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人間失格~仁義なき復讐~  作者: 猫塚ルイ


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第58話

氷のような冷気が、肺の奥まで染み渡る。


荒れ狂う公海の波に揉まれ、視界は泡と闇に支配されていた。


リヴァイアサン号が深海へと引きずり込まれる際の巨大な水圧が、俺の体を海底へと引き込もうとする。


「……っ、がはっ!」


水面に顔を出した瞬間、激しい塩水が喉を焼いた。


周囲を見渡しても、豪華客船の残骸が炎を上げながら沈んでいく光景と、無情な波の音しかない。


神崎の姿も、山城の姿も、どこにも見当たらなかった。


「山城!松田!志摩ぁ!!」


叫び声は風にかき消される。


左肩の傷から流れる血が、海水に溶けて熱を失っていく。


意識が遠のき、指先の感覚が消えかけたその時、指に硬い感触が触れた。

 

――救命ボートのロープだ。


死に物狂いでしがみつき、這い上がる。


そこには、血塗れで意識を失った山城が横たわっていた。


「山城……おい、山城生きてるか!」


胸ぐらを掴んで揺さぶると、山城はゴボリと水を吐き出し、虚ろな目を開けた。


「……兄貴…神崎は……奴はどうなりました……」


「海に沈んだ。……もう二度と、この国の土は踏めねえだろうよ」


俺はボートの隅に転がっていた防水バッグの中から、志摩に渡された予備の通信機を取り出した。


波を被り、ノイズが酷いが、かすかに信号を拾っている。


『……黒嵜……応答しろ……聞こえるか……』


志摩の声だ。ボロボロだが、確かに奴は生きている。


「志摩か。…こっちは山城と合流した。横浜の状況はどうなってる」


『……最悪だ。神崎の別働隊は退けたが、松田が深手を負った』


『それに……神崎が船から発信した「亡国計画」の実行キーは、すでに海外のサーバーに転送されている。船を沈めても、システムは止まってねえんだ』


志摩の苦渋に満ちた声に、俺は奥歯を噛み締めた。


神崎という「個人」を殺しても、奴が組み上げた「金と数字の歯車」は、日本という国を食い荒らし続けている。


「……止め方はあるのか?」


『……一つだけある。神崎がバックアップとして残した、東京の「最深部」にあるメインサーバーを物理的に破壊するしかない。だがそこは……今、別の組織に占拠されている』


「別の組織、だと?」


『……「三和会」の過激派と、海外の傭兵集団だ。連中は神崎を裏切り、自分たちだけでこの国を食い潰そうとしている』


俺はボートの底に沈んでいた、親父のドスを拾い上げた。


潮水に濡れてもなお、その刃は鈍い光を放ち、俺に次の戦場を指し示しているようだった。


「……上等だ。横浜の海から東京まで、泳いででも行ってやるよ」


夜明けの水平線が、血のように赤い。


俺たちの戦いは、ついにこの国の「心臓部」へと突入した。


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