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28、見たくはない物




「座れ」


 急にバナロスに声をかけられて飛び上がりそうにビックリした!


 けっこう長いこと考え事をしてもうてたらしい。バナロスのほうを見ると特にイラついてるとかはなかったけど、横のオッサンがオロオロしてた。




 さっきの考えを何とか追い出して、バナロスの横に座る。


 ワイヤー的な物は入ってないスカートやったけど、一瞬、どうやってスカートで椅子に座ろか?と迷った。けど、迷ったんは、ほんの一瞬で、成り行きで腰かける。何重にも生地を重ねたスカートの上に座ると、ブヨンブヨンして座り心地が悪いものである。スカートって、まくり上げてから座るんやったっけ?


 ……と、思っている間にまた時間が経ってたらしい。いつの間にか視界にはグラスが入り込んでた。グラスを俺に差し出している人のほうを見ると、シンプルな白い服を着た年齢不明の人が俺の前にひざまずいてた。老けてるようにも見えるし子供みたいにも見えるし、男にも女にも見える不思議な容姿の人や。


 差し出されている物を受けとらんわけにもいかず、グラスの細い所をつまんで持つ。薄くて透き通ったガラスの中には透明の水みたいな物が半分ぐらい入っている。覗くと向こうの景色が歪む。



 飲めっていうことやろなぁ……口元に近づけると、ブワっと酒のにおいが目ぇにしみる。飲まんでも、グラスから上がってくるにおいだけで酔えそうな勢いや。


 思わずバナロスの顔を見る。バナロスは俺のほうをチラッと見ただけで、自分のグラスをあおる。


 ちぇーっ。飲めばイイんでしょ、飲めば。

 グラスの縁に口をつけ、一口飲む。とてもカラくて、なんとか飲み込むと、喉の奥からおなかにかけて焼けつく。お酒を飲んだことないこともないけど、これはヒドい。二口目は飲みたくない。


 なんか、手というか、身体全体の感覚がフワフワと少し遠く感じられるような気がする。

 外の風が冷たく感じられてたぐらいやったのに、なんか暖かくなったような感じもするから不思議。



 グラスを傾けたり覗いたりして、どうしようか悩んでると、スッと横から手ぇがグラスをさらって行く。バナロスが俺のグラスをさらって、飲み干した。俺を横目で見たまま、からになったグラスを向こうにいたさっきの白い服の人に差し出した。白い服の人は、ひざまずいて怖い物のようにそれを両手で受け取った。

 てか、こんなモン、よう飲むわ。



 バナロスの横におった、さっきのハゲたオッサンが、青い小さなクッションのような物を恭しくバナロスに差し出してるのが見えた。少しボヤけた頭で見るともなしに見てると、その上には金の装飾がされた筒のような物が載ってる。どうやら望遠鏡っぽい。


 バナロスはツっと立ち上がって、座る俺の左手を右手で掴んで俺を引き起こした。俺は立ち上がると同時に無意識に右手でスカートを少し持ち上げていた。そうでもしないと踏みつけそうに長い。



 そのまま、手を引かれてバルコニーの欄干の所までつれてこられ、それから望遠鏡を手渡される。これで景色を見ろと?


 ……って、たしか、公開処刑してるんやなかったっけ!?この人、なんて悪趣味なんや!そんなん、人が処刑されるとこなんか見て楽しいわけがない!



「まだ始まってはおらぬ。見てみよ」

 バナロスは風に吹かれる長い髪を押さえながら遥か下の街を指差してそう言うた。




 まあ、公開処刑の場所を見んかったらエエんやし、とりあえず見るか。処刑はイヤやったけど、望遠鏡自体は気になるし。


 高さの分かる真下をなるべく見んように、望遠鏡を通さず少し遠くを見る。街には、ぎょうさん人がいるのが分かる。ほんま、米かゴマ粒みたいに小さいけど。


 俺は左目をつぶって右目に望遠鏡を近づける。

 高さが怖くて欄干から腰を引きながら、いわゆるへっぴり腰というやつで街を見下ろす。あんなに遠いのに、街を行き来する人とか、市で売ってる物まで見える。すごい性能やな。


 わぁ、手を伸ばしたら触れそうなぐらい近くに飛び出してきて見えてるわ。



 人と人がひしめき合ってる間から、鳥を腕に乗せてる人が見えた。あれは、鳥で狩りとかする人やな。鳥は鷹かな?街の中でも何か狩れるんか?


 景色を順に追っていったら、その横に巨大な斧を持ったマッチョな男がおった。頭には小さい穴が二つ開いた袋のような物をかぶってる。いわゆる覆面ってやつやな。変な男。

 その横に視線をずらしていくと……石のベッドみたいな上に人が寝ていて、その手足は四方向に鎖で繋がれて……大きい鳥が飛んで来て、その繋がれてる人のおなかを喰いやぶって……?!!


 俺は望遠鏡を落としそうになった!も、もう、処刑、始まっとるやないか!




「いかがされた?」

 声のほうを見ると、バナロスが薄笑みを浮かべて俺を見ている。


 こんなん、嫌がらせや!俺が嫌がるのを見て、あきらかに楽しんでる!



「何が見えた?」


 何が見えたなんて……言えるか!思い出したくもない!



「鳥が見えました」

 俺はムカっとして、たぶん、めっちゃ反抗的な声やったやろう。



「あの鷹は余の身である。余に仇なす輩も喰われれば余の血肉となる」

 バナロスは遠くを見たまんま、誰に聞かすでもなく言うた。



 そういう意味で鷹につつかすんか……ってか、どっちにしても悪趣味やし。






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