5-3.結界
悪魔の目覚めと呼ばれる悲劇から数えて10年になる。
この間に人間は本営を失い、多くの兵士の屍を晒し、
その上で必死に生き抜いてきた。
そして、帝都防衛戦にはじまる反撃の狼煙は、古代兵器による
一般兵の兵装強化によりさらに勢いづき、一時期世界の大半を
手にした魔族は駆逐され、魔族領は旧レムルス、ルイドが存在する
北方領土のみとなった。
「それで北方への道は、旧東側国家を通る東側ルート、
リンガルシアを通る西側ルートがあり、東側ルートについては
魔族側の抵抗が激しく突破できずということですね。」
いつの間にか戦略本部において参謀のような立ち位置にあるネリーが、
そこまでの話を要約する。
「はっ、その通りです。」
東側ルート開拓軍の司令官は敬礼しつつ、同意する。
「ならば、リネスと僕たちの遊撃軍で西側ルートから攻めてみるしかないと思うんだ。
リネスはどう思う?」
「戦力が拮抗してる状態で、開拓軍を分けるのはまずいよな。
やっぱり、俺たちで西側を叩くしかないな。」
「そうだね。1つ懸念事項があるとすれば西側のルート、
貿易の谷には絶対防壁のロバンがいる。」
「聞いたことあるわ。魔法も物理攻撃も、魔導師団による大規模魔法攻撃も
効果がなかったって。」
「そうなんだ。あの魔族を倒さないと、どうあがいても
西側ルートは開拓できないんだ。」
全員が黙り込む。西側ルートの開拓、この試みは今日に始まったことではない。
これまでにも何十回も突破が試みられ、そのことごとくが失敗に終わった。
「リーニャ様、なにか名案はございませんか?」
大臣ティビがリーニャに救いを求めて尋ねる。
「いくつか確認させてください。ロバンに魔法攻撃を仕掛けると
どのような現象が起きて、攻撃が無力化されますか?」
リーニャは落ち着いた声で質問を投げかける。
「さきの遠征では、火炎系高等魔法50発、氷雪系高等魔法100発を
ロバンにぶつけました。
その全ての魔法攻撃がロバンの体表面に触れる前に、
まるで魔法など放たれなかったように一瞬で消えてしまうのです。」
「それは時間、時期を問わずですか?」
「はい、遠征自体は半年ごとに行われているのですが、
ほぼ同じような結果になります。」
リーニャは唇に指を当てて考え込む。
「結界が張られているのかもです。
周りに石像や構造物のようなものはありましたか?」
「そういえば、、。ロバンのいる貿易の谷の入り口には2つの祠があります。
なにかしらの神を祀ったと思われる石像が置かれていることは確認済みです。」
「その石像を破壊する手を試すべき、、だと思います。結界の媒体かも。」
リーニャの発案を受けて、次回の遠征の目的は決まった。
俺たちはまた長い旅に出ることになる。
この会議が行われている最中、夜闇に紛れて
複数の影が帝都に近づきつつあったことをまだ誰も知らない。




