12、闇に惑いて
…………………
………真っ暗。
ここはどこや…?
夜中?
それとも、夢の中なんかな?
それにしても何も見えへん。夜中にしても、何も見えなさすぎる。
「誰か、おる……?」
つぶやいたつもりが、自分の声が変に大きく聞こえる。
しーんと静まりかえって誰からも返事がない。動かず、じっと耳を澄ましてみても、何も聞こえへんし、気配もない。
息を吸うと、ちょっとカビ臭いようなにおいがする。
急に背筋がゾクッとして、足の先から気持ち悪さが上がってくる。真っ暗な空間がのしかかってきて、重さに潰されそうになるってゆーか、闇に飲み込まれてしまいそう。
すぐ側で見えへん何かが動いてるような気がして、見えない空間を見回す。けど、何も見えてこない。闇の底っていうような表現が似合う。
…って、悠長なこと考えとる場合じゃなさそう。
記憶の糸をたどって、途切れてしまう所まで遡る。
ここは、ゲンブルンの宿やったっけ……?
……いや、違う!ゲンブルンと違う!ゲンブルンで帝国のヤツに捕まったんや!
それを思い出すと、急に焦りってゆーか、何か、いてもたってもいられなくなった。
身体を起こすと、頭がズキズキを通り越してギュンギュン痛い。
顔をしかめて頭痛を我慢しながら辺りを探る。身体に何か柔らかくて分厚いもんが、のってる。掴んでみると、毛布のような布団のような何かやった。
座って床に手をついてみる。両手に布みたいな感触。這うように手でさぐりながら床を触っていくと、急に空をつかんだ。段差があるみたいや。
そっと段差へ片足ずつ下ろしてみる。予想よりも早くに、ツンと足先に何かが触った。両足を下に下ろしてみる。裸足にびっくりするような冷たい感触があった。石の地面っぽい。
この感じは、たぶんベッド的な物に寝かされてたようや。
石の地面に立って、一歩先をつま先でさぐりながら進んでみた。三、四歩で何かが足に当たった。手をそーっと前に出してみると、でこぼこした石の壁?みたいなんに触れる。手のひらで押すと、ゴツゴツしてるけど、どこまでも平らやった。やっぱり壁やな。
…ってか、もし、誰か暗がりにおったら、どうしょう…?!
「誰か、いてますか…?」
急に怖くなって、思わず声に出してしもとった。
返事はない。案の定というか、ホッとしたというか。でも怖いということに変わりない。早くこの暗い場所から逃げ出たかった。
壁を背中と両手でさぐりながらカニ歩きで横へ進んでみた。また三、四歩で行き止まった。壁は直角に曲がって左に続いてる。壁伝いにまた横に進むと今度は十歩ぐらいで行き止まり。
どうやら、想像どおりの、四角くて狭い部屋の真ん中にベッドがあるって感じに思えた。
なんでこんな部屋におるんやろか?
耳を澄ましてみても、自分の呼吸音しか聞こえるものはない。
どれぐらい時間が経ったんかも分からんかった。何時間も経ったような気もするし、何分しか経ってへんかも知れん。
もしかして、目のほうが見えんようになったんかとも思う。目の辺りを触ってみたけど、特に痛いとかはなさそうや。
それにしても、なんでこんなとこにおるんやろか……?




