13、絶体絶命
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「貴様ら、どこから入り込んだ?!」
突然、怒鳴り声を浴びせかけられ、ハッとする。
しまった、見つかったか!
積み荷にまぎれて隠れながら眠っていたが、どうやら見つかったらしい。
身体を起こしながら、声のほうを見る。ハゲで口ひげを生やした、厳めしい面の中年が、五メートルほど先にいた。
ハゲ頭の背後、戸口の辺りにはゾロゾロと男たちがいる。
ハゲだけ周りの船員と服装の雰囲気が違うようだ。いかにもエラそうな感じがする。きっと地位のあるやつに違いない。
「捕えろ!」
ハゲの鋭い号令で、男たちは一斉に飛びかかってきた。
その突進を身をかがめて躱すと、男の一人が勢い余って木箱に飛び込んだ。箱も壊れたが、箱の中ではガラスか何かの割れる派手な音が聞こえる。左からつかみかかってきたヤツのふところへ身をかがめて飛び込み、思いきり突き飛ばす。
まともにやりあっても勝ち目がない。これは逃げるしかない。
「逃げるぞ」と、声をかけ、振り返ると…………案の定、すでに両手を顔の高さに上げたジェンスが、俺に向けて苦笑いをしている。こいつはハナから降参しているじゃないか!
だからといって、おとなしく一緒に捕まっている場合じゃあない。こんなヤツ捨てて行こう。
俺は隙を突き、開いている戸口から甲板へと躍り出た。突然のまぶしさに目がくらむ。やけに空が明るい。一瞬のことなのに、けっこう悠長に『イイ天気だ』などと思っている自分がいた。
「待て!」
不意を突かれたハゲが我に返り、貨物室から飛び出す。
俺は目の前すぐに広がる海へ飛び込もうと考えたが……幅の広い剣を持った男が右や左から現われ、囲まれ、それは、かなわなかった。
さすがに、おとなしくしないワケにはいかなくなった。
その後、船は間もなく港へ着いた。出港して二晩が明けていた。
俺とジェンスは甲板で縛り上げられての入港だった。
やがて、港にある一室に閉じ込められた。縄は解かれたが、着ている服以外、小さな針に至るまで、持ち物はすべて没収された。
そこは、両手を広げれば壁につくと言っても過言ではないほど狭く、最低限の物しか置いていない部屋だ。高いところに明り取りの窓があり、そこから細い光が差し込んでいる。おそらく、とても小さな窓で、人が通れるとは思えない。
薄汚れた土壁、出入り口には鉄格子の扉。早い話が牢屋ってやつだ。そこに二人まとめて放り込まれた。どんな理由よりも、こいつと同じ部屋にまとめて容れられるのが一番の不服なのだが。
仕方なしに冷たい地面に腰を下ろす。次第に冷えが衣類を突き抜けて伝わってくる。
「大変なことになっちゃったね?」
ジェンスは突っ立ったまま、小首をかしげて他人事のように言う。
「泳いでたほうがマシだったろ」
「それは、ちょっと……」
ジェンスは口を尖らせる。あくまでもそこは否定するつもりだ。
だから育ちのイイ奴は嫌いなんだ。何かあった時に何の役にも立たない。気位しか持ち合わせてないんだろうな…と、地面に座ろうとしない、気位しかないバカ王子を見ながら思う。
こんな所に閉じ込められている場合じゃない。一刻も早くアルを見つけ出さなくてはならない。
「これから、どうなるんだろうね?」
ジェンスは他人事のような、むしろワクワクしているともとれるような口調で言った。
腹立ちを通り越して、呆れてきた。




