19話 事件の顛末
「ああステラ! 本当に無事で良かった……! もうばかばかばか!!」
「ね、姉様痛いです」
ウィル様達に助け出された夜、ハーディング家の屋敷に帰るとアメリア姉様が飛び出してきて私に抱きついた。そのままぽかぽかと頭や背中を叩かれたけど。きっとたくさん心配してくれたんだろうな。お父様とお母様も心底ほっとした様子で私を抱きしめてくれた。
私はなんと丸一日捕まっていたらしい。
最初に異変に気がついたのはアメリア姉様だったそうだ。
遠征から帰還するウィル様を出迎えるための衣装を一緒に選ぼうと約束してたのに、私がいつまで経っても帰って来ないことを不安に思ったらしい。
それで王城の研究室に連絡をしたら、北の医務室は鍵も開いたまま私の荷物も置いたまま。しかも廊下には私が持っていたウサギのキーホルダーが落ちていたのでこれはおかしいとなったそうだ。
「そうだったんですね。ありがとう、アメリア姉様」
「本当よ。ジェレミー殿下に連絡していなかったらどうなってたことか」
「え? ジェレミー殿下?」
「アメリア嬢がジェレミーに連絡を?」
私を送ってきてくれたウィル様も一緒に首をかしげる。
はっとしたように私から離れたアメリア姉様は少し困ったように頬に手を当てて目を逸らした。
「ジェレミー殿下とは昔馴染みなのよ。子供の頃、城のお茶会で会ったことがあってね。……今でも、たまに、本当にたまーに、ね、お茶しているだけなんだけど」
「そ、そうだったの!?」
「あの、それって」
「誤解しないで。ただのお友達です!」
アメリア姉様は社交界でも有名な美人で、本当に素敵なのにお付き合いを申し込んでくる男性をなぜか断っているって母様が嘆いているのを聞いたことがある。
も、もしかして……と思ったけど、ウィル様共々ぴしゃりと話を遮られてしまった。
「とにかくジェレミー殿下に直接連絡する手段があったの。だからすぐに騎士団の人達にも動いてもらえたのよ」
まさかアメリア姉様にそんな秘密の連絡網があったなんて。
だけどこれ以上はそのことについては聞けなさそうだ。本当に無事で良かったとアメリア姉様が涙目で私の両手を掴んで離さないのを見ていたら私までなんだか泣きそうになってしまった。
しばらくの間、私は自宅で療養することになった。
時々捜査のために話を聞きにやって来る騎士様達と面会する以外はのんびりと過ごしていた。
ウィル様やセオドア兄様の話によると、ジェレミー殿下はやはり元々第一王子派の動きを察知していたようだった。
「ああ、アメリア嬢からの連絡を受けて、すぐに第一王子派の人間を拘束したらしい」
教えてくれたのはウィル様だった。
あれから度々ウィル様は私の様子を見に来てくれていた。今日も二人で庭のベンチに座ってお茶を飲みながら事の顛末を聞いていた。
マリア様のことも頻繁にレナルド殿下と一緒にいる姿が王城で見られていたから注意していたそうだ。私がいなくなる直前にマリア様と廊下で一緒にいるところを誰かが見ていたようで、その証言を聞いてレナルド殿下と第一王子派が絡んでいると断定したのだと。
「……そういえば、どうしてあの日ウィル様がいたんですか? まだ遠征中だったはずでは」
「いや、実は予定よりかなり早く仕事が終わったからもう帰路の途中だったんだ。そこでジェレミーから連絡をもらって早馬で帰って来たんだ」
「そうだったんですね」
「……本当は早く帰って顔を見たかったからだけど」
「え? 何か言いました?」
最後にぼそりと何か小さな声で言っていたけどよく聞こえなかった。
なんでもない、とちょっと赤い顔でウィル様が笑った。
どうしたんだろう。
それから数日後、ブラッド様が国王陛下の使者としてハーディング邸にやって来た。
すでに国王陛下や弟のジェレミー殿下からは直接の謝罪を受けているのだけれど、現状報告と見舞いの品を届けにきてくれたのだ。
レナルド殿下は王位継承者のジェレミー殿下を陥れようとした罪、そして私を誘拐した罪で国外追放となった。もちろんただの追放ではなく、北の海にある小さな島の古城に幽閉されるらしい。おそらく、生涯戻って来ることはないだろう。
マリア・アドキンス嬢はレナルド殿下に騙されていた部分もあるためいくらか減刑されたみたいだ。遠方の修道院へと送られることになったという。
二人ともどうしてあんなことをしてしまったんだろう。
最初は小さな妬みや不満から始まったはずなのに、こんな大事になってしまうなんて。
裁かなければいけないとはいえ、血を分けた家族であるジェレミー殿下は複雑そうだった。
「レナルド殿下は当然だが王位継承権を剥奪されることになるだろう。ジェレミー殿下を蹴落とすために君を巻き込んだのだからな。もう表の世界に出てくることはできないだろう。マリア・アドキンスにも同様に厳しい罰が下る」
「そうですか……」
レナルド殿下は長男でありながら側妃の子であるせいで王位継承権がジェレミー殿下より低いことをずっと不満に思っていたらしい。けれど国王陛下や国の重鎮達は何もそれだけでジェレミー殿下を王位継承権第一位に決めたわけではなかった。
元々レナルド殿下は気位が高く短絡的で学生時代から素行が悪かったのだ。それに対してジェレミー殿下はいつも穏やかで成績も優秀。周囲の人々を思いやることのできる人柄から皆に慕われる人だった。
陛下達はレナルド殿下の継承順位を下げることで本人に己の行いを振り返ってほしいと願っていたらしいのだけど……結果はあんなことになってしまったのだった。
応接室でテーブルを挟んで向かい合ったブラッド様はじっとこちらを見つめていた。
ウィル様とよく似ている端正なお顔立ちをしているんだけど、紫の瞳が妙に威圧感を放っていた。
……すごく緊張する。
「――これで一通りの説明は終わりだ。恐ろしい目に遭わせてしまったこと、あらためて謝罪しよう」
「いえ、私はまったくの無傷でしたので……」
ブラッド様から頭を下げられて恐縮する。
確かに大変な目にはあったけどブラッド様達騎士団の皆さんは助けにきてくれたわけだし。私は肝が小さいので騎士団の副団長なんていう偉い立場の人に謝られると逆に慌ててしまう。
「体調の方は問題ないようだね」
「はい、近々仕事にも復帰しようかと思っています」
ふとブラッド様が表情を緩めた。
一ヶ月ほど療養していたけれど、もう身体は健康そのものだ。それにずっと屋敷にいるから時間を持て余してしまっていた。
「そうか。……あまり無茶はしないように。ウィルが心配する」
「は、はい」
「そしてこれは個人的な礼だ。牢でウィルを庇ってくれてありがとう」
「……え」
驚いて思わず顔を上げたら、ブラッド様は穏やかに微笑んでいた。
牢で捕まっていた時、ウィル様を悪く言われて腹が立って言い返した時のことだ。あれ聞かれてたんだ……。じわじわと頬が熱くなっていく。
「そのうち屋敷に遊びに来るといい。……歓迎しよう」
ブラッド様はいつもの威圧的な雰囲気は無くて、きっとこれが素のウィル様のお兄様としての顔なんだろうなと思った。
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