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第2話~タスクの悪夢の果て~

-第2話-


   タスクは再びあの夢を見た。荷車から放り出され、崖を落ちていく夢を。彼が目を覚ますと、目の前には、魔法使いマホの笑顔があった。


「おはようございます。タスクさん。」


「おはよう、マホ。」


-第2話~タスクの悪夢の果て~


タスクはまたマホの膝に横になっていた。これは彼の意思ではない。タスクは自身が気に入っている場所でよく昼寝をしていた。そんな彼を見つけては、マホはこっそり彼の頭を自身の膝に乗せていた。タスクへの彼女の悪戯だ。


   マホはこの魔法村が誕生した頃から村を見守っている最強の魔法使い。彼女は困っている村人を助け、村を支えている功労者だ。村の住人は皆彼女を慕い、マホの優しい笑顔は村の平和を象徴している。マホはタスクと親しくしていたが、誰もそれに不満を持つ者はいなかった。タスクも村の住人に慕われていたからだ。彼は村を守る戦士として勤め、手が開いた時は村の仕事を手伝っていた。


   タスクが魔法村に住み始めてしばらく経ち、彼は楽しい毎日を過ごしていた。透き通った川が村中を流れ、見た事がない花や果実も多く、村は自然の恵みに溢れていた。石畳の道にレンガの家屋、絵本の中の様な風景に、タスクは感動を覚えた。住民も自身の仕事に励み、村での生活を満喫していた。彼等もタスクと同様、皆過去の記憶が喪失しており、村に着くまで彷徨っていた。以前住民がいきなり消えていきなり戻ってくる妙な現象が起こっていたが、やがてそういった事は見られなくなった。村は再び平和になったが近頃、村の外で刃鼠の出現、刃鼠に襲われて行方不明になる者が複数確認された。住民は気に掛かったが、村の中は安全なので怯える事はなかった。


   いつも通りタスクが草の上で昼寝をしていると、マホに起こされた。いつもと様子が違う彼女にタスクがどうしたのか問い掛けると、マホは言う。


「何か来ます!」


マホが示す場所にタスクが向かうと、見覚えのある人影があった。タスクは自分の目を疑った。


そこにいたのは、ヒカリだった。


黒い穴に引きずり込まれたはずの彼女が、タスクの目の前にいる。しかし彼女は以前とは違っていた。服は暗めで、白く発光していた右腕は、黒く発光していた。ヒカリは険しい顔をしていたが、タスクを見つけるや否や、顔が一瞬和らいだ。


挿絵(By みてみん)


