなれず、仕方なく少年は丘の横を歩き始めた。


すると少年は小屋を見つけ、その小屋の中に入っていった。小屋は無人で古びた雑貨が置いてあった。少年は小屋の中を物色し、服や小道具を見つけ、身に着けた。


挿絵(By みてみん)


続いて暖炉を見つけ、少年は使ってみようと考えた。彼は火種になりそうな物を探したが、面倒臭くなって暖炉の前に座り込んだ。少年はふと掌を見つめ、呟く。


「火が欲しいなぁ・・・」


すると突然、掌に小さな火が付いた。


「う?・・・お、おぉおおお!!」


少年は驚き、慌てて火を消そうと地面を転がった。火は直ぐに消え、少年は落ち着きを取り戻した。少年は恐る恐る掌を前に差し出し、火をイメージする。


しかし、何も起こらない。集中力が足りないのか、少年は叫ぶ。


「火よっ!」


火が勢いよく噴いた。火は近くの家具に燃え移り、少年は慌てて叫ぶ。


「み、水ぅーーー!!」


今度は少年の頭上から水が勢い良く落ち、火は消えたが、少年はずぶ濡れになった。


「何故に・・・」


その後少年は実験し、風や電気、土等を放つ事に成功した。どうやらここは、魔法が使える世界らしい。少年は小屋を出る事にした。


少年が歩いていると、大きな鼠の様な生き物に遭遇した。その生き物の体には刃が付いており、刃鼠という感じだ。


挿絵(By みてみん)


刃鼠は少年を睨み、威嚇してきた。


「猛獣に会っても走って逃げちゃ駄目なんだっけ?自分を大きく、強くみせてゆっくり後ずさり・・・」


少年はなるべく冷静さを失わないよう努力し、懐から鉈を取り出した。刃鼠を威嚇しながら、少年はゆっくりと後退する。刃鼠は少年に近付いていき、彼に襲い掛かった。


「やっぱ駄目かぁあああ!」


少年は逃げるが、刃鼠は直ぐに追いつき、少年は地面に倒された。少年は倒れながらも刃鼠と格闘し、刃鼠を振り払おうとした。すると刃鼠は空中に黒い穴を放った。その黒い穴はどこか、丘の下方にある闇によく似ていた。刃鼠は少年の足を捕らえ、少年を黒い穴に引きずり込もうとした。


「フレイム!」


少年が手を突き出しそう叫ぶと火が放たれ、刃鼠は火だるまになった。それでも尚刃鼠は少年を引きずり、少年は刃鼠の首をめった刺しにした。やがて刃鼠は死に、黒い穴も消えた。少年は一息つき、再び歩きだした。


   道中、少年は丘の上を目指す人達に出会った。話を聞くと、彼等もまた少年と同じ様に記憶がなく、丘の上の明かりを目指して歩いていた。少年も一行に加わり、丘の上を目指した。しかし行く手を阻む様に、次々と刃鼠が彼らを襲う。刃鼠の放つ黒い穴に引きずり込まれた者は、二度と目にする事はなかった。一行は戦っては進み、ボロボロになりながらも、傷付いた体を起こしてはまた歩き続けた。人は減り、気が付けば少年は一人になっていた。


   ある日、座り込み辺りをキョロキョロする少女に、少年は出会った。

その少女は、裸だった。


(フレイム・インフェルノ・ファイヤー・コンバッション・ブラスト・バーニング・ボンバー・フレイムっ!!!)


と、少年のハートが叫んだ。何故かフレイムを二回叫んでいた。気に入っているのだろう。それはそうと、少年は突然の光景に動揺していた。震える口を抑えながら、彼が少女に話し掛けようとした時、少年は少女が震えている事に気が付いた。少年は自身が初めてこの丘で目覚めた日の事を思い出した。彼は冷静になり、少女の前に膝を付いて彼女に上着を差し出す。


「宜しければ使って下さい。」


「・・・ありがとうございます・・・ここはどこですか?」


少女は小声で答えた。少年と同い年くらいだろうか、話を聞いてみると、彼女もまた少年と同様、記憶がなかった。彼女の右腕は何故か、微かに白く発光している。


「目が覚めた時からこうなんです。変な感覚だし・・・」


「綺麗だと思うよ。そこまで悪くないんじゃないかな。」


「・・・そ、そうかなぁ・・・」


不安げな少女を少年は気遣い、彼女は少しずつ落ち着きを取り戻していった。

少年は自身が知っているいくつかの家屋の内、一番近い方へと少女を案内した。とりあえず彼女に服を着せ、少年はここまでの成り行きを全て話した。少女は魔法について疑ったため、自身で魔法を試してみる事にした。


