26、打開策2
「統率者、よろしゅうございますか?」
ルカスはピオニールの側へ行き、そう尋ねる。ピオニールは無言でうなずいた。許可をするということだろう。
ルカスは壁に掛けてあった灰色の外套を羽織り、足早に部屋を出ていった。
ルカスの去って行った戸のほうを見ていると、ふと、ジェンスが視界に入った。棚に積んであった本を勝手に見ているようだ。静かなので存在を忘れていた。
「良かったぜ、決まったぜ!」
ボンが握手を求めんばかりの勢いで俺に近づき、満面の笑みを向けてくる。
「何が」
「キミに入隊してもらうよ」
「何に」
「何って、近衛師団にサ」
ボンが当たり前のように言う。
「誰が?」
「キミって言ったじゃん」
さっきから訳の分からないことを言う。コイツ、頭がおかしいのか?
……と言うより、自分自身が、ソレを分かりたくないだけなのかも知れない。先程の言い知れぬ不安は、漠然としたものから、しだいに形のあるもののように思えてくるのだ。
「どうやって」
もはや疑問しか涌いてこない。いや、むしろ分かりたくないのだ。否が応でもボンの企みの全容が見えつつあるからだ。
雑兵ならまだしも、どこの国でも重要な地位である近衛兵などに、どこの馬の骨とも分からぬ奴を許すとは思えないのだが。
「それができちゃうんだよネ~。世の中、何とでもなるのサ」
ボンはそう言って、側のイスに勢いよく座った……かと思うと、目測を誤ったらしく、勢いよく転倒した。
「いててて。でもサ、あとはキミ次第なんだぜ?ここから先はオレには助けようがないヨ」
ボンは尻を押さえて座り直す。
「いったい、何をするんだ」
あまりの理不尽さに、顰めっ面にしかならない。
「なぁに、城に行って、ちょこっと剣を交えるだけのことサ」
そう言って、指でちょこっとを表す。なにが、ちょこっとだ。勝手に話を進めやがって。
こいつは無責任なヤツだからな。関わると不幸にしかならない。この話も、うまく行きそうにないのだが。ひとひねりにされるのがオチだろう。完全に発想が馬鹿だ。
「お前は、馬鹿なのか?」
「まぁ、決まっちまったんだから、つべこべ言わない言わない」
できれば逃れたいのだが、そうは行きそうにないような気もする。現にルカスは行動を始めてしまっている。それに、何だかんだ言っても、他に名案など浮かびそうにないのも否めない。結局は、いつもボンの企み通りに事は進んでゆく。




