18、囚われの身
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ゴロリと板の床に寝転んだ。部屋の広さのわりに高い天井が、ただ見えるだけだ。このところ代わり映えのしない見飽きた風景だ。
はたから見りゃ寝転んでゆったりとしているように見えるだろうが、なすすべがないだけで、のんきにくつろいでいるわけじゃない。
「そうそう。人間、ゆとりも大切だよ」
俺のすぐ横で、折りたたみのできるイスに座ったジェンスが一人、うんうんとうなずきながら言った。
こいつは頼み込んでイスだけは返してもらっていた。どんな時でも、やはり、絶対に地面へ座ることはしない。なかなかの徹底ぶりだ。感心する。まあ一度、引き倒してやりたいのだが。
「まあ、あせらないでよ。明日には城の者が来るのだから。あせっても、走っている馬の上で走るようなものだよ。時は悠久の大河のようなものだよ。ゆったりとね」
両手を広げ、身振りを交えて悠長なことを言う。ブレのない、ズレた感性の持ち主だと、今さらながら思う。
あれから九日が経つ。予定では明日にはヴァーバルの城のヤツがここへ来るはずだ。本当に来るのだろうか。
アルは今ごろ、生きているだろうか。
「お前は、アルが生きていると思うか」
「思うよ。タダでは死なないだろう?」
俺の問いかけにジェンスはサラリと応える。
「バナロスが、自分から逃れていた者をただ受け入れると思うか」
ティティス家を根絶やしに…重要な生き残りを処刑するために捜していたとすりゃ、もう、生きてはいないだろう。
「大丈夫だよ」
ジェンスは微笑む。何を根拠に言っているのか分からない。ただの楽天家なのか、真意は分からなかった。
「ところで、お前は背中に烏があるのか?」
烏はヴァーバルの国章だ。何気なく聞いてみた。
「ないよ。僕はそんな運命じゃないから」
口の両端を上げて言う。
王家の人間はみんな紋を彫るものだと思っていたが、そうではないようだ。
いいかげん聞き飽きた波の音が聞こえてきた。日暮れと共に就寝となる。沈みかけた赤い日が長い影を作った。




