最終話 そしてこれから先へ
チリン
テストゥードは、部屋のベルを鳴らした。
「お呼びでごさいますか?」と、ホヌが対応する。
「直ぐに、王太子との面会を取り付けてくれ」
ホヌが嬉しそうに笑って頷いた。
「承知致しました。直ぐに、伝えます。……結論が出たのですね」
その言葉に、テストゥードは眉を寄せた。
「なんだ、ホヌ。知ってたのか王太子の企み」
「企みとは!友人を心配するが故のご配慮でしょう!」
「配慮するなら、エミスに爵位でも与えて貴族にしてくれたらいいのに」
ホヌは、やれやれと首をふる。
「それは、職権濫用過ぎるでしょ。私が原因で、クーデターがまた計画されたら嫌すぎるんだけど」
エミスが、口を挟む。
「仕方ないか、こうなったら……あいつをとことん利用してやろう」
その、少し乱暴なのに逞しさを感じる言葉に、ホヌは呆れたように眉を上げた。しかし、その目元には、温かな笑みが浮かんで見えた。
ホヌは二人を残し、連絡の為に部屋を出た。
「利用って言い方……」
エミスは、苦笑いを浮かべた。
「王太子殿下も、テスが平民になったら関わりが無くなるから淋しいんだよ。だから、止めたかったんだと思うよ?」
いやいやと、テストゥードは否定する。
「そんな可愛いやつじゃないよ。エミスは自分の国の王太子に夢を見過ぎなんだ。あいつは冷徹な男だよ。王太子なんたぞ、軟弱なやつには務まらない立場だ。俺たちは、……確実に駒にされている」
その口調とは裏腹に、テストゥードの表情には険しさが見えなかった。本気で言っているわけではないと察し、エミスは安心したが、それでも言い方が物騒だ。
「エミスの後援に、伯爵家をつけるんだろ?エミスが成功すれば、マレの王族とも伯爵家は繋がりを持つことが出来る。そうなれば、あいつも堂々と伯爵令嬢を婚約者として強く推すことが出来るんだ」
エミスは驚いた。たしか、王太子の婚約者候補は、あの伯爵令嬢と公爵令嬢が最有力だと言われている。しかし、公爵家の力が強すぎて伯爵家が押されている状態だった。
「なるほど……?お二人、想いあっている感じだったものね?」
「うん、利用されてるんだ。だから、エミスも遠慮なく利用するんだぞ。王太子と伯爵家」
真面目な顔でそんな事をいうので、思わず吹き出した。
「ああ、あいつが無事に伯爵令嬢を妃にできたら、恩に着せてやろう。その為には、早く結果を出さないとな」
「んっ!?テス凄い張り切ってるけど、私が、頑張らないと意味ないんだよ」
「分かってるって!ただ、効率よくやるには、市場や運搬のルート確認、マレへの根回しなんかを俺が手早くやった方がいいだろ。もちろん、交渉事は通商特使のキャラパス商会ご令嬢にお任せするけど」
テストゥードが、エミスの手を取る。
「一緒に頑張ろう。悩んだ時や、挫けそうになったら俺を頼って?一人で悩むなよ」
ギュッと手を握り直す。
「うん、テスが傍にいてくれるなら大丈夫。きっとやり遂げられる気がするの」
トントン
ドアがノックされ、「王太子殿下より許可をいただきました」とホヌが顔をだした。
「よし!行こうか!」
テストゥードは、襟をただした。
「あいつのリストにちょっと、指摘もしたいしな。間違いがある。あと、マレにももう少し有利な条件をつけたい」
リストを片手に、反対側の手でエミスの手をしっかり握って廊下を進む。
「ふふ……」
「なんだよ」
「急に、王子らしいこというから。すごくやる気になってる」
「知らなかった?俺、マレ王国の第五王子なんだ」
二人は顔を見合わせて笑った。
「それにさ……」
テストゥードはちょっとだけ口ごもった。
「あいつの為にも、少しでも早く成果出した方がいいだろ。じゃないと、あの気の強い公爵令嬢と結婚させられるからな……」
照れ隠しのように、顔を背けて外の景色を眺めるふりをしている。
エミスは、王太子の言葉を思い出した。
『ねぇ?エミス』
王太子が急にエミスの肩に手を置くと、そっと顔を近づけて囁いた。
『あいつは君にベタ惚れだから、君の決断なら全力で後押しすると思うよ。それに……あいつを平民にしてしまうと私も淋しいんだ』
(なんだ、両思いなんじゃない)
エミスは、二人の王子の友情に嬉しくなって、温かい気持ちになった。
「ねえ、何が見えるの?」
いつまでも、外を見ながら歩くテストゥードの顔をのぞき込んだ。
「ん……綺麗な夜の庭園」
あまりにもそのままな回答に、今度は声を出して笑った。
「あと、ほら月も星も綺麗だ……でも、一番綺麗なのはエミスかな」
「もう!」と照れながらテストゥードの腕に頭を寄せる。二人でいると、何をしていても幸せな気持ちになる。
いつの間にか、すっかり日は落ちていた。
緑宴会の華やかなざわめきは消え去り、夜の静寂が二人を包む。
重なる腕からお互いの体温を感じ、ふと見上げた夜空の深さに吸い込まれそうだと息をのむ。
溢れんばかりの星々を眺めていた、その時だった。
「「あっ!?」」
一瞬、暗闇を星が駆けていった。
二人の幸せを約束するような、そんな一瞬の閃光だった。
案内された部屋には王太子と、少し離れた場所に座る伯爵令嬢の姿があった。
王太子は「思いの外、決断が早かったな。彼女を待たせていて正解だった」と驚いた後、満足そうに口元を緩めた。
――そして、その僅か三ヶ月後
エミスは、数多の交渉人を泣かせた、秘境の気難しい職人と専属契約を結んだとして、マレ王国と王太子を大いに驚かすのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
今回は、初めて書きながらの毎日投稿だったので、読者様をお待たせすることなく無事に完結できて、ほっとしております。
ここまで毎日投稿を続けてこられたのも、更新を待ってくださった読者様のおかげです。とても心の支えになりました。改めて、心よりお礼申し上げます。
評価の★やブックマーク、リアクションマークなどをいただけましたら、とても嬉しいです。
感想欄のコメントも大歓迎ですので、よろしければぜひお聞かせください!
たくさんの小説の中から、見つけてくださり、最後までお読みいただきまして、本当にありがとうございました!!




