27、眼下の風景
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腰を引きながら柵の向こうを覗いてみると、目が眩むような恐ろしい光景が……深い谷底みたいな超遠い所に、これまたゴマ粒みたいに小さい人がおるんが見えとる。あまりの恐ろしさで目眩がし、足元の床が一瞬グラッとしたような気ィがした。
……わ、わざわざ見るのやめよ。背中がゾワゾワする。
とてつもなく高い階におることは確かや。
ここも城のどこかなんやろうけど、場所は分からん。
半円形の出っ張りが城の建物から張り出したふうになってて、その床には半円を活かした綺麗な模様が描いてある。タイルで模様を作ってあるらしい。
さっきの柵の近くには豪華な透かし(?)のベンチが置いてある。
うわさに聞く空中庭園ってやつなんやろう。初めて来たし、初めて見た。めっちゃ高い所やのに、どうやって水を上げて来てるんか分からんけど、噴水や小川のような物まである。緑が茂って花が咲いてる部分もある。地上にある春の庭みたいになっていた。
ベンチの前には、深い海のような色をしたガラスのテーブルがある。めっちゃお洒落なデザインや。上の板であるべき所がガラスになってて、いくらガラスが分厚そうでも、壊れないか心配な感じがする。
外の風に当たれるのはイイんやけど、ぜんぜん嬉しない。だって、広場で行われる公開処刑を観るために、皇帝の特別な観覧席に来とるからや。
処刑されるのは謀反人って聞かされとるだけで、どんな人なんか俺は内容までは知らんかった。まあ、知りたくもないけど。
庭園にはバナロスと、その御付きの人が十人ぐらいおるけど、女は俺一人だけやった。
今日もバナロスの横には黒ずくめのディーザスさんがおった。
庭園の最前の柵で一人、ビビりながら下を見てた俺が振り返ると、ちょうどバナロスと目が合った。豪華なベンチの真ん中に脚組んでエラそうに座っとるバナロスが、指先でチョイっと俺を呼んだ……ような気がするけど、違うのかも知れんし、呼んだのが俺じゃなかったら恥かくだけやし、とりあえず、気ィつかんかったふりしてさりげなく無視する。
と、身なりの良いハゲたオッサンがバナロスの側から俺の所へ駆け寄ってきた。かと思たら、俺の手ぇを引っ張ってバナロスの横までつれてこられた。身分の高そうなオッサンやけど、めっちゃ焦っとる。
バナロスのほうを見ると見せかけて、その後ろに立つディーザスさんを見る。油断なくシャキッとしてはる。この仕事って、ずーっと気ィ張ってなイカンから大変やなぁ。
俺が見た限りでは、ディーザスさんはバナロスの傍らにいつもいてはる。文字通り影みたいに付き添っていた。
誰も信じず、自分に仕えとる人間でも容赦せん残忍な皇帝が、いっつも側に置くってことは、よっぽどなんやろう。それだけ長い時間の深い信頼があるんやろう。
……と、並ぶ二人を見て思う。と、同時に、あのことを思い出して、二人を同じ視界に入れるのんが、何か悪いことのように思えた。俺が気にすることでもないんやけどな。
人は分からんかった。人には外見とか繕った偽の姿があって、その心の中とか胸の奥底に隠していることなんか、上っ面を見ただけでは知ることができないんや。
こうやって、どこからどう見ても冷徹で、忠誠心が服を着て歩いとるような人でも、まさかということがあるんやな。俺はスゴい秘密を知ってしもとるような気がして、なんか気が気でなかった。今、バナロスに俺の心の中を見られたらヤバいレベルや。
バナロスは自分の正室と、この超お気に入りの黒い騎士が密かに逢うてるんを知っとるんやろか。もしかして、すでに知ってて、認めとるとか?……そんなワケないか。




