14、禁固
そうこうしているうちに、男が三人来た。どこかへ連れていかれるようだ。
男たちに再び後ろ手に縛られた。イイ加減うんざりしてきた。
物置のような狭い通路を通り、その先にある部屋へと通される。通路の途中にもいくつかドアがあったが、突き当たりの部屋だった。
部屋は暖かい。
机の向こうには、穏やかで品のある初老の男が座っていた。口ひげがあり、髪は灰色だ。どちらも油で撫でつけたようにきれいに整っている。
「座りたまえ」
上品な男は手で『座れ』と合図した。付き添っていた男に脇腹を突かれ、机を挟んだ向かいのイスへと座らされる。
「お前さん、氏名は?」
持っていた帳面をめくり、持っていたペンで俺のほうを指して言う。
俺は男の目をにらんで黙っていた。男も、じっと黙って俺を見据えている。
一瞬迷ったが、適当な偽名を名乗っておく。
次は年齢を聞かれたので、誤魔化す意味もないと思い「十九」とだけ答える。
「次は、お前さん。まず……男か?女か?」
男はジェンスにそう尋ねた。質問は、そこから始まった。だろうな。見てもどっちか分からないだろう。
「どっちだと思います?」
ジェンスは縛られたまま、肩をすくめて笑顔を見せる。状況にそぐわしいとは、まったく思えない。
「冗談ですって、冗談。僕は男ですよ」
男は、まばたきをしてジェンスの顔を見たまま、小さく二つほどうなずいた。
「名前は?」
そう聞かれた。この問いに、こいつは偽名など名乗らないだろう。そういうヤツだ。いや、もともと偽名だな。
「ジェラルド・ナタヴォル・セトス=フィーチャです」
いつもの偽名どころか、本名を堂々と口にした。肝が据わっているのか馬鹿なのかどちらかだ。おそらく後者だ。
「ずいぶんと、たいそうな名前だなぁ。で、年と出身は?」
「年は二十三で、出身はヴァーバルです」
そう言って、なぜか俺のほうを見てニタリと笑った。
そこで男の手が止まる。帳面から顔を上げて変な表情をする。
「お前さん。からかわんでくれ。セトス=フィーチャは王家だろう」
低い声で、ゆっくりと言い聞かせるように言った。当の本人は微笑を絶やさず澄ましてきっている。
「からかってなんかいませんよぅ。僕の名前です」
「冗談はイイ加減にしろ!」
男は机を両手で叩き、勢いよく立ち上がる。
「本当ですってば」
ジェンスはキョトンとして言う。一見ふてぶてしいその態度に、男が腹を立てているのが見てとれる。
「悪いが、こいつは本当に王族だ」と、見かねて俺が口を挟むと男ににらまれた。
「本当だと言い張る気だな?」
もちろんです、とジェンスは胸を張って答える。
「ならばな、ちょうど近くの街にヴァーバルの重臣がいらしている。十日ほどのちにこの港に立ち寄られる。その時に、お前さんの言ってることの真偽が分かろう」




