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人間失格~仁義なき復讐~  作者: 猫塚ルイ


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第20話

降りしきる雨が、アスファルトを激しく叩く音と乾いた銃声をかき消していく。


視界は白く煙り、世界が溶けていくような錯覚に陥る。


俺は駐車場のコンクリート柱から柱へ、死を運ぶ弾丸の軌道を縫うように疾走した。


背後では志摩が横転したセダンの影から応射し、敵の退路を断つ。


砕け散ったフロントガラスの破片が、雨を反射して冷たく光った。


「なんで、なんで黙って死んでくれないんですか!」


松田の叫びは、もはや怒声というよりは悲鳴に近かった。


かつて俺を慕い、後ろを歩いていたはずの弟分は、狂ったように引き金を絞り続ける。


だが、迷いと恐怖に支配されたその銃弾は、俺の残像すら捉えることはできない。


「松田、お前に足りないものを教えてやる。……『覚悟』だ」


俺は遮蔽物を捨て、あえてセダンの真正面へと躍り出た。


一瞬、松田の指が凍りついたように止まる。


かつての「家族」を射殺するという最後の一線。


その迷いの隙を、俺は逃さなかった。


手に持っていた重い暗視ゴーグルを、奴の顔面へ向けて力任せに投げつける。


不意を突かれ、反射的に顔を覆った松田の視界が塞がった瞬間、俺は雨の壁を切り裂いて奴の懐へと潜り込んだ。


「あ…が……っ!」


電光石火の早業で、俺の左手が松田の銃を掴み、その銃口を天へと向けさせる。


同時に、右手に隠し持っていたドスの「柄」を、奴の喉仏へと正確に叩き込んだ。


鋭い衝撃。松田は膝を突き、その手から黒い鉄塊が力なく滑り落ちた。


「……殺せよ。…どうせ俺は、あんたを裏切ったんだ」


雨に打たれながら、松田が力なく笑った。


「殺す価値もねえ。……んなことより親父の居場所を吐け。本部にいないのは分かってる」


松田は激しく咳き込みながら、震える指で北西の方角――


都心から離れた奥多摩の山中にある、榊原組の隠れ別荘を指した。


通称『鉄の檻』。


そこはかつて、組の裏切り者を拷問し


処刑するためだけに使われていた、血の匂いが染み付いた呪われた場所だ。


「……久保田も、そこに運ばれたはずだ。親父さんと中臣が、最後のお披露目会をやるって…」


その時


後続のセダンから新たな刺客たちが飛び出してきた。


自動小銃の掃射がアスファルトを跳ね、志摩の声が怒号となって響く。


「黒嵜、追っ手が来る、早く乗れ!」


俺は松田の胸元を掴み、冷たい雨と共に吐き捨てるように耳打ちした。


「松田。次に会うときは、三途の川かもしんねぇな」


俺たちは再び大型バイクに跨り、濡れたオフィス街を猛烈な加速で脱出した。


目指すは、霧に包まれた奥多摩の山。


そこには、天涯孤独だった俺を拾い、極道として育て


そして最後にはゴミのように捨てた、このすべての悲劇の元凶が待っている。


俺の全身を流れる返り血は、冷たい雨に流されることなどなかった。


それは皮膚の下で、消えることのない復讐の火となって、今も激しく燃え盛っていた。

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