「フレイム!」


少女が発光する右腕を突き出しそう叫ぶと、彼女の右腕が火に包まれた。二人は慌てふためいた。


「い、今消すから!」


「待って!」


魔法で火を消そうとした少年を、少女が止めた。彼女の右腕は燃え続けたが、右腕に痛みはなかった。少女はそのまま遠くにあるバケツに右手を伸ばすと、彼女の右腕が巨大化した。質量はどうなっているのかは分からないが、少女は魔法で右腕を自在に操る事ができた。


挿絵(By みてみん)


やがて少女は少年に心開いていき、彼と行動を共にした。二人は丘の上にある微かな明かりを目指して歩き出した。


   少年と丘を歩いていると、少女はずっと抱いていた不満を口にする。


「ねぇ君、二人共名前があった方がいいんじゃないかな?」


「そうだなぁ~。気にしなくなっていたもんなぁ~。」


「じゃあさ、私が付けてあげよっか?」


話し合った結果、少年と少女は互いに名前を付け合う事にした。少年の名はタスク、少女の名はヒカリとなった。ヒカリは自分の名をえらく気に入った。タスクも、満更でもない様子だった。


   タスクとヒカリは仲を深め、度々行く手を塞ぐ刃鼠を倒しながら丘を上った。そんなある日、二人は新種の刃鼠に囲まれてしまった。戦闘に入り、タスクとヒカリのコンビネーションは強かったが、敵の数が多すぎた。二人は苦戦を強いられ、ヒカリは刃鼠が放った黒い穴に引きずり込まれてしまう。タスクは怒りで我を忘れ、残りの刃鼠を倒した。


終わりの見えない歩みと戦いに疲れ果て、タスクは地に倒れた。彼は初めに見た悪夢を再び見た。目を開けると、側に少女が立っていた。意識がぼんやりしていたが、タスクは確かに少女を見た。10代前半に見えるその少女は、身なりが整っていて、綺麗だった。完全に場違いな彼女は、タスクにそっと微笑んだ。やがてタスクの瞼はゆっくりと閉じ、彼が目覚めた頃にはその少女はどこにもいなかった。


「さっきのは一体・・・」


そう呟きながらも、タスクは自分の体が軽くなった様に感じた。彼はその後も歩き続け、地に倒れて意識が薄れる度、微笑む少女を見た。


「あれが死神とかいう奴か?・・・やけに可愛い死神だな・・・」


しかしタスクはまだ生きている。そして彼はある事に気付いた。タスクが意識を失っている間、刃鼠に襲われなかった。


「あの子が守ってくれていたのか?」


答えが見出せないまま、タスクは再び歩き出した。彼は刃鼠の体に付いている刃は武器になると考え、刃鼠の死体から刃を剥ぎ取って加工し、武器にした。


刃鼠との戦いで何度も何度も傷付いたタスクは地に倒れ、再びあの悪夢を見た。彼が目を覚ますと、タスクはあの微笑みかける少女の膝の上で横になっていた。タスクの目覚めに気付くと、少女が話しかけてくる。


「おはようございます。魔法村へようこそ。」


「ここは?」


ぐっすり寝ていたタスクは目を擦りながら問うと、少女はクスッと笑う。


「ここは魔法村といいます。曇りの丘の頂上にある、恵み溢れる村です。」


「頂上に着いたのか・・・君が俺を守っていてくれたのか?」


「はい、少しだけ。あなたが私の魔法が届く範囲に入ってきてくれたおかげです。直ぐにでも迎えに行ってあげたかったのですが、他にも助けを必要としていた人達がいたので・・・ごめんなさい。」


タスクは少女の膝から体を起こす。


「いや、助かった。ありがとう。俺の名はタスク、君は?」


「私はマホ。この村で魔法使いをしています。」


挿絵(By みてみん)


タスクが魔法村を見渡すと、そこにはまるで絵本の中の様な、幻想的な光景が広がっていた。


-第1話~記憶喪失と魔法の世界~ ~完~


魔法村の生活

予期せぬ再会

新たな目覚め


次回-第2話~タスクの悪夢の果て~

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