ヒカリにまた会えた。


再会を喜ぶタスクはヒカリに駆け寄る。


「ヒカリ!無事だったのか。今までどこにいたんだ?」


「その名前で呼ばないで。」


「え?・・・」


ヒカリの態度は冷たかった。彼女の反応にタスクは動揺した。まるでヒカリが別人のようだった。


「ヒカリ、一体どうしたんだよ・・・」


「それは本当の名前じゃない・・・ヒカリだなんて・・・これを見てもそう言えるの・・・」


ヒカリは自身の黒い右腕を睨んでいた。


「もしかして、記憶が戻ったのか?それにその腕・・・一体何があったんだ?」


「この腕は偽物だよ・・・この世界も・・・」


「偽物?・・・一体どういう意味だ?」


「帰ってから説明する。お願い、私と元の世界に帰ろう?」


「帰る?元の世界?他の世界があるのか?」


タスクはヒカリの言葉を懸命に聞くが、話が理解できずにいた。ヒカリは手を向け念じると、そこにあの黒い穴が出現した。タスクは目の前の光景に驚きを隠せない。


「嘘だろ・・・」


「私と一緒に帰ろう?そうすれば全て分かるから・・・お願い。」


ヒカリは優しい顔でタスクに手を差し出すが、タスクはどうすればいいのか分からずにいた。二人に動きがないまま時が過ぎると、空からマホが飛び降りてくる。


「大丈夫ですか?タスクさん。」


タスクの側に降りてきたマホの顔を見ると、ヒカリの顔は怒りに満ちていく。


「ジノ!いや、タスク!そいつから離れろ!そいつが全ての元凶だ!」


マホとタスクが見つめ合い、困惑していると、ヒカリは話を続ける。


「そいつがこの世界を作った張本人だ!その女がみんなをここに閉じ込めているんだよ!」


「ち、違います!私そんな酷い事していません!」


マホはヒカリの言葉に反論するも、ヒカリは黒い右腕を巨大化させ、マホに向ける。


「この糞ガキ!タスクを返せぇ!!」


マホを狙うヒカリの黒い腕を、タスクが剣で弾く。


「ヒカリ!やめてくれっ!!」


タスクはヒカリに剣を構えた。それを見たヒカリはショックを受け、攻撃をやめる。


「タスク・・・ごめん・・・」


ヒカリは肩を落とし、静かに黒い穴に入って姿を消し、黒い穴も消え去った。


「待て!ヒカリぃーーー!!」


タスクが最後に見たのは、ヒカリの泣き顔だった。


   ヒカリが去った後も、タスクは彼女の言葉を理解できずにいた。以前ヒカリについて話を聞いていたマホは、落ち込むタスクを慰めた。一部始終を知った住民は不満を抱え、時が過ぎた。ある日、タスクとマホの前にヒカリが再び姿を現した。彼女の目は力で満ちていた。


「・・・もう一度聞くよ・・・タスクお願い、私と一緒に帰ろう?私みんなを助けたいの・・・」


「ならなぜマホを攻撃した?彼女が何をした?」


「・・・そう・・・彼女の肩を持つんだ・・・ふ~ん・・・あっそ・・・・・・・・・なら、力ずくでも!君を連れ帰ってみせるっ!!」


ヒカリの態度は急変し、彼女は前に飛び出した。タスクは剣を抜いたが、ヒカリはタスクを無視し、マホを狙う。タスクは咄嗟にヒカリに突撃し、彼女は吹き飛ばされた。ヒカリは飛ばされながらも右腕を巨大化させ、マホに向ける。


「・・・くっ、カースド・フィンガー!」


「アース・ウォール!」


そう叫ぶとマホは地面から複数の土柱を出し、ヒカリの攻撃を防いだ。激しい戦闘の中、タスクとヒカリは互いに急所を狙わなかった。2対1でヒカリは劣勢を強いられ、彼女に勝ち目はなかった。共闘するタスクとマホを見て、ヒカリが吐き出す怒りはいつしか悲しみに変わっていた。何もできないと自覚したヒカリは諦め、攻撃をやめた。涙を堪え、ヒカリは静かに黒い穴を発した。顔を上げタスクが目に入ると、耐え切れずヒカリは涙を流す。


「・・・ごめんね・・・君を助けられなかった・・・」


「ヒカリ・・・」


タスクは言葉を失った。ヒカリの泣き顔を見て、心が張り裂けそうになっていた。ヒカリは彼に背を向け、黒い穴に消えていった。


(またヒカリを助ける事ができなかったのか・・・)


タスクは初めてヒカリを失った日を思い出していた。ヒカリを助けられなかった怒りが次第に込み上げ、拳に力が入る。タスクは怒りに身を任せた。


「ヒカリぃーーー!!!」


「タスクさん!」


タスクは走り出し、マホの声は彼に届かなかった。怒りと悲しみで一杯のタスクは何も考えられず、黒い穴に突っ込んでいく。黒い穴が消える寸前、タスクの姿は穴に消えた。


   少年は夢を見ていた。彼がよく見ていた夢だが、今回は鮮明に見えた。


セダンの車が峠を走っていた。車の中には家族4人が乗っていた。それは少年とその父、母、姉だった。車がカーブに差し掛かった頃、速度を上げ車線を越えた対向車が現れた。互いの操作は間に合わず、2台は激突した。少年の乗る車は吹き飛び、ガードレールを破壊した。その衝撃で少年は宙に浮き、ドアのガラスを突き破った。少年は崖を落ちていき、下の木々に衝突した。


そこで、少年の夢は終わる。


   少年は目を覚ました。あまりの眩しさに、彼は目を開ける事ができなかった。目は次第に慣れ、視界が開いていく。少年は白い天井を見た。彼は部屋を見渡し、自身が病室にいる事を知る。体が重く、見ると少年の体には筋肉刺激用の器具等の医療器具が付けられていた。彼の医療ベッドの周りには、少年の目覚めを喜ぶ医療スタッフが集まっていた。ぼやける意識の中、少年が不意に横を向くと、彼の目が大きく開いた。


少年の隣の医療ベッドにいたのは、ヒカリだった。よく見ると、ヒカリの右腕は無くなっていた。


-第2話~タスクの悪夢の果て~ ~完~


事故と治療

二人の少女

新たな試練


次回-第3話~脳波安定化補助装置~

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