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5-4.奇襲、そして東側国家群へ

ミーシャが駆け寄ってきて抱きついてきた。

なんだか幸せな気分を味わいつつ、おれは皆に別れの挨拶を言う。

「それじゃ、いってくるよ。外側への拡大も大切だが、

帝都の防衛もよろしくな!」

「任せておけ、東側開拓軍と旧ガリアへの帰還民の守備兵以外は

基本的に帝都防衛に当てておるわい。」

マティアスは自信満々に胸を張る。

「おにー、また旅に出ちゃうんだね。もっと帝都にいればいいのにー。」

「ごめんな、あと少しで魔族の本拠地に攻め込めるんだ。

もう少しの辛抱だから。」

今にも泣きそうなミーシャの頭をくしゃくしゃと撫でてやると、嬉しそうに笑う。

あー、なんて可愛いんだこの子は。

そして、あらたな旅が幕をあける。


帝都から北にまっすぐ進むと100年橋と呼ばれる巨大な橋梁がある。

かって、リンガルシアと時渡が友好国であった時代、その優れた技術力を

持ってしても橋をかけるのに数年の月日を要した。

橋梁の建設作業に従事した人々の間では100年経っても完成しないのでは?と

皮肉が囁かれるほどの時間を要したそうだ。

その話が元になり今では100年橋と呼ばれる。

そして、北方の最前線リンガルシアと帝都領内をつなぐ重要な橋である。

おれたちは魔道車に揺られ、2日ほどで到着した。

厳重な検問で武器、所持品、身分を確認され、無事に通ることができた。

この検問は最近、人々の噂となっている人の姿をした魔の存在への対策として行われている。

噂によるとその連中はマントを羽織った男たちで先日、行商人の荷列を襲い食料を奪ったため

人々の知る存在となったとのことだ。


美しい清流を眺めながら鉄製の橋をゆっくりと渡る。

やがて、検問を通過し、リンガルシアに到着した。

「みんなは宿よね。私は母さんに会いたいから先に行ってるね。」

アリーはそう言い残すと、おれたちとは反対の坂を登り姿を消した。

リンガルシア、それは北方の最前線であり、最前線といえば通常は

危険な地域となり兵士以外は寄り付かない。

しかし、このリンガルシアは少し事情が異なる。

貿易の谷にはたしかに司令魔族がひとりロバンがかまえている。

しかし、なぜかこの魔族は守る以外のことを行わない。

人を襲うことをしないし、意外なのは魔族が通過することも許さないのだ。

そのため、連合本営がなくなった今の世界では帝都に次いで安全な地域と言われている。

街は人と商品であふれ、最前線とはいえ、大方の兵士のイメージするそれとは

全く異なる異様な賑わいを見せていた。

「かってのリンガルシアの姿からは想像もできない発展を遂げていますね。」

いつものようにネリーと手を繋ぎながら、リーニャはつぶやく。

なぜ手をつないでいるというツッコミはもうやめた、、、。

「リーニャの知ってるリンガルシアは今とは違うの?」

「はい、昔は小さな農村集落の集まりという感じでした。

このあたりは貿易の谷の影響で気温の変化が激しくて、

不作の年も多く貧しい人が多かったはずです。」

「いまのリンガルシアからは想像もできないや。」

「少し街の中を見てみたいです。」

リーニャはネリーの顔を上目遣いで見つめる。

これが世に聞くおねだりというやつか!とおれは驚きを隠せない。

そして、ひとり取り残されたおれはやさぐれて、宿に向かうのであった。


その夜、帝都を謎の集団が襲った。

賊は3人で、帝都までの道のりを人に化けてうまく検問をくぐりぬけてきたようだ。

最初に賊が確認されたのは帝都の正門であった。

警戒態勢を強化していた帝都守備隊は賊を発見するとすぐに陣を組み、

敵を迎え撃った。圧倒的な古代兵装で増幅された兵士たちの戦闘力は

賊の遥か上をいっており、戦闘はあっさり終わると見られた。

しかし、賊の1人のはなった目くらましの魔法により、視界を奪われた兵士たちは

正門を突破されてしまう。

結果的に賊の1人は帝都正門にて守備兵により殺されたが、残る2体は

帝城に侵入してしまう。

戦いは散発的に繰り広げられ、死傷者こそ出ていないが、複数の兵士が負傷した。

そして、賊の1人は大臣ティビの居室を襲いティビに傷を負わせた。

しかし、いざ致命傷が与えられる直前で駆け込んできたマティアスの一撃が

賊の腕を切り落とし、逃走させることに成功した。

賊は皇帝居室まで進み、その扉前でマティアス、重鎧のおっさんに囲まれ、

奇声を発しながら、2人に斬りかかった。

しかし、踊るように軽やかに攻撃を避けたマティアスが横一線のなぎ払いにより、

賊の首を落とした。これだけであれば、魔族側が人間側の重要人物を狙って奇襲を

かけたと考えることもできたが、残る一人の賊が持ち去ったのは、

宝物庫に安置されていたゾネの石版だった。

打ち倒された賊は、人間の姿形こそしているが、

魔鉱石を体に埋め込まれた異質な生き物であったという。


次の日、帝都の一件を知らないおれたちは司令魔族ロバン討伐のため、

早朝の太陽が昇る前にリンガルシアを出発した。

リンガルシアから貿易の谷へは歩いて片道15分ほどの距離で、

目的地へはすぐに到着した。谷の入り口にはたしかに

会議で言われていた2つの祠があり、内部には巨大な空間と

奥に異様な圧をはなつ石像が置かれていた。

「あれ潰してみる?」

さっそく猪突猛進のアリーがすごいことを言い出した。

「そんなことしちゃって良いのか?一応、古代の遺跡だぞ。罠とかないか?」

「リネスさん、おそらくあの像は単純な魔法・物理攻撃では破壊できません。

アリーさん、試してもらって良いですか?」

「まかせなさーい♩」

破壊衝動を解放できることに喜んでいるのかアリーはスキップで像のそばまで行くと、

全身全霊の魔法攻撃をぶっ放した。おれの見間違いでなければ、

火炎系の単体攻撃型の高威力禁術だった気が、、、。

「どうよ!わたしの全身全霊を食らって無事なはずが、、、、!?」

何事もなかったように像は鎮座している。

あの時のアリーの驚いた顔といったら、おれは腹を抱えて笑いそうになる。

「これは、、厄介かもしれません。石像にも土の精霊ボーデンの系統魔法が

かけられています。まず、これを解かないと像を破壊できません。」

「聖霊?じゃあ、魔族を守っているこの結界は人間が作ったってこと?」

「はい、これはかなり希少な系統の魔法です。世界を見ても使える人間は少ないかと。」

それを聞いたアリーは少し表情を曇らせ、戸惑いを浮かべる。

「わ、私のお父さんがまったく同じ魔法を使えたんだけど、関係ないわよね?」

「わかりません。一番確実なのは、ここに魔法陣を刻んだのは誰か土の精霊に直接聞くことです。」

「土の精霊の神殿だと、東側国家群のガルベンシアのあたりね。」

おれたちは一度、土の精霊に会いに行くことを決めた。

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