19、観劇
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今日は観劇に呼ばれた。早いもんで、あれから四日も経っとった。
城の敷地内に、すり鉢を半分にしたような劇場があった。ちょうど、その底の部分が舞台になっている。あんまり広くなくて、階段状の席は十段もなかった。その観客席は、まばらにうまっている。貴族の人ばっかりなんやろう、きれいに着飾った人ばかりや。
バナロスは一番後ろの特別席に座っとった。俺はバナロスの正室レイラノーラ様と一緒に三列目の席に座ってた。
レイラ様は、うらやましいぐらいの真っ直ぐでツヤっツヤの黒髪をしてはった。しかも、見とれるほどの、すごい美人。美人やけど、ぜんぜん気取らん人で、なんやかんやと俺を可愛がってくれはる。
せやけど、たぶんジェンスのお姉さんなんやろな。髪や目の色が違うだけで、双子でもないのにジェンスそっくりや。
劇の筋書きは、主人公のせっかちな男が、あこがれの女の子に恋する話やった。
友達に頼んで偽のゴロツキになってもらって、そこへ主人公の男が颯爽と現れて女の子を助けたり、化け物退治の武勇伝を立ててみたり、はたまた偽物のホレ薬をつかまされたり……と、面白くて、見てるうちに話に引き込まれてた。いつの間にかパッとしない主人公を心の中で応援してしまってるぐらいや。
……しかし、皇帝の前でやるには、ちょっと俗すぎる庶民派ドタバタ喜劇やったから、俺が作ったわけでもないのに、内心ヒヤヒヤした。
せやけど、この主演の人の声、何か聞いたことがあるような、ないような。
目ぇこらして主人公の若い男を見る。大きい目ぇ、太い眉、そんなにパッとしない顔。茶色い髪…気のせいか、ボンに似とった。てか、ボンやろ。前に、あいつに俺らがやらされたことと同じ内容がストーリーやったし。たぶんそうや。あいつはカノジョと一緒に、どっかへ旅に出たし、一旗あげるのに帝国に来てても何も不思議はない。
舞台では、真っ赤な衣装の女の人が美しいソプラノで歌ってた。俺は何気なくヨソ見してバナロスのほうを見た。
バナロスの隣に、忠犬みたいにくっついてる人が今日もついとった。上から下まで真っ黒の服装で、まるでバナロスの影みたいで不気味や。ってゆーか、喩えたら烏やな。
「何を見てるの?」
俺がヨソ見をしていると、隣のレイラ様に問いかけられてギクっとする。
「いや、あの人…皇帝陛下のそばにいっつもいてはる黒い服の…」と、答えながら、指差すわけにもいかへんから目線でさす。
「ああ、あのお方は近衛師団長のディーザス様よ」
「はぁ、そうなんですかぁ…」
そう言うてから、またジロジロ見てたんがイカンかった。真っ黒の人と目ぇが合うてしもた。
目つきは鋭いまんま、口元に微かな笑みを貼りつけて、俺に会釈してきた。ゾワーッと背筋が凍りついた。めっちゃイケメンなんやけど、心の中が計り知れない感じがして怖い。
と、拍手が聞こえてきた。俺もつられて拍手した。舞台に主演の男が出てきて挨拶を始めた。劇団長っていうんか、堂々としとる。よく見るが、やっぱりボンに間違いない。さっきの赤い衣装の歌姫も、たぶんボンの恋人で間違いない。
せや!こんなに近いところにボンがおるんや。ボンに気づいてもろて、俺がここにおるってクェトルに伝えてもらお!
……でも、どうやって皇帝に気づかれずに、ボンに気づいてもらったらエエんやろか?!早くせんと、帰ってしまう!
俺は考えたあげく、必死にウインクして合図を送った。
気づけ!アホ!気づかんかい!…ボンは『俺』には気づかず、こっちに向かって帽子を取って深々と礼をして、舞台から去っていった。




