11、追跡と模索と
賊や密航者が入るのを阻止するためか、おいそれと船に乗り込めないほど見張りが多い。とても無断で乗り込めそうにない。
結局、港に積まれている荷物に紛れ込むことにした。ちょうど入り込める余裕がある箱を見つけた。一つに一人ずつ、それぞれが入るという算段だ。
ジェンスは、それさえも、理由をなんだかんだと付けて拒否しやがったが、泳ぐよりマシだと思ったらしく、仕方なく箱に入った。フタを閉じるまで「無茶」だの「無理」だの、ぶつくさ言っていた。フタに釘でも打って、永久に開かないようにしてやりたい気分だ。
荷物に紛れて息を潜めていると、足音がした。気配が近づいてきたかと思やぁ、ぐっと持ち上げられる感覚があった。中身を疑わず、積み荷だと思ってくれたらしい。あとは、命運を天に任せるしかない。中を調べられたりでもすりゃ終わりだ。
「この箱、なんか見た目よりも重いなァ」
人夫の若い男の声が聞こえた。
「つべこべ言わず、ここにあるのを全部積み込みゃイイんだよ」
もう一人が応える。
ジェンスも巧くいっているだろうか。ジェンスは造花の入った箱、俺は服の入った箱に入っていた。その中で、ひたすら息を殺して動かずにいた。
しばらく、板を踏みしめる音が聞こえ、急に身体が宙に浮いたような感覚になったかと思うと、地面に打ちつけられた。
乱暴に投げやがったんだな。怒れる筋合いじゃあなかったが、腹立たしい。おかげで身体のあちこちを打った。ガラスや陶器の入った箱だったら献上品が割れているところだぞ。あいつら、馬鹿じゃないのか。
息をひそめていると、やがて出航を告げる銅鑼が聞こえてきた。
箱の隙間から明かりが見えないから、おそらく暗い倉庫のような所に置かれたであろうと確信する。念には念を、辺りに人の気配がないかも耳を澄まして探る。どうやら人気はないようだ。
まるで棺の中にいるようで不快な箱のフタを開け、起き上がる。
辺りは薄暗い。壁板の隙間から見える小さな光で、部屋の外が明るいことがうかがい知れる。どうやら貨物室のようだ。木箱や、天鵞絨の反物、高級な品が色々と並んでいるのが、薄暗がりでも見てとれる。誰もいないようだ。
「出てきてもイイぞ」
俺が声をかけると、側の箱がソッと開いた。
「うまくいったね」
箱から出たジェンスが服装を調えながら言った。
ゆったりとした揺れが身体全体に伝わってきた。
やがて日没を迎え、貨物室は完全に闇に包まれた。目立ちにくい部屋の隅に寝場所を決める。隅のほうは八つ足が出そうで不快だが、仕方がない。
帝国の港まで、どれくらいかかるのだろうか。途中、どこかに寄港するのか、どこを回るのかさえも分からない。乗り込んだものの、本当に帝国オデツィアに着くかどうかも分からない。
アルは、今ごろどこにいるのだろうか。帝国に着いたら、どういう扱いが待っているのだろうか。皇帝に処刑されるのだろうか。
アイツのことを何もかも分かっていたつもりだったが、本当は何も知らなかった。何も分かっていなかった。楽天的な外見とは裏腹に、文字どおり国章を背負って生きていたのだ。
なぜ、俺にまで女であることを隠していたのだろうか。心を開いてくれていたはずじゃなかったのか。
俺の兄が帝国に関わっているから、密告を恐れてか。だとすれば、俺は信用されてなかったことになる。アイツにしてみれば、俺は、それだけの存在でしかなかったのか。
時おり、木のきしむ音が聞こえる他には波も風も静かだった。目を開けても閉じても闇しかなかった。揺れが眠気を誘う……。




