15、絶え間なき闇
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目の前は真っ暗やった。目を開いても、つぶっても。そもそも、起きてるのか寝てるのかも分からんような気がする。
目に涙がたまってる。内容は思い出せんけど、夢でも見てたんか。
袖で涙を拭く。
あれから何時間、それとも何日か経ったんやろか?時間の感覚なんかないし、いつ寝て、いつ起きてるんか自分でも分からんようになってきた。できることなら、ずっと寝てたいけど、自然に目が覚める。
こういう時って、発狂したほうが楽なんやろな。いっそのこと狂ってしまえば、何もかもから逃れられそうなのにな。でも、そうは楽にさせてもらえそうにない。
中央帝国につれてこられとるんや、というのは、だいたい予想がついてた。ゲンブルンで突入してきたあいつらは、貴鳩の紋が目当てやった。貴鳩を探しとるのなんか、皇帝バナロスぐらいのもんやろ。
せやけど、なんで、俺がティティスの生き残りやと分かったんやろか。
まあ、一番あやしいのは、最近クビになった、ウチで働いとった男や。だいぶ前に、体を見られたことがあった。ウチのおっちゃんとおばちゃん以外で俺の背中の貴鳩の紋を知ってるんは、あの男だけや。帝国に密告げることも充分にありそうなヤツやし。
それにしても、殺す気やったら、わざわざ、なんでこんな真っ暗な所に閉じ込めるんやろか。
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何も見えない沈黙に押しつぶされそうで、歌を歌う。自分の声が、こだましてる。ひょっとしたら、誰かが歌ってるのかな?
闇に身を沈めてると、どこからが自分で、どこまでが自分なのか分からんようになってきた。闇に身体が溶けていってしまう気ィがする。暗い中から、黒い手が何本も伸びてきて、スーっと手足を触るような感覚がある。
なんか、しんどいなぁ。何も食べてないから、このまま餓死するっぽい。
どうせ死んでしまうんやったら、もう会われへんのやったら、クェトルに言うといたら良かった。
森で迷ったあの時、喉まで出かかってたこと。「好きや」って、なんで言うとかんかったんやろう。言うてもどうにもならんけど、今、こんなに後悔せんでも済んどったに違いない。
お前は、一番近くて、一番遠かった。手を伸ばしたら触れられたのに、触れることができない。
一度でイイから、女と思って見てほしかった…。
これまで、何回、同じことを考えたか。自分がどんなんやったか、何をしてるのかとか、何もかも分からんようになってきた。何で生きてるんかも分からん。
真っ暗な中に、時々、丸とか三角とか、いろんな形がチカチカ見えて、グルグル回る。真っ暗なのに色が見える時がある。
もう、起き上がるのんもしんどい。手も足も、自分のと違うように思えてきた。ベッドに大の字に寝ころんで、見えない宙を見る。色鮮やかなチョウチョが飛んでたから、手を伸ばしてみる。指先から、スッと抜けて見えなくなった。
このまま死んで、このままの形の骨になっていくんやろなと、何となく思う。
足音が聞こえるような気がする。ついに、お迎えか?それならそれでエエわと思って、起き上がらずに待つ。
自分から見て左の方向に足音みたいなんが近づいてきた。キチキチと金属のすれ合う音がして、ガチャリと聞こえてきた。すぐにギギィーっと古い扉の開くようなイヤな音がして、そこから光が目に飛び込んできた。
ランプを持った人影が二人分、見えた。ろうそくの小さな明かりでも、目を覆いたくなるぐらいまぶしい。
その二つの人影が、ゆっくりと近づいてきた